箸がうまくつかえない、食べ物をよくこぼす、字を書くのが遅い・汚い、ボールを投げたり・捕ったりするのが難しい、動きがぎこちない、自転車にうまく乗れないなど動きに関して困難さを持っている人たちのことを一般的には不器用と表現することがあります。
最近では、こういった人たちが社会生活を送る上での困難さなどから、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)という診断名がつくケースも出てきています。
それでは、発達性協調運動障害とはどのような特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、発達性協調運動障害の概念について説明していきながら、発達性協調運動障害の理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.」です。
発達性協調運動障害について
DSM-5によれば、神経発達障害のうち運動症候群における発達性協調運動障害という位置づけになっています。発達性協調運動障害とは、一言でいいますと、粗大運動や微細運動などの協調運動における発達障害とされています。
微細運動とは、細かい手の動きのことで、文字を書いたり、ハサミや箸の使用などが入ります。粗大運動とは、走ったり、自転車に乗ったり、縄跳びをしたりなど全身を使った運動になります。
こうした微細運動や粗大運動の苦手さは人それぞれ異なり、微細運動が顕著に苦手なケース、粗大運動が顕著に苦手なケース、両方苦手なケースなど様々なパターンがあります。
発達性協調運動障害は、小児期の頻度は5~6%、その中で50~70%と高い頻度で青年期・成人期になっても残存すると言われています。この数値をみると思った以上に高いと思われる方も多いのではないかと思います。
発達障害といいますと、自閉症やADHD、学習障害などをイメージされる方が多いのではないかと思います。
書籍や論文数を見ても、自閉症は非常に多く、次いでADHD、その下に学習障害となっているのが現状です。
発達性協調運動障害に関しては、これらの3つの障害よりも文献数などが少なく社会的に認知が低いといった現状にあります。
しかし、他の障害との関連も強く、発達性協調運動障害と併存しやすい疾患として、先ほど述べた自閉症やADHD、学習障害などが該当します。最近では、障害の併存といった視点も重要になってきています。
例えば、対人関係やコミュニケーションの難しさやこだわり行動などを特徴とした自閉症スペクトラム障害と、運動の困難さを特徴とした発達性協調運動障害の両方の診断名がつく場合もあります。こうした併存診断もDSM-5以降に可能となりました。
著者のコメント
ここから先は、私の個人的な意見も踏まえて不器用さや発達性協調運動障害といった運動の困難さについての考えと理解や支援の重要性について述べたいと思います。
まず、運動の困難さがこれまで日本であまり注目されなかった要素として(今も社会的認知度は高くはありませんが)、教育環境にあるのではないかと思います。つまり、学校での評価の多くが5教科など学力での比重が大きいことが、周囲の理解や認識の低下を招いている大きな要因だと思います。そして、就職までの道のりにおいても、評価の対象とはなりにくいことが考えられます。
私の周りでは大人になって、不器用など運動に困難さを持っている人たちも見られ、彼らは仕事上での困難さが顕著にあります。例えば、手作業が苦手、筆記が苦手、運転が苦手など様々なケースがあります。
こうした運動の困難さのある人たちの話を聞くと、子供のころから周囲からの理解や配慮などを受けてこなかった場合がほとんどです。学校の勉強とは異なり、それほどできなくても将来あまり困らないのではないか、大人になるにつれて問題がなくなるのではないかという周囲の認識があるのではないかと考えられます。
問題となるのは、できないという失敗経験の積み重ねによる自信の低下です。例えば、スポーツ競技一つとっても走るのが遅い、ボールの扱いがうまくいかないことはチーム全体に影響を与え、時には仲間はずれにされたり、自分から参加することを拒むことにも繋がります。
こうした失敗体験が積み重なると、徐々に体を動かす楽しさから足が遠のくことになり、健康維持のための運動やスポーツを純粋に楽しむことが少なくなるのではないかと思います。
かつて、自閉症への社会的な認知が進んだことで、発達障害への関心や理解が進んだと言われています。それはつまり、以前にも増して、対人関係やコミュニケーションが仕事など社会生活において非常に重要な要素を占めるようになったからだと思います。つまり、社会環境の変化も障害への理解と密接に関連しているということです。
体が資本と言われる現代社会において、当然、運動は重要です。体を使う機会や体を動かす楽しさを早いうちから阻害されないように、運動の困難さのある人たちに対して早期から理解と支援が必要になると感じます。
発達障害への関心が高まる中、今後ますます発達性協調運動障害といった運動の困難さへの理解と支援が拡充していくことを期待したいと思います。そして、私も発達支援の現場で運動に配慮した関わりが子供たちにできるように実践から得る学びを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.