知能検査で有名なものに、「ウェクスラー式知能検査(WISC:ウィスク)」があります。
著者は長年療育現場で発達障害児・者の支援に携わってきていますが、知能検査によって得られる理解も多くあるように思います。
それでは、ウェクスラー式知能検査とはそもそもどのような能力を測るものなのでしょうか?
また、検査結果が発達障害の理解と支援にどのように役立つのでしょうか?
そこで、今回は、ウェクスラー式知能検査について、臨床発達心理士である著者の見解も交えながら、検査で測れる能力と、検査結果が発達障害の理解と支援にどのように役立つのかについて考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「上野一彦・松田修・小林玄・木下智子(2015)日本版 WISC-Ⅳによる発達障害のアセスメント 代表的な指標パターンの解釈と事例紹介.日本文化科学社.」です。
知能とは何か?
それではそもそも知能とはなんでしょうか?
以下、著書を引用します。
「知能は目的を持って行動し、合理的に考え、効率的に環境と接する個人の総合的能力」と定義
この定義は、ウェクスラーによるものですが、知能の定義も様々であるため、統一することが難しいことが現状となっています。
そして、知能は様々な能力で構成されています。
また、知能検査も様々な人たちが開発・継承・改良などを加えながら徐々にアップデートを行っています。
ウェクスラー式知能検査は、知能検査の中では最もといっても過言ではないほど有名な検査であり世界中で活用されています。
ウェクスラー式知能検査(WISC)で測れるものとは?
それでは、ウェクスラー式知能検査で測ることができる能力にはどのような構成要素があるのでしょうか?
ウェクスラー式知能検査で測ることができる能力は大きくは〝言語理解“、〝知覚推理(知覚統合)”、〝ワーキングメモリー“、〝処理速度”の4つ(群指数とも言います)と、すべての得点を合計した〝全検査IQ“です。
私たちが、日常の中でIQという言葉を使うことがありますが、IQの測定にはウェクスラー式知能検査が多く活用されています。
検査結果を見る上でまず重要となるのが、全般的なIQの数値と、4つの群指数の値です。
全般的なIQは、平均を100として、多くの人が85~115の値の中にいます。
知的障害の一つの指標はIQもありますが(もう一つが、適応能力)、IQ:69以下から知的障害のゾーンとされています。
最近では、境界知能といったIQ:70~84のゾーンの人たちにも注目が集まっています。
関連記事:「境界知能とは何か?療育現場の実体験を通して考える」
全般的なIQに加え、4つの群指数に偏りがあるのかを確認することも重要です。
発達障害の人たちには群指数に偏りが見られることがあります。
しかし、偏りがあるからといって、イコール発達障害というわけではありません。
逆に、偏りがなくても発達障害という人もいます。
あくまで傾向の話ですので、発達障害かどうかには、医師による総合的な判断が必要不可欠です。
それでは、以下に、著書を引用しながらそれぞれの能力(群指数)について見ていきます。
全検査IQ(FSIQ)
全体的な知的能力(知能)の発達水準の推定をする。
言語理解指数(VCI)
言語理解能力を測定する。言葉の概念を捉え、言葉を使って推論する能力を測る。
知能推理指標(PRI)
非言語的な情報をもとに推論する力を測定する。新奇な情報に基づく課題処理能力を測定する。
ワーキングメモリー指標(WMI)
聞いた情報を記憶に一時的にとどめ、その情報を操作する能力を測定する。
処理速度指標(PSI)
単純な視覚情報を素早く正確に、順序よく処理、あるいは識別する能力を測定する。
以上が4つの群指数と全検査IQの説明になります。
昔は、これら4つの群指数の上位概念に言語性・動作性といった指標が活用されていましたが、現在はなくなっています。
知能検査が発達障害の理解と支援で役立つ視点
それでは、次にウェクスラー式知能検査が発達障害の理解と支援にどのように役立つのかについて、著者の見解を述べていきたいと思います。
知能検査が発達障害の理解と支援に役立つ点は多きくは以下の2だと感じています。
それは、1.発達特性以外に理解を深める視点の獲得、2.本人の強みと弱みが分かる、です。
1.発達特性以外に理解を深める視点の獲得
ASD(自閉症スペクトラム障害)やADHD(注意欠如多動性障害)といった発達障害には、様々な発達特性といった行動特徴があります。
ASDであれば、対人・コミュニケーションの困難さやこだわり行動、ADHDであれば、不注意・多動性・衝動性といった発達特性があります(発達特性を測る検査は別に複数あります)。
一方で、外の世界を理解する仕方は人によって特徴(違い)があります。それが、〝認知機能(認知能力)“です。
例えば、言語による理解が得意・不得意、目で見て情報を理解することが得意・不得意、記憶力が良い・悪い、作業スピード(目と手の協応動作)が速い・遅いなどがあります(これが群指数といわれるものです)。
こうした認知機能は、上記の発達特性では測ることのできない点も多くあるため(関連している点もあるかと思いますが)、発達障害など情報処理に偏り(凸凹)がある人たちを理解するためにはとても助けになると思います。
2.本人の強みと弱みが分かる
知能検査によってその人の群指数の偏りがわかり、それはつまり強みと弱みが分かることに繋がります。
例えば、言葉の理解の方が目で見て理解するより有意に得点が高ければ(言語理解>知覚統合)、言語理解が強みとなり、視覚統合が弱みとなります。
こうした情報を得ることで、強みをうまく活用していき、弱みに対しては、その人に応じた配慮・サポートをしていく必要が出てきます。
このように、検査によってその人個人の認知機能といった情報処理の中身の差(個人内差)を理解することができるといった利点があります。
以上、ウェクスラー式知能検査とは【発達障害の理解と支援で役立つ視点】について見てきました。
検査が役立つ視点は掘り下げていけば今回取り上げたもの以外にも非常に多くのものがあるかと思います。
一つ注意点を上げるとすれば、知能検査の結果は、ASDやADHDがわかるというものではありません。
もちろん、そのヒントにはなりますが、発達障害の診断には複数の判断材料が必要となりますので、知能検査を拡大解釈しないように注意をする必要があります。
大切なことは、その知能検査は何を測っているのかという根本的な理解と、知能検査によって測れないものがあるという限界を知るということです。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も知能検査を療育現場で役立てていけるように検査についての学びと現場による実践の両方を大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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