発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

スクリプト 発達 言語

【〝スクリプト″から見たことばの発達】療育経験を通して考える

投稿日:2023年3月17日 更新日:

人は他者と様々な経験を共有していく中でことばを獲得していきます。

ことばを獲得し、他者との間でコミュニケーションが増えていく中で、ことばの発達の重要な指標に〝スクリプト″といったものがあります。

〝スクリプト″とは〝ある出来事に対するまとまった知識″のことを指します。

例えば、学校の掃除をイメージすると、様々な役割分担がありますが、雑巾がけの役割を例に上げると、バケツと雑巾を準備する→椅子と机を後ろに移動する→雑巾がけをする→椅子と机を前に移動する→雑巾がけをする→雑巾を洗う→後片付けを行う、といった一連の流れを経験のある人は思い浮かべることができます。

繰り返しになりますが、こうした〝ある出来事に対するまとまった知識″のことを〝スクリプト″と言います。

 

それでは、〝スクリプト″はことばの発達の中でどのような特徴があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、〝スクリプト″から見たことばの発達について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「秦野悦子(編)(2010)シリーズ子どもへの発達支援のエッセンス 第1巻 生きたことばの力とコミュニケーションの回復.金子書房.」です。

 

 

スポンサーリンク

 

 

〝スクリプト″から見たことばの発達について

以下、著書を引用しながら見ていきます。

知識化された一連のルーティンであるスクリプトがナラティブの基盤となることが示唆された。

 

〝ナラティブ″とは、〝語り″〝物語″のことを言います。

人は、様々な経験を〝ナラティブ″としてまとめ上げていきます。

例えば、小学校時代の楽しかった出来事や思い出、家族旅行について、困難を乗り越えたこと、など様々な〝物語″があります。

こうした〝ナラティブ″の基盤となるのが〝スクリプト″ということになります。

 

 


それでは、次に〝スクリプト″の特徴についてさらに具体的に見ていきます。

以下、引き続き著書を引用します。

子どもはスクリプトを基準にしてそれからの逸脱というかたちで、自己の過去経験を語り、スクリプトによって未来を語る。すなわち私たちが、「今、ここ」という目の前の制約を超えて、過去・未来へと、時空間を超えて自由に飛翔することができるようになるために、スクリプトは重要な役割を果たしているといえる。

 

著書の内容から、〝スクリプト″には、〝今、ここ″から逸脱し、過去や未来といった出来事を語るといった特徴があります。

子どもの頃は、誰もが〝今、ここ″の出来事・体験に夢中で取り組みます。

そして、言葉やコミュニケーション能力が発達していくことで、〝スクリプト″を獲得するようになると、〝今、ここ″という制約を少しずつ超えて物事を語ることができるようになります。

例えば、子どもが、「夏休みに○○に旅行に行く(未来の話)」、「この前、お友達のA君と○○遊びをして楽しかった!(過去の話)」など、〝今、ここ″を超えての語りが目立ち始める時期があります。

 

 

著者の経験談

著者の療育現場でも、子どもの〝スクリプト″による語りが見られることがよくあります。

例えば、以前行った○○遊びが楽しかった(過去)、明日○○遊びをする(未来)、など過去の出来事だけではなく、未来についても自分なりに〝スクリプト″を語る様子が見られます。

それは、〝ナラティブ″といったまとまった物語というレベルではないにしても、実際の体験をもとに過去や未来の内容が話の中に含まれていると感じることができます。

子どもたちが〝スクリプト″による語りをしている様子を見て、著者はことばとは、〝共有世界″で成り立っているということを強く実感しています。

つまり、子どもたちの〝スクリプト″による〝語り″の中には、これまで誰かとある世界(体験)を共有して楽しかった(他の感情も含め)という実体験が豊富に詰まっていると感じるからです。

そのため、〝スクリプト″は、一人で勝手に育つというものではなく、他者との共有世界を基盤として、その中での、気づきや発見、楽しいと感じたことなど、様々な要素が関連付きながら育っていくものだと思います。

実際に、子どもたちの〝語り″には、その時感じたこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、頑張ったこと、など様々な感情が体験と共に紐づいて語られているように思います。

そして、共有世界の楽しさを未来でも体験したという動機が働いていることも感じ取れます。

 

 


以上、【〝スクリプト″から見たことばの発達】療育経験を通して考えるについて見てきました。

〝スクリプト″とは、ある出来事に対するまとまった知識のことであり、〝ナラティブ″の基盤となるものでした。

そして、その特徴には、〝今、ここ″を超えて、過去・未来へと思いを膨らませて語る姿の原型があります。

〝スクリプト″といったことばの発達には、〝共有世界″の経験を他者との間で積み重ねていくことが大切です。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子どもたちとの〝共有世界″を大切にしていきながら、ことばの発達に少しでも貢献していけるように日々の実践を大切にしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【コミュニケーションとは何か?】共有世界の発達段階について考える

 

 


言葉の発達と理解と支援に関するお勧め書籍紹介

関連記事:「言葉の発達の理解と支援に関するおすすめ本【初級~中級編】

 

 

秦野悦子(編)(2010)シリーズ子どもへの発達支援のエッセンス 第1巻 生きたことばの力とコミュニケーションの回復.金子書房.

スポンサーリンク

-スクリプト, 発達, 言語

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【言葉の発達で大切な〝象徴機能″を育てるために必要なこと】療育経験を通して考える

言葉の発達で大切なものに〝象徴機能″があります。 〝象徴機能″とは、〝あるものを別のものに置き換える機能″のことを言います。 例えば、〝車″と言った際に、実際の〝車″のイメージを〝くるま″といった言葉 …

【人はなぜ〝うそ″がつけるようになるのか?】心の理論の発達から考える

「〝心の理論″とは、他者の意図、欲求、願望、信念、知識といった心の状態を推論する能力」のことを言います。 心の理論には、一次の心の理論から二次の心の理論へと発達していくなど、発達段階があります。 一次 …

【発達を理解することの大切さ】発達障害児支援の現場を通して考える

著者は長年、発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしてきています。 療育する立場として、子どもたちの〝発達″を理解した上で、支援をしていく必要があります。 もちろん、〝発達″を理解することは …

関係性の中で発達を捉えることの大切さ-療育経験を通して考える-

療育現場には発達に躓きのある子どもたちが多く通所しています。 その中で、著者がよく感じることは、子どもたち一人ひとりの成長・発達は非常に多様であるということです。 一方で、我々大人の多くは一般的な成長 …

【なぜ触覚の発達は大切なのか?】療育経験を通して考える

発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。 そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。 中でも、〝触覚過敏″の …