発達支援の現場で、人との関係をつくることに難しさをもつケースがあります。
その中には、愛着に問題を抱えている場合もあるなど、非常に理解と支援をしていく上での難しさを感じます。
一方、大人との信頼関係ができてきたお子さんは非常にアクティブに活動するなど、生き生きとした様子や自分を肯定的に受け止めることが増えたケースも見られます。
今回は、関係性の基礎となる愛着について、そもそも愛着とは何なのか?について説明していきながら、私の個人的な見解も踏まえて、愛着の重要性を発達支援の現場から考えていきたいと思います。
今回参考にする資料として、「米澤好史(2015)発達障害・愛着障害 現場で正しくこどもを理解し、こどもに合った支援をする:「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム.福村出版.」を参照していきたいと思います。
愛着について
まず、愛着について簡単にお伝えしていきます。
愛着(attachment)を提唱したのは、ボウルビィ(Bowlby.j.)という人物です。
ボウルビィは、愛着を「特定の人に対する情緒的な絆」と定義しています。
愛着機能について
そして、愛着の機能として次の2つが大切であると考えています。
1つ目は、安全基地機能です。これは、恐怖や不安を感じる危機的場面での確実な避難場所としての機能を指します。
2つ目は、探索基地機能です。これは、危機がない時にもいつでも逃げ込める安全基地を感じつつ外界の探索をするという機能を指します。
子どもは養育者など、重要な人物との関わりを通して、困ったときに逃げ込める場所(重要な人物)、そして、その安全な場所を基点に探索空間を広げていきます。
ここで大切のは、こうした重要な人物との愛着形成には、関わった時間ではなく、どうかかわったか、子どもをどう受け止めたかという質が重要であると考えられています。
こうした関わりを通して、子どもの中に、重要な人物が内在化されていきます。
つまり、重要な人物が「心の中にいる」という安心感が芽生えてきます。
こうした感覚があることで、先ほど述べた探索機能がさらに拡張し、養育者が近くにいなくても、様々なことに挑戦できるようになっていきます。
愛着とは、以上述べた人間が生きていく上で非常に重要な影響を生涯にわたって及ぼすとされています。
愛着に問題があると、安心感という感覚が希薄になり、常に周囲の人の様子を気にする場合や、人との距離を無意識的にとるなど回避行動が見られると言われています。
さらに、もう一つ、愛着形成上重要と言われていることとして、愛着形成は「1対1の関係」からこそ形成されると考えられています。
ですので、多くの集団に入れることで愛着の問題が改善されるというのは間違った考え方になります。
以上、愛着について簡単に説明してきました。
著者の体験談
ここから先は、発達支援の現場から愛着の重要性を考えていきたいと思います。
私はこれまで児童相談所や療育施設、放課後等デイサービスなどの現場で多くの子どもたちと関わってきました。
その中でも、愛着に問題を抱える、あるいは、愛着の問題が想定される子どもが理解や支援を考え行う上で非常に難しいケースと感じる機会が多くありました。
例えば、一度、関係がうまくできてきたと安堵すると、何かの拍子でまた元に戻ったり、急に挑発的な態度を示したり、ベタベタ甘えてきたりなど、支援をしていく中で前進する感覚が得にくいことがあります。
子どもに愛情をもった関わり、楽しく関わるという考えでは、彼らの困難さを理解した支援に繋がることは難しく、精一杯やっても振り出しに戻るという感覚があります。
ですので、こういったケースに対しては、一人ではなく複数の人たちと協力しながら、長期的な取り組みを心掛ける必要があるかと思います。そして、愛着に関する専門的な知識も大切だと感じます。
こうした愛着に問題を抱えたケースだけではなく、大人との信頼関係ができてきたことにより、子どもの姿が非常に変化したケースもあります。
例えば、特定の大人と会えること、遊べることがとても楽しみになったことで、人との関わりそのものが前むきになったお子さんもいました。
こうした例を想起すると、改めて愛着の持つ意味の深さを実感します。
関わる大人は、子どもたちとより良い関係をつくっていきたいと考えていると思いますし、できれば行ってきた取り組みが良かったと振り返りたいはずです。
現場でできることは限られてくるかもしれませんが、その中で、できることはやってきたと思えるように、今後も愛着という視点も発達支援の現場の中にしっかりと取り入れていきたいと思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
米澤好史(2015)発達障害・愛着障害 現場で正しくこどもを理解し、こどもに合った支援をする:「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム.福村出版.