発達障害児・者へのコミュニケーションや社会性を向上させるための練習方法として〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″があります。
著者は以前、発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″を実施していたことがあります。
また、現在も療育現場で、子どもたちに〝ソーシャルスキル″を学んでもらうために日々取り組んでいる所もあります。
それでは、〝ソーシャルスキルトレーニング″で最も身につけたいスキルを一つ上げるとするとどのようなものが考えられるのでしょうか?
そこで、今回は、〝ソーシャルスキルトレーニング″で最も身につけたいスキルについて、臨床発達心理士である著者の療育経験を交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.」です。
〝ソーシャルスキルトレーニング″で最も身につけたいスキルとは?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
子どもに身につけてほしいソーシャルスキルとしては、いろいろあると思うが、私が思う究極のソーシャルスキルスキルとは、「援助要請スキル」である。「人に助けを求めること」、これは障害のあるなしに関わらず、また子ども・大人の区別なく、生きる上でとても重要なことだと思うからだ。
著書の内容では、〝ソーシャルスキルトレーニング″で最も身につけたいスキルは、〝援助要請スキル″といった〝人に助けを求める力″を上げています。
そして、〝援助要請スキル″は、障害の有無は関係なく大切であり、また、子どもから大人まで全ての人に共通して重要となるスキルだということです。
もちろん、〝援助要請スキル″は、〝ソーシャルスキルトレーニング″といった練習にも含まれているかと思いますが、練習の有無を問わずとも何らかの形で生きていくために身につけたいスキルだと言えます。
当然ですが、人は一人では生きていくことができません。
人に困ったことを相談したり、自分ができないことをお願いすることは、自分の弱さを見せることであり、抵抗感を持つ方もいるかもしれません。
また、どのように頼ればいいかがわからないといったこともあるかもしれません。
ここで大切なことには、自分ができること、できないことを自己認知していくことにあると言えます。
そして、〝人に助けを求める″ことで、人生が生きやすくなった、不安が減った、などの経験もまた必要なものになります。
著者も〝援助要請スキル″は非常に大切な〝ソーシャルスキル″だと実感しています。
それは、本当に困った状況の中で、〝助けて欲しい″と言えるか・言えないかで人生が大きく変わってくるからだと思うからです。
助けを求めるためには、もちろん、助けてくれる人が周囲にいる必要が前提にあります。
著者の療育現場で、安心できる子の多くは、著者に困ったことを相談しにきてくれたり、素直に助けを求めてくる子どもたちです。
逆に、不安視している子の多くは、困り感や不安感などのネガティブ感情を言葉にできない、そして、うまく伝えることが難しい子どもたちです。
以下、引き続き著書を引用しながら見ていきます。
しかしながら、このスキルを成人後に身につけるのはなかなか難しい。
著書の中では、〝援助要請スキル″を成人後に身につけることは難しいとしています。
人は自分の弱さをさらけ出すことを苦手としています。
そのため、子どもの頃から、〝人に助けを求める″ことを行っていないと、急に大人になってからでは難しいということです。
著者の療育現場では、周囲にお願いしたり、相談することを苦手としている子どもたちもいます。
こうした子どもたちを見ていると、うまく行っている時には非常に調子が良いのですが、そうでない時は、攻撃的になったり、マイナス感情に蓋をして一人で抱え込もうとするなどの特徴があります。
こうした状態が長期化すると、何に困っているのかを周囲も分からずに、改善策を講じることができずに、二次障害のリスクに繋がることもあります。
それでは、〝援助要請スキル″を育むためにはどのような方法があるのでしょうか?
最後に〝援助要請スキル″を育てるための方法を見ていきます(以下、著書を引用します)。
援助要請スキルを育てるやり方としては、我々の側からその子に援助を求めてみる、という方法を薦めたい。
これには二つの意味がある。一つは、援助要請スキルを求めるスキルの提供、もう一つは、自分は人の役にたてる存在なのだと思ってもらう機会を作ること、つまり、自己肯定感の形成にも役立つというわけである。
著書の内容では、〝援助要請スキル″を育むために、逆に周囲から援助を求めていくという方法があるとしています。
周囲から援助を求められることで、求められた人は、〝援助要請スキル″の一例を手本として提示される経験が増していくこと(スキルのモデリング)、そして、自分は人の役に立つ存在といった自己肯定感の高まりにも繋がっていきます。
著者の療育経験からも、〝援助要請スキル″の低い子どもに対して、逆に、お願いすることで自信がついてきたと感じるケースもあります。
こうした子どもは、自分が必要とされているという実感がモチベーションとなり(推測ですが・・)、人の役に立とうとする行動を見せることがあります。
そして、少しずつですが、著者に相談しにくることが増えたと感じることもあります。
以上、【〝ソーシャルスキルトレーニング″で最も身につけたいスキルとは?】発達障害児支援の現場から考えるについて見てきました。
〝援助要請スキル″は、人が生きていく上で必須となるソーシャルスキルだと思います。
一方で、このスキルを身につけることは簡単なようで難しいスキルだとも思います。
〝援助要請スキル″を身につけていくためには、単純にスキルを伝達すればよいというわけではなく、大人との信頼関係や自己肯定感の育ちなども大切です。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で、〝ソーシャルスキル″を含めた〝社会性″の育ちに少しでも貢献していけるような取り組みをしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「【発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング″で大切なこと】療育経験を通して考える」
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藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.