私たちの生活の中でよく使われる言葉に、「木を見ず森を見る」という言葉があります。これは文字通り、物事の全体を見るということを指します。
自閉症児・者にはこうした全体を把握したり、理解するということが苦手な人たちが多くいます。まさに、「森を見ず木を見る」です。
私が関わっている自閉症児・者の中にも、物事の全体を見るよりも細部にこだわるという方々が多くいます。
例えばですが、私たちは公園を見たときに、滑り台やブランコ、砂場など全体を見て公園と判断していると思います。自閉症児などでは、その中の一部、例えば、滑り台を見て公園と認識している人もいます。
このように、私たちの生活において、ある物とある物とを関連づけて全体として○○という理解をしている場面が多くあります。
自閉症児・者は、こうした理解を苦手としています。このように、物事の全体を見ることを中枢性統合(central coherence)/全体的統合(central coherence)と言います。
今回は、自閉症の中枢性統合についての概要と、私がこれまでの経験で見てきた中枢性統合に関する具体的なエピソードについてお伝えしていこうと思います。
今回参考にする資料として、別府哲・小島道正編著「「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援」を参照していきます。
中枢性統合(全体的統合)について
まずは、中枢性統合(全体的統合)についての説明です。
中枢性統合(central coherence)とは、物事の全体的な意味をつかもうとする認知的傾向のことを指します。
定型発達児は、情報を部分で見るより全体として見る傾向が強く、一方、自閉症児は、全体よりも部分に注目する傾向が強いことから、こうした傾向を、「弱い中枢性統合(weak central coherence)」仮説と呼びます。
こうした中枢性統合に関して、参考資料から興味深い事例(自閉症児の)が記載されていました。以下に簡単にお話します。
事例に紹介されている知的に遅れのない自閉症児のヒロオ君は、通常学級の3年生です。
ヒロオ君は、成績はいいが、友だちはほとんどいなく、休み時間には一人で過ごすことが多くありました。
そんなヒロオ君ですが、クラス担任は彼の休み時間のある行動が気になり、スクールカウンセラーに相談したという内容です。
ある行動とは、「休み時間に一人で、同じ漫画の同じ部分を一人でブツブツ笑みを浮かべながら読んでいる」というものです。
クラス担任は、同じ漫画の同じ個所を繰り返し読んでも面白くないのではという違和感を持ちました。
といった内容です。
この事例に出てくるヒロオ君の行動は、「弱い中枢性統合」によるものだと考えられます。
こうした自閉症の行動特徴を理解することで、私たちの当たり前がそうではないという気づきに繋がります。
著者の体験談
次に、簡単にではありますが、私の経験の中で感じた中枢性統合に関する(弱い中枢性統合)エピソード(遊び場面)をお伝えします。
まずは、自閉症の小学生男子A君です。A君は、幾何学図形や幾何学模様が好きです。そのため、そうした図形に関する本を見たり、道路標識などを見て、名称を一つひとつ覚えることが好きでした。
そしてA君は、よく私に対して、自分で問題を作成し(標識に関する)採点をするという遊びを好みました。私は、そうした問題が面白いというよりも、A君の興味を知るということで、彼と繋がりを持てたことが大きな喜びでした。
ちなみに、問題のレベルは難しかったので、毎回、宿題という形で提出しました(笑)
次に、自閉症の小学生男子B君です。B君はゲームが大好きでした。ゲームの攻略本について大人と話すことを好んでします。
その時話す内容が、ゲームの全体的な話ではなく(○○はこういうゲームなど)、例えば、キャラクターの話、武器の話、技の話などカテゴリー的な話(部分的であり、非常にマニアック)が多いです。
最初は、突然、話しかけてくるA君の興味の内容に関して理解するのが難しかったですが、繰り返していくことで、少しずつA君の興味や認知的傾向などが理解できるようになりました。
このように、自閉症の人には「弱い中枢性統合」が見られます。
自閉症の人のこうした特性を知ることは、自閉症について知るということだけではなく、我々人間の情報処理の仕組みを理解することにも繋がります。
今後も、現場での経験と知識を共に学び続けながら、人への理解を深めていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
別府哲・小島道正(編著)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.