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【〝社会性″の3つの〝発達段階″について】療育経験を通して考える

投稿日:2023年2月27日 更新日:

社会性″とは、様々な定義や表現があるかと思いますが、一つ定義を取り上げると、〝人とある対象を共有し、その共有体験を楽しむといった共同行為″だと言えます。

 

関連記事:「【〝社会性″とは何か?】療育で〝社会性″を育てるために大切なこと

 

〝社会性″の〝発達段階″には、一定の順序性・方向性があると言われています。

 

それでは、〝社会性″の発達にはどのような道筋があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、〝社会性″の3つの〝発達段階″について、臨床発達心理士である著者の療育経験も交えながら考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.」です。

 

 

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〝社会性″の3つの〝発達段階″について

著書の中では、〝社会的認知の発達″として、以下の3つの段階があるとしています(以下、著書引用)。

1.行動と情動の共有(0~8カ月)

2.目標と知覚の共有(9~12カ月)

3.意図と注意の共有(1~2歳)

 

 


それでは、次に3つの段階について、著書を引用しながら具体的に説明していきます。

 

1.行動と情動の共有(0~8カ月)

この時期には、身体や表情の同期、情動の交換が可能である。(中略)これらの行動は、子どもが、人が相互に生きた行為者(animate agency)であり、情動を共有できる存在であることを理解できていることを示している。

 

著書の内容から、この時期は、〝情動交流″の時期と言えます。

〝情動交流″とは、例えば、子どもが母親に笑いかけると母親も笑う、逆に母親が笑いかけると子どもが笑うといった表情の同期があります。

その他、母親が舌を出した表情をすると子どもも舌を出すなど、模倣とも言える身体の同期があります。

こうした身体や表情の同期により、お互いの情動が通底している感覚を得ることができます。

こうした状態のことが〝情動交流″や〝情動の共有″と言えます。

人は、〝情動交流″を通して、他者への意識を高めていきます。

 

著者の療育経験から言えば、喜怒哀楽、様々な情動を子どもたちと共有する経験を重ねていくことが大切だと感じています。

自分の様々な情動(感情)が相手に伝わった、受け止めてもらったという経験の蓄積は後の大人との信頼関係(愛着関係)や自己肯定感の高まりなどに繋がっていくと思います。

そして、人を介して世界をさらに広げていく次のステージへの動機づけになると考えます。

 

2.目標と知覚の共有(9~12カ月)

この時期には、相手が何をしようとしているのかといった相手の行為の目標を理解し、相手に応じたり、相手の行為を模倣したりすることが可能になる。また相手の注視した物を注視できるようになる視線の共有(共同注意)が可能になる。

 

著書の内容から、この時期は、ある対象を他者と共有するといった〝共同注意″が可能となります。

例えば、母親が外で走っている車を見ていると、母親の視線に気づいた子どもが車を見るといった、同じ対象(車)に注意を向けるなどがあります。

視線の共有は、言葉の理解や他者の意図・信念などの理解にも繋がっていきます。

例えば、先の例で言えば、子どもが車の方を指さして、「あ、あ、あ!」と言うと、母親が「くるまだね!」と答えることで、ある対象と言葉が結びついていきます。

逆に、子どもの好きな対象を母親が見つけ言葉や指差しで伝えることで、子どもは視線を共有するだけでなく、母親が目的をもって働きかけているという意図を理解していきます(○○君がすきな車が走っているよ→自分に教えよう・伝えようとしているなど目的をもって働きかけてくる存在)。

〝共同注意″行動は、トマセロという人物が考えたもので、〝9カ月革命″とも言われています。

〝共同注意″の発達は、後の他者の意図理解や〝心の理論″の発達にも繋がっていく重要なものです。

 

著者も療育現場で、様々な子どもたちとある対象を共有していくことで、その子の中での世界が広がってきたという姿を見てきました。

それは、食べ物や虫、電車や車など、その子の興味関心から始まり、興味関心を大人と共有していくことで(〝共同注意″を通して)、対象への理解が深まっていったというものです。

 

3.意図と注意の共有(1~2歳)

私たちが他者とある行為をいっしょにすることができるのは、相手の行為の目標を理解するだけでなく、お互いに相手のプランをも理解し、自分自身のプランに、相手のプランを協応(incorporate)させていく=「意図の共有」を行うことができるからである

 

著者の内容から、この時期は、相手の目標を理解し、それに応じてプランを変えていくといった〝意図の共有″が可能な時期と言えます。

意図には、目標と目標に向けたプランがあります。

つまり、ゴールがあり、ゴールに向けて、プランを調整していくということが意図には含まれているといことになります。

例えば、重たい荷物(たくさん本が入っている段ボール)を目的の部屋まで運ぶことについて考えてみましょう。

一人の場合には、荷物を荷台に乗せて運ぶ、あるいは、分けて運ぶなどの方法があります。

二人の場合には、荷物のどこを持つかを相談しながら(プランを立てる)、目的地まで運ぶ(目標・ゴール)ということが考えられます。

このように、〝意図の共有″には、目的地まで荷物を運ぶという目標(ゴール)と、荷物のどの部分を持つかとったプランを共有していく必要があります。

 

著者の療育現場では、例えば、〝集団遊び″を通して〝意図の共有″がよく見られます。

例えば、〝戦いごっこ″で敵役(著者)を倒そうとA君とB君とがチームになっていたとします。

この場合、A君とB君はお互い敵役を倒すという目標(ゴール)のもと、様々な戦術(プラン)を考えていきます。

このように、〝集団遊び″には、様々な〝意図の共有″が見られると感じています。

 

 


以上、【〝社会性″の3つの〝発達段階″について】療育経験を通して考えるについて見てきました。

こうして見ていくと、、〝社会性″の〝発達段階″にも、ある程度の節目、段階があるということがわかるかと思います。

療育で大切なことは、〝社会性″にも〝発達段階″があり、今関わっている子どもがどの段階にいるのかという理解を深めていくことだと思います。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も子どもたちの〝社会性″を育てていけるように、〝社会性″の〝発達段階″への理解も深めていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

長崎勤・中村晋・吉井勘人・若井広太郎(2009)自閉症児のための社会性発達支援プログラム‐意図と情動の共有による共同行為‐.日本文化科学社.

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