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【〝ソーシャルスキルトレーニング″で獲得したスキルを活用するために大切なこと】発達障害児支援の現場から考える

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発達障害児・者へのコミュニケーションや社会性を向上させるための練習方法として〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″があります。

著者は以前、発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング(SST)″を実施していたことがあります。

また、現在も療育現場で、子どもたちに〝ソーシャルスキル″を学んでもらうために日々取り組んでいる所もあります。

それでは、〝ソーシャルスキルトレーニング″で獲得したスキルを実際に活用していく上でどのようなことが大切になるのでしょうか?

そこで、今回は、〝ソーシャルスキルトレーニング″で獲得したスキルを活用するために大切なことについて、臨床発達心理士である著者の発達障害児支援の経験を交えながら考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.」です。

 

 

獲得したスキルを活用するために大切なこと

以下、著書を引用しながら見ていきます。

獲得したスキルをうまく使いこなすためには、「他者視点取得」と「共感的理解」、そして「自己肯定感」の3つがポイントだと考えている。

 

著書の内容から、〝ソーシャルスキルトレーニング″で獲得したスキルを活用していく上で大切なことは、「他者視点取得」「共感的理解」「自己肯定感」の3つがあるとしています。

これら3つの要素は、互いに独立して育っていくものではなく、相互に関連していきながら発達していきます。

中でも、共感性と他者視点は強い関連性があります。

例えば、クラス担任が生徒のAさんに〝共感的理解″を示していくことで、Aさんは、自分の思いが理解されたという経験が増し、こうした経験が感情の発達に繋がっていきます。

また、クラス担任がAさんに、様々な生徒の思いを言葉にして伝えていくことで、〝他者視点取得″といった自分とは異なる他者の心情の理解が深まっていきます。

自分の思いを理解されたという経験、そして、様々な人が異なる思いを持っているという実感が増えたAさんは、担任やクラスメイトの気持ちについても理解していこうという思いが生じていきます。

つまり、〝共感的理解″や〝他者視点取得″の発達に繋がっていきます。

また、クラス担任がAさんの頑張りや良い行動について、適切なフィードバックを与えることが、その後のAさんの〝自己肯定感″の育ちに影響していきます。

そして、〝自己肯定感″の育ちには、日頃、周囲から共感を持って関わってもらったという経験(〝共感的理解″の育ち)、そして、他者と異なる自己理解の育ち(〝他者視点取得″の育ち)もまた少なからず影響してきます。

 

 


以上に関連する内容として、著書の中でも、次のような記載があります(以下、著書引用)。

人への共感というものは、自分が人から共感された経験がないと生まれてこないだろう。

 

他者視点や共感の芽生えが出てきたとき、それを確実に拾ってフィードバックすることが大切なのだ。そのやり取りの中で、子どもたちは相手の立場になるということをだんだん身につけていく。

 

自分についてプラスのイメージを持てないと、SSTのスキルは使えないのである。

 

以上、〝ソーシャルスキルトレーニング″で獲得したスキルを活用する上で大切なポイントとなります。

 

 

著者の経験談

〝ソーシャルスキル″は、実際の生活の中で活用・応用できるために、先に見てきた、〝他者視点取得″〝共感的理解″〝自己肯定感″が育っていくことが大切だと著者も感じています。

著者は、療育現場の子どもたちに、大人や他児に自分の思いを伝えること、そして、相手の思いを理解するために、常日頃から、〝共感的態度″を前提として、大人や他児には様々な思いがあるということをできるだけ言葉にして伝えるようにしています。

こうした関わり方は、短期的には急激な変化はないかもしれませんが、中・長期的に見ると、次第に子どもたちの内部に〝共感性″、そして、〝他者の視点″が取り込まれていくように思います。

それは、子どもたちの言動や行動から読み取れることがあります。

例えが、○○君は今○○と考えているのかな?○○ちゃんはきっと○○という気持ちなのだろう、など他児の思いを読み取ろうとする言動が見られることがあります。

また、〝自己肯定感″が高まることで、相手を尊重する行動や言動が増えていくこともあるように思います。

以前は、怒られてばかりで自信がなかった子が、周囲から肯定的なフィードバックを受けた経験が積み重なることで、他児や大人を思いやる行動や言動が増えてきたと感じるケースもあります。

このように、〝ソーシャルスキル″は単純にスキルを獲得すれば活用できるというものではなく、スキルを実際に活用していくためには、〝他者視点取得″〝共感的理解″〝自己肯定感″の育ちが大切だと考えられます。

 

 


以上、【〝ソーシャルスキルトレーニング″で獲得したスキルを活用するために大切なこと】発達障害児支援の現場から考えるについて見てきました。

〝ソーシャルスキル″はただ単にスキルを練習すればよいというものではありません。

実際に活用できることで意味が出てきます。

そして、大切なことは、活用したいという動機があることだと思います。

こうした動機を育むために、今回取り上げた視点はとても大切だと感じています。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も〝ソーシャルスキル″を子どもたちに教えていく上で、その前提として人と関わりの楽しさを活動の中心に置きながら、共感、他者視点、自己肯定感などをキーワードに関わり方を工夫していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【発達障害児への〝ソーシャルスキルトレーニング″で大切なこと】療育経験を通して考える

 

藤野博(編)(2016)ハンディシリーズ 発達障害支援・特別支援教育ナビ 発達障害のある子の社会性とコミュニケーションの支援.金子書房.

-ソーシャルスキルトレーニング, 療育, 発達障害

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