「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。
著者は長年、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしています。
その中には、自閉症児など心の理論に課題を持っている子どもたちも多くいます。
それでは、心の理論は育てることが可能なのでしょうか?
そこで、今回は、心の理論の育て方について、臨床発達心理士である著者の療育経験も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.」です。
心の理論の育て方について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「心の理論」の発達は言語能力の発達を前提にしているから、子どもの言語能力そのものを育てることが重要であることは間違いない。
筆者が最も重要と考えているのは、「物語」を通じて、多様な人間関係のあり方を教えることである。ここでいう物語は、お話、絵本、小説、ドラマ、映画など、メディアの種類を問わない。
著書の内容から、〝心の理論″は言語能力と関連があるため、言語能力を育てるという視点が大切だとしています。
そして、言語能力を育てるためには、物語の力が重要だと考えられています。
小さい子どもであれば、大人が読み聞かせを行うことが有効であるとされています。
物語には、場面や文脈を通して、人物間の関係性を知っていきながら、一人ひとりが抱く様々な心を理解していく楽しさがあります。
心には意図、欲求、願望、信念、知識など様々なものがありますが、例えば、感情を例に見ても、喜怒哀楽など単純なものから、誇り、嫉妬、恥、共感など複雑なものまであり、物語を通して様々な感情を理解する力を育んでいくことができます。
著者の経験談
著者の療育現場には心の理論に弱さのある子どもたちが多くいます。
心の理論に弱さがあると、例えば、相手の意図や心情をうまくくみ取れずに相手との会話のターンテーキングがうまく行かず、一方的な話しをしたり、さらにその行動がエスカレートすると相手から気嫌いされてしまうこともあります。
しかし、当の本人はなぜうまく行かないのかがわからいといった心情だと思います。
そのため、著者は相手の意図や心情などを丁寧に伝えることを心がけています。
もちろん、相手の意図や心情の理解には言語理解の発達が影響するため、ある程度の言語能力が重要となります。
そして、言語能力を育てるためには、前述した物語の力をかりることも大切だと著者も実感しています。
物語の力は、実際の現実世界とは異なりますが、現実世界での対人場面で起こりうること、あるいは、起こっていることを理解する助けになると感じます。
実際に著者が見ている子どもたちの中にも、絵本やごっこ遊びなど、ストーリー性のある遊びを通して大人と豊富な会話を交わしていくことで、それが現実世界の理解に般化されていると感じる事例もあります。
例えば、Aさんの行動の意図が○○かもしれない、Aさんの身に○○があった際にAさんは○○の気持ちを抱いた、など物語を通して(ストーリー性のある遊びを通して)行っていたことが、現実場面においても同じような形で見られるようになったことから、少しずつ心の理論の力が物語の力をかりて身についていると感じるということです。
物語の力は単にひとりで獲得する部分もあるかもしれませんが、著者が思うに大人と物語を共有していきながら、物語に出てくる様々な人の心境を推測し子どもとの間で共有するという経験が大切だと思います。
発達に躓きのある子どもたちは、物事の見方が良い悪いは別にして偏ることがあります。
そのため、他者の心についても独特の見方をしている可能性もあります。
あるいは、他者の心という側面以外のことに注意が向いている場合もあります。
ですので、心の理解を育てるためには、関わる大人(大人に限定せずとも)が、人の心に注意を向けるような関わり方を大切にしていきながら、様々な人の心を推測するという経験を共有し積み重ねていくことが大切だと考えます。
以上、【心の理論の育て方について】療育経験を通して考えるについて見てきました。
心の理論を獲得していくことは世界の広がりを感じることでもあります。
自閉症などをはじめ、心の理論に弱さを持った人たちがいますが、それは決して、悪いことではありません。
また、心が理解できないということでもありません。
ただ、どこが独特な理解の仕方をしているということです(マジョリティ側から見て)。
そのため、支援において大切なことは、その人なりの物事の捉え方を大切にしていきながらも、他の物事の見方があるということを伝えていくことだと思います。
心という現象を伝えることは無限の情報量を扱うこともでもあります。
重要なことは、物語などを通して、心の理解を深めていくことで、相手のことが理解できるようになった、自分の気持ちが相手にうまく通じたなど、人とうまく関われるようになった、自分のことを相手が理解してくれるようになったという社会の中で生きやすさに繋がる経験を積み重ねていくことだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も心の理論の育て方について実践を通して学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【心の理論と言語能力の関係について】自閉症児との療育経験を通した関わりから考える」
子安増生(編)(2016)「心の理論」から学ぶ発達の基礎-教育・保育・自閉症理解への道-.ミネルヴァ書房.