自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、対人・コミュニケーションの困難さやこだわり行動を主な特徴とする発達障害です。
自閉症児は小学校高学年頃から周囲との違いに気づきはじめていくと言われています。
周囲との違いの中で生じる漠然とした不安感や自分とは何者なのか?という問い、そして、自己を否定的に見ることで生じる自尊心の低下や二次障害へのリスクもまたこの時期に高まっていきます。
自尊心の低下や二次障害へのリスクを回避するためには、〝自己理解″が一つのキーワードになります。
それでは、自己理解への支援には、どのような点が大切になるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症児への自己理解の支援について、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「藤野博(2023)自閉症のある子どもへの言語・コミュニケーションの指導と支援.明治図書.」です。
自己理解の支援について:リフレーミングを例に
以下、著書を引用しながら見ていきます。
他の子との違いを受け入れるには適正な自己理解が必要です。自分の能力の高低を他の子と比べて評価するのではなく、自分の特徴を中立的に認識することです。そのためにはリフレーミングが役立ちます。それは物事の良い面を見ようとする認知の構えです。
著書の内容から、〝自己理解″の支援で大切になるのが、〝リフレーミング″の視点です。
〝リフレーミング″とは、物事の良い面を見ようとする認知の構えです。
例えば、クラスメイトに話しかけるも反応が乏しい→自分はクラスメイトから全員から嫌われているかもしれない。
この例に〝リフレーミング″を活用すると、話しかけたクラスメイトが他のことに意識が向いていたかもしれない、他のクラスメイトは自分を嫌っているとは限らない、などと認知を良い方向へと修正させていく方法です。
私たちも、日常の中で、意識的・無意識的に〝リフレーミング″を多く活用しているかと思います。
自閉症児は、発達特性が持つ脳の偏りが影響して、自分を客観視することが難しいため、信頼のおける他者の力を借りながら〝リフレーミング″を行うことが〝自己理解″を深める上ではとても大切です。
〝リフレーミング″を進めていくにあたり、著書には自分の特徴を紙に書き出し、一つひとつメリット・デメリットを考えていくことが有効であると記載されています。
〝自分の取説″を作っている方もおりますが、自分の取説を作る上でも、〝リフレーミング″の視点はとても大切です。
著者のコメント
著者はこれまで多くの自閉症児・者と関わってきました。
その経験を踏まえると、確かに小学校高学年頃から〝自分とは何者か?″といった漠然とした問い、つまり、周囲との違いを感じはじめるようです。
そして、この時期に過度に周囲に合せようとする〝過剰適応″の状態に陥ったり、失敗経験が積み重なることで生じる〝自尊心の低下″も多く見られます。
これらは、〝二次障害″といった不安障害やうつ病のリスクを高めることに繋がっていくと思います。
これらの状態は、自然と時間が経てば状態が改善することは難しいように思います。
マイナスな〝自己イメージ″は雪だるま式に増大していく可能性があります。
こうした状態を回避するためにも、できるだけ早期から自閉症といった発達特性への理解や配慮を受けることができる環境に身をおく必要があります。
周囲に困った時に相談できる信頼のおける相手が一人でも多くいることが大切です。
そして、自己への気づきが深まってきた頃には、今回見てきた〝リフレーミング″の方法を活用することも有効であると思います。
そのためには、ある程度、言語能力が育っていること、集団活動の経験があること、集団活動を通して周囲と自己の違いを漠然とでも理解していることが前提として必要だと思います。
そして、大人になるに従い、〝自己理解″を深め、他者に自己を理解してもらうためにも、〝自分の取説″を作ってもいいかもしれません。
発達障害であろうとなかろうと、私たちの多くは、自分とは何者か?自分にはどのような特徴(性格・能力)があるのか?といったことに向き合う日がくると思います。
以上、【自閉症児への自己理解の支援】発達障害児支援の現場を通して考えるについて見てきました。
発達障害とは脳の個性です。
定型発達とは異なる脳の個性を否定せずに(厳密にはすべての脳は多様です)、うまく〝リフレーミング″を活用しながら、〝自己理解″を深めていくことが社会で生きていくためには大切なのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も私自身も自己理解を深めていきながら、自分の個性に向き合っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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