著者は、療育現場で、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの支援をしています。
発達に躓きのある子どもたちの中には、言葉の遅れや、特徴的なコミュニケーション様式を持っているケースもあります。
例えば、自分の興味・関心を一方的に話す、相手の意図がうまくくみ取れずうまく会話が成立しない、あるいは、相手にマイナスとなる内容のことを話してしまうなど様々あります。
コミュニケーションと言うと、AさんとBさんとのやり取りを連想した場合に、二者間(実際はそれ以上も含む)での情報の交換、気持ちの共有といった内容があります。
〝コミュニケーション″とは、もともとの語源はラテン語の〝comm″〝共に″といった意味があります。
つまり、ある出来事や体験を共有するということに本質的な意味があります。
それでは、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへのコミュニケーション支援ではどのようなことが重要になるのでしょうか?
そこで、今回は、共有世界から見たコミュニケーション支援の重要性について、著者の発達障害児支援の経験を通して考えを深めていきたいと思います。
共有世界から見たコミュニケーション支援の重要性
子どもたちは、情動の共有といった、大人⇔子ども間での関わりを通して共有世界を広げていきます。
情動の共有とは、表情や声のトーンなど人間の五感による相互交渉のことを意味します。
子どもは、大人が笑顔を浮かべ微笑み返す、高い声のトーンを出すと真似るなど表情や声を他者と同期する特徴があります。
こうしたやり取りは、逆に子どもから大人に働きかける場合もあります。
情動の共有を通して、意味の世界、言葉の世界が立ち上がっていきます。
つまり、コミュニケーションの背景には、他者と様々な対象や体験を共有していくことが基盤となっていると言えます。
そして、コミュニケーション支援において重要なことは、他者との間で様々な共有世界を体験していくこと、そこから、様々な意味を見出しながら〝生きたことば″を作っていくことにあります。
それは、自閉症など、発達に躓きのある子どもたちにおいても、同様に大切なことです。
著者の経験談
著者は長年の療育経験から、共有世界を経験していくことがコミュニケーション支援においてとても重要であると実感しています。
例えば、言葉をあまり話そうとしないA君を例に見てみましょう。
A君は、他児の遊びを遠目から傍観していたり、他児集団に入っていても、言葉は相手からの一方的なものであり、自分から話始めることはなく、うまく会話のキャッチボールが成立ない状態でした。
一方で、大人との間では、うまく会話のキャッチボールが成立しているため、ある程度、コミュニケーションをとる能力はあるを言えます。
もちろん、大人となら大人がA君の意図や気持ちを汲みとりながら(調整しながら)会話を進めることができます。
一方、対子どもとなると難しい要素が出てきます。
著者は、A君が興味のある活動と他児の興味のある活動とを繋いでいきながら、共有世界を積み重ねていけるような支援を行ってきました。
こうした経験は短期的には大きな変化はありませんが、中・長期的に見ると、大きな変化とも言える発達が伺えます。
それは、A君と他児の言動から見て取れます。
A君は、共有世界の経験(興味のある活動経験)を著者に嬉しそうに話してくることが増えていきました。
それは、楽しかった出来事、次回の活動への期待、だいぶ昔の過去の活動、他児の振る舞いや言動など様々あります。
こうした内容は、A君だけではなく他児にも同様に見られます。
そして、興味のある活動について、A君本人から他児に話しかけようとする様子も出てきました。
こうした療育経験を通して、著者は、コミュニケーション支援とは、会話のスキルを教えること以上に、他者との間で様々な共有世界を作っていくことがとても重要であると実感できるようになりました。
共有世界から生まれた言葉・語りは〝生きたことば″となって生涯その子の中に残り続けるものであると感じます。
以上、【共有世界から見たコミュニケーション支援の重要性】発達障害児支援の経験を通して考えるについて見てきました。
ここで最後に大切な点を補足すると、共有世界はその人にとって〝この世界は楽しいものであるという実感″、〝他者との繋がりは楽しく大切であるという実感″をその人なりに学んでいくことだと思います。
こうした実感を少しでも子どもたちにもってもらえるように、今後も日々の療育現場を楽しいものにしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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