〝足場づくり″とは、〝発達の最近接領域″に対して、大人(他者)が支援することを意味しています。
例えば、一人で課題解決が難しいことに対して、大人と協力すれば課題を解決できることに対して、大人が支援していくことです。
つまり、大人が支援・手助けすることで、子どもが将来的に独力でできるように導く方法です。
療育現場には子どもが独力では課題解決が難しい場合が多くあります。
そのため、支援の観点で大切になることは、大人が少し協力することで課題が解決できるような課題設定と、その中での支援方法を工夫していくことにあります。
それでは、療育現場において、足場づくりの視点からどのような支援内容があると考えられるのでしょうか?
そこで、今回は、療育で大切なことについて、臨床発達心理士である著者の経験談を元に、足場づくりの視点から支援について理解を深めていきたいと思います。
〝足場づくり″からみた支援について
それでは、著者の療育での〝足場づくり″の例として、以下〝5つの領域″に分けて見ていきます。
1.運動領域から見た足場づくり
運動機能には、大きく〝粗大運動″と〝微細運動″とがあります。
著者は〝手の運動(微細運動)″が苦手な子ども、例えば、ハサミをうまく使うことが難しい子どもに対して、以下のような関わりをしたことがあります。
まずは、感覚遊び(例えば、粘土など)などで手を使う経験を増やしていきました。
そして、ハサミを使う際にどこまでできてできていないのかアセスメントを行いました。
その子の場合だと、ハサミで紙を切ることはできましたが、自分がイメージした形に切ることができないため、線を引いて切りやすくするなどの支援を行いました。
線があることでその子は線に沿って紙を切ること(自分が望む形を作ること)が少しずつできるようになっていきました。
2.認知領域から見た足場づくり
認知とは物事を知る働きの総体を言います。
その中で、〝ワーキングメモリ″といった〝記憶(作業記憶)″に関するものも認知機能の一種です。
発達に躓きのある子どもたちの多くはワーキングメモリの機能がうまく働いていないことがあります。
例えば、著者が関わったことのある子どもの中には、他者が伝えた事を直ぐに忘れてしまうケースがありました。
そのため著者は、紙に書いて伝える、言葉で伝える際には最大3つ程度など分量を少なくして短く簡潔に伝えるようにしました。
その結果、著者が言ったことを記憶に留めている様子が多く見られるようになっていきました。
3.言語領域から見た足場づくり
言語とは大きく理解の側面と伝達の側面があります。
中でも、〝ディスレクシア(読み書き障害)″のある子どもと関わった際には、読みに対して多大な負荷がかかっているのだと感じ取ることができました。
そのため著者は、読みへの負荷を減らす方法を工夫していきました。
例えば、映像で理解する方法、音声入力による理解を促す方法、文章全体の概要を最初に伝えるといった工夫を行いました。
その結果、読解への負荷が軽減され、学びたい対象の理解が促進されるようになっていきました。
4.社会性の領域から見た足場づくり
社会性とは、簡単に言えば、人とうまく関わる力のことを指します。
発達に躓きのある子どもたちの多くは他者との関わり方に困り感を持つ場合がよくあります。
例えば、他者の気持ちの理解が難しい(〝心の理論″に課題がある)子どもの場合には、以下のような支援を行ったことがあります。
他者が置かれている状況を踏まえて、言葉で論理的に他者の思いや気持ち、意図を伝えていくといった方法です。
こうした方法を取っていくことで、少しずつ他者が自分とは異なる様々な思いや気持ち、意図があることへの理解が深まっていったケースも多くありました。
5.情動の領域から見た足場づくり
人には、喜怒哀楽など様々な情動があります。
著者がこれまで見てきた子どもたちの中には、自分の〝感情をうまくコントロールできない″ケースがよく見られました。
例えば、すぐにかっとなる、イライラすると物や人にあたる、暴言を吐く、など他者とのトラブルや器物破損に繋がる行為です。
こうしたケースに対して、著者は落ち着けるように環境を調整していきながら、落ち着いたら自分の気持ちを振り返ること(言葉にする、紙書くなど)、などの支援を行ったことがあります。
その結果、自分がなぜイライラしているのかをうまく言葉で表現する様子が見られるようになり、それに伴い、感情のコントロールがうまくできるようになっていった事例も多くあります。
以上、【療育で大切なこと】足場づくりの視点から支援について考えるについて見てきました。
足場づくりは、療育現場以外でも、子どもと関わることのある人は、意識的・無意識的かは別として、様々な場面で見られるものだと思います。
子どもたちは、何かを学ぶ際に、大人が足場を作ることでより高い地点へと向かうことができるようになっていきます。
特に、発達障害など発達に躓きのある子どもたちは、定型発達児以上に多くの足場づくりが必要です。
そのため、発達特性や発達の順序・方向性などの理解が重要になります。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちに適切な足場を作っていけるように、自分の関わり方を絶えず見つめ直していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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