自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の特徴の一つに〝こだわり″があります。
〝こだわり″とは、興味関心が限定されている、自分のやり方やペースの維持を優先するといった特徴があります。
また、〝こだわり″は生涯にかけてその対象を変えながら残り続けると言われています。
関連記事:「自閉症のこだわりはなくなるのか?-療育経験を通して考える-」
それでは、なぜ、自閉症に見られる〝こだわり″は、対人関係よりも自分の活動を優先するのでしょうか?
そこで、今回は、成人期まで続く自閉症の〝こだわり″について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、対人関係よりも自分の活動を優先する理由について考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.」です。
自閉症の〝こだわり″:対人関係よりも自分の活動を優先する理由
以下、著書を引用しながら見ていきます。
高機能自閉症の人や自閉症スペクトラムの特性が弱い人の場合、それなりに対人関係への関心は出てきます。それでも、対人関係への配慮よりも、やっていることを優先し過ぎてしまうという本能的志向は、成人期まで持続します。
自閉症スペクトラムの人たちは、成人期になっても、対人関係よりも活動そのものを図とすることに対する本能的志向が強いという特徴があります。
著書では、自閉症の人たちの〝こだわり″として、対人関係よりも自分の活動を優先する理由として、対人関係よりも活動そのものを〝図″とする強い本能的志向があると説明しています。
そして、〝多義図形″といった図を例に自閉症の対人関係について説明しています。
〝多義図形″とは、〝ルビンと壷″に代表されるように、壷が図となると、二人の人は背景となり、二人の人が図となると、壷が背景となる特徴があります。
つまり、人間には図として表面上認識できる点と、そうでない点(背景となる点)があるということを説明しています。
そして、これが、自閉症の対人関係のあり方にも当てはまるとしています。
つまり、自閉症の人たちは、興味関心のある活動が図となる傾向が強く、対人関係は背景となる本能的志向が特徴としてあるということです。
こうした特徴は、高機能自閉症や自閉症スペクトラムの特徴が弱い人にも成人期まで持続すると言われています。
定型児・者においては、図と地(背景)をその状況に応じてうまく切り替えることができます。
例えば、〝今は自分の活動よりも対人関係を優先した方が良い″〝今は自分の活動に専念しよう″といったように、バランスをとっています。
もちろん、こうした認知の違いはどちらが良いというものではなく、傾向として違いがあるということです。
〝こだわり″が強い自閉症児・者の中でも、その特性を活かして幸せに生活している方も多くいると思います。
著者の経験談
対人関係よりも自分の活動を優先する傾向は、著者が療育現場で関わる子どもたちや、当事者スタッフにも該当するところが多くあります。
こうした行動特徴は、〝こだわり″の理由や原因などを理解していないと、自分勝手な行動としてネガティブに見えてしまうこともあります。
以前の著者も、〝もう少し周囲のペースに合わせて行動して欲しい″〝もっとコミュニケーションを取りながら物事を一緒に進めていきたい″という思いを持っていました。
しかし、〝こだわり″への理解が深まるにつれて、それは、決して自分勝手な行為ではないという理解へと変わっていきました。
それは、本人がもともと持っている特性から生じるものだという理解です。
もちろん、こうした特性を頭でわかるのと、身体を持って腹落ちした感覚で理解していくにはだいぶ時間がかかったように思います。
以上、【成人期まで続く自閉症の〝こだわり″について】対人関係よりも自分の活動を優先する理由について見てきました。
自閉症児・者には様々な〝こだわり″があります。
そして、〝こだわり″には理由があるということです。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も相手の行動の理由や原因を理解していきながら、他者とより良い関係を作っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【自閉症の〝こだわり″の原因について】中枢性統合の視点から考える」
本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.