ASD(自閉症スペクトラム障害)・ADHD(注意欠如多動性障害)・ID(知的障害)は、DSM-5によると全て神経発達障害の中に含まれています。
これら3つの発達障害はお互いに重なり合うなど、併存している割合も高いと言われています。
それでは、ASDとADHD、そして、IDの3つの発達特性を一言で表現するとどのような違いがあるのでしょうか?
そこで、今回は、ASDとADHDとIDの本質的な違いについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岩波明(監修)小野和哉・林寧哲・柏涼ほか(2020)おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線.光文社新書.」です。
ASDとADHDとIDの本質的な違いについて
以下、著書を引用しながら3つの違いについて見ていきます。
知的障害(中略)とは「認識の発達」の遅れであって、ASDは「関係の発達」の遅れである(中略)そこに「自己制御の発達」という第3の軸を加え、これがうまくできないのがADHDだとした
著書の内容から、知的障害は、「認識の発達」の遅れ、ASDは「関係の発達」の遅れ、ADHDは「自己制御の発達」の遅れ、という本質的な違いが見えてきます。
もちろん、これら3つは単独で発症するケースから、3つ全てが併存していることもあります。
ここでは、単独のケースとして話を進めていきたいと思います。
それでは次に、以上3つの発達障害について著者の療育経験も踏まえて見ていきます。
著者の経験談
1.ID(知的障害)について
知的障害の子どもたちは全体的な発達がゆっくりであるという印象があります。
この場合の発達の内容を詳細に見ていくと、運動発達、認知発達、言語発達、社会・情動発達といった様々な面に影響が出ているように感じます。
知的障害の症状の中核は、「認識の発達」の遅れでした。
「認識の発達」の遅れとは、物事を理解する遅れとも言い換えられると思います。
外界の世界の理解が遅れるということは、言葉の発達や人との関わり方などの社会性の遅れ、自分の気持ちを言葉にしたり制御する情動発達の遅れ、そして、運動発達にも少なからず影響してきます。
実際に著者が見ている知的障害のある子どもの多くは、上記にある様々な発達がゆっくりであるという印象を受けます。
もちろん、個人差はありますが、どこか一つだけ突出しているなど偏りがあるというよりも、全般的な遅れという感じがあります。
2.ASD(自閉症スペクトラム障害)について
ASDは「関係の発達」の遅れです。
これは療育現場でも非常に実感することがあります。
例えば、本や図鑑などに記載がある様々な用語の意味は詳しくスラスラと説明するなど言語性が高い子どもや、パズルや折り紙が得意など動作性が高い子どももいます。
一方で、集団活動で他者に合わせながら動くこと、他者が言っている話の意図をつかむことが難しい様子(一方的なものの見方や暗黙のルールが理解できないなど)が多くみられます。
このように、先に述べたIDと比べると、全般的な発達が遅れているという印象ではなく、関係の発達の遅れが顕著に目立つといった感じを受けます。
関係の発達に必要なものとして、共同注意行動(同じ対象に視線をおくる行動)、模倣(人の真似をする)、ごっこ遊び、心の理論の獲得(他者の行動の背景にある心情や意図を読み取る)など様々な発達が必要になります。
これらは、他者の視点を獲得していくものと言い換えてもよいかと思います。
3.ADHD(注意欠如多動性障害)について
ADHDは「自己制御の発達」の遅れです。
自己制御とは、例えば、必要な情報に注意を向け・維持する、今考えるべき(やるべき)ことに思考や行動を集中する、計画を立てて物事を進めること(時間管理など)があります。
ADHDの子どもたちを見ていると、注意散漫な様子(気になる・興味のある方にすぐに注意が向く)や、頭の中も忙しく目まぐるしく思考内容がとぶといった印象、そして、計画を立てても直ぐに忘れてしまう(そもそも立てることが苦手)などの特徴があるように感じます。
しかし、理解する力はあるため、周囲から誤解を招いてしまうことがよくあります。
また、感情の変化も激しいため、時にはマイナス感情を爆発させてしまうこともあります。
こうした行動は周囲から見ると、誤解をエスカレートさせることに繋がってしまうことがあるように思います。
こうした行動は、本人からすると、わかっていてもやめられない行動、理解していてもやってしまう行動から、改めて自己制御の問題だということが実感できます。
以上、ASDとADHDとIDの本質的な違いについて考えるについて見てきました。
実際に療育現場にいると、どの特性が該当しているのかがわからなくなることがあります。
一方で、様々な発達障害(発達特性)を学びながら、現場での経験を踏まえて考えていくことで、少しずつ本質的な理解が可能になるように思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後もより良い発達理解と発達支援を目指して現場での経験と知識からの学びを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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岩波明(監修)小野和哉・林寧哲・柏涼ほか(2020)おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線.光文社新書.