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【自閉症児の人間関係の育て方】児童期の発達段階を通して考える

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自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、〝社会性の障害″〝コミュニケーションの障害″〝こだわり行動″を特徴とする発達障害です。

著者は長年、療育現場で未就学児から小学生を対象に療育をしてきています。

その中で、自閉症児への支援において、〝人間関係″の力を育てることはとても大切なことだと実感しています。

 

それでは、自閉症児の人間関係を育てる上でどのような視点が大切になるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症児の人間関係の育て方について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、児童期の発達段階を通して理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.」です。

 

 

自閉症児の人間関係の育て方について:児童期を例に

はじめに、自閉症の〝児童期″の特徴と、この時期に重要となる視点について簡単に見ていきます(以下、著書引用)。

ASDの子どもの児童期は、できることが増し、活動範囲が大きく広がる分、こだわり行動も急拡大する時期にあたります。

 

児童期は、提示された課題を見て、聞いて、操作して、達成感や自信を得て、人への信頼感を高めていくための「人とのやりとり」が重要となる時期なのです。

 

著書の内容から、自閉症の〝児童期″の特徴として、できることや活動の幅が広がると同時に、〝こだわり行動″も非常によく見られるようになります。

〝こだわり行動″が強くなる一方で、学校の行事など、イレギュラーな場面も増えていきます。

著者の療育現場では、学校行事前になると落ち着かなくなる児童はよく見受けられます。

こうした特徴を踏まえて、〝人間関係″の力を育てていくことが重要だと考えられています。

〝児童期″になると、様々な課題の提示に応えるなど、〝人に合わせて行動する力″がさらに必要になるからです。

そして、〝人との関わりの中で自信と信頼を獲得すること″が〝児童期″にはとても大切な発達課題であると著者は感じています。

 

 

人間関係を育てる上での8つのポイントについて

それでは、次に〝人間関係″の育て方について〝8つのポイント″について、著者の経験や考えなども交えながら見ていきます(以下、著書引用)。

①好きな物のリサーチ

②おもちゃ教材によるやりとり

③すぐ誉め、褒め続ける

④課題は連続提示

⑤他者を知り社会を知る

⑥協働作業から共同、集団へ

⑦ごっこ遊びの導入

⑧時間を意識し、やり抜くことを知る

 

著書には、以上の〝8つのポイント″が記載されています。

まずは、①の〝好きな物のリサーチ″は自閉症児への支援ではとても大切です。

自閉症児の遊び・活動の特徴として、興味関心が非常に限定している場合が多く見られます。

また、興味関心が〝人″よりも〝物″である場合がよく見られます。

そのため、人への関わりを増やしていくためにも、その子の興味関心の把握が必要不可欠です。

そして、興味関心の把握は、次の②の〝おもちゃ教材によるやりとりの基盤になると思います。

また、③の〝すぐ誉め、褒め続ける″ことも、大切です。

自閉症児は活動や生活の中でうまくいかないことがよく起こります。そのため、小さな成功などをよく観察して〝褒める″ことが、大人との信頼や本人の自信に繋がっていきます。

④の〝課題は連続提示″に関しては、自閉症児は自分の興味関心があるものは没頭する傾向がある一方で、興味がないものには注意の維持が難しいことがよくあります。

そのため、興味がうすい課題(必要となる課題)はできるだけ短く・連続性を持たせた対応が大切だと著者も感じます。

⑤の〝他者を知り社会を知る″については、課題や興味関心を通して他者との関わる頻度を高め、その経験が社会を知ることに繋がっていきます。

この点に関しては、著者は〝遊び″の中で子どもの興味関心を活用することで、自閉症児が他者と繋がる体験を持つことで、少しずつその子の内部が広がっていくことの実感をこれまで多く経験してきました。

⑤に引き続き、⑥の〝協働作業から共同、集団へ″も〝遊び″を通してよく見られます。

自閉症児は、特定の〝遊び″を通して他者と一緒に取り組んだ経験をもとに、徐々に目標・目的に向けて互いに力を合わせたり、役割分担して取り組むなど、〝共同・集団″の意識が高まっていくことを、現場を通して感じることが多くあります。

中でも、〝共同・集団″の力を高めていく上での格好の〝遊び″は、⑦の〝ごっこ遊びの導入″だと感じています。

もちろん、〝ごっこ遊び″には、ある程度の認知能力や社会性が必要です。

こうした能力の基盤がある程度整っていれば、後は関わり手が他児同士をファンタジーの世界に誘導していくことで、少しずつ〝ごっこ遊び″が発展していくことがよく見られます。

最後の⑧の〝時間を意識して、やり抜くことを知る″では、本人の頑張りが必要となる課題に対して、〝終わりが告知されている″ことが大切だと感じています。

つまり、〝時間″による提示を事前に行い、その時間内に〝注意を維持できた″〝やり抜くことができた″といった力を磨いていくこともまた大切な関わりだと思います。

 

 


以上、【自閉症児の人間関係の育て方】児童期の発達段階を通して考えるについて見てきました。

学童期の時期になると、活動・生活の範囲、人との関わりなどが増えていきます。

その一方で、こだわり行動も増大するため、少しずつでも〝人間関係″の力を育てていくことが必要です。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も今現在関わっている学童期の子どもたちの人間関係の力を高めていけるように、日々の実践を大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

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白石雅一(2024)おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育~親・保育園・幼稚園・学校・児童発達支援・放課後等デイサービスのためのガイド~.東京書籍.

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