「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の人たちは、心の理論の獲得に困難さがあると言われています。
著者は療育現場で多くの自閉症の人たちとの関わりがあります。
その中で、心の理論への支援はとても大切であると感じています。
それでは、自閉症の人を対象とした心の理論への支援にはどのような視点が大切だと考えられているのでしょう?
そこで、今回は、心の理論から見た自閉症への支援について、臨床発達心理士である著者の療育経験も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生・郷式徹(編)(2016)心の理論 第2世代の研究へ.新曜社.」です。
心の理論から見た自閉症への支援について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
情動共有経験は、自閉スペクトラム症児者が喜んだり悲しんだりするもの(対象、感覚、状況、刺激など)に周囲の大人が寄り添い共に情動を表現することで保障することは可能となるはずです。そしてそれが、自閉スペクトラム症児者においても、心の自動的処理をその後も形成できる可能性を引き出すことが示唆されています。
著書の内容では、自閉症児者と情動(喜怒哀楽など)を共有していくことで、心の自動的処理の育ちに寄与すると考えられています。
心の自動的処理とは、情動や身体模倣といった人と人とが通じ合う原初的体験(身体的体験)のことであり、別の用語では〝直感的心理化″や〝暗黙的心理化″などとも表現されることがあります。
そして、心の自動的処理が育つことは、〝心の理論″の育ちに大きく貢献すると考えられています。
つまり、自閉症の人たちの〝心の理論″の獲得は、言語発達に伴う〝命題的心理化(言語によって論理的に他者の心の状態を理解すること)″が中核を成しているため、本来苦手とされる心の自動的処理が育つことで、直感的・感覚的に他者の心の状態を理解する力も養われるということに繋がっていきます。
著者の体験談
著者はこれまでの療育経験を通して自閉症児においても心の自動的処理が育ったと感じた経験が多くあります。
例えば、小学生のA君は、著者とのスキンシップなど身体的な遊びを通して楽しい・嬉しい様々な情動を共有する体験を積み重ねてきました。
その中で、著者の行為を模倣する様子も多くなってきました。よくやる遊びが、著者が面白いことを言ったら真似る、著者の動きを真似るなどがあります。
また、笑ったら笑い返すなど表情への模倣も増えてきました。
こうした経験の結果、これまで著者の行動や視線を見ることは少ないと感じていたA君でしたが、少しずつ、著者の行動や視線から心の状態を読み取ろうとする様子が増えてきました。
一番大きな変化として、著者の動きや注意を向けている対象をよく見るようになったこです。
著者が何かに気がつく様子を見ると、〝何?″〝どうしたの?″と声をかけてくることが増えていきました。
これは、A君が直感的に著者の心の状態が変化したことに気がつけるようになり、その上で、著者の心の状態を推論するようになったと考えられます。
このように、心の自動的処理は〝心の理論″の育ちに寄与し、心の自動的処理を養うためには、情動や模倣などの身体経験の共有がとても大切であると考えさせられたエピソードになります。
そして、自閉症児においても、興味関心を通した様々な情動経験を積み重ねていくことで人への関心が高まっていくこと、人の行動や視線に注意を向ける機会が増えていくということを実感することができました。
以上、【心の理論から見た自閉症への支援①】療育経験を通して考えるについて見てきました。
〝心の理論″の獲得には、様々な段階やプロセスがあります。
自閉症児者は定型発達児者とは異なる発達過程を見せると言われていますが、今回見てきた心の自動的処理への支援を行うことで、少しずつではありますが、〝心の理論″の育ちも進んでいくのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も人間の心の持つ不思議さに身を投じながらも、その中で得られた学びを療育現場に還元していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【心の理解の2種類の処理について】自閉症児者と定型発達児者との比較から考える」
子安増生・郷式徹(編)(2016)心の理論 第2世代の研究へ.新曜社.