感覚統合で大切な用語に「ボディイメージ」があります。
「ボディイメージ」とは、簡単に言うと身体に関する自己イメージのことです。
ボディイメージがうまく発達することで、私たちは自分の体を使って外の世界を知り、体を使うことで世界を拡張させていくことができます。
こうした経験は逆に自分の体を知ることにもなります。
それでは、ボディイメージが未発達だと生活においてどのような支障がでるのでしょうか?
そして、そもそもボディイメージがうまく育つにはどのような感覚が必要となるのでしょうか?
そこで、今回は、感覚統合で大切なボディイメージについて説明していきながら、臨床発達心理士である著者の経験談も踏まえながら、ボディイメージを理解すること、育てることの大切さについてお伝えしていきます。
今回参照する資料は「木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.」です。
感覚統合で大切なボディイメージについて
以下、著書を引用しながら「ボディイメージ」について見ていきます。
「ボディイメージ」という用語は、学問的な立場のちがいでさまざまな定義がありますが、ここでは、いくつもの感覚を統合していくなかでつくられる「生理的・身体的な自己像」としておきたいと思います。
著書の中で、いくつもの感覚を統合していくとありますが、これらの感覚には、「触覚」、「固有感覚」、「前庭感覚(平衡感覚)」があります。
これらの感覚をうまく調整・統合していくことがボディイメージの発達にはとても大切だとされています。
それでは、上記の三つの感覚は私たちの体に何を教えてくれるのでしょうか?
以下、それぞれ著書を引用して見ていきます。
「触覚」の情報は「からだの輪郭やサイズ」
「固有覚」は「肢位」や「力の入れ加減」「筋緊張」
「平衡感覚」は、重力を軸にした「姿勢の傾き」や、「自分のからだの運動方向、加速度」
このうち、「固有覚」と「平衡感覚」の詳細については下記の記事を参照して頂ければと思います。
関連記事:「感覚統合で大切な固有覚とは【療育経験を通して考える】」
関連記事:「感覚統合で大切な前庭感覚(平衡感覚)について【療育経験を通して考える】」
ここでひとつ例を上げてボディイメージについて考えてみたいと思います。
ボディイメージを深く実感できるものに、学校の遊具などがあります。
例えば、著書にも例がありますが、ジャングルジムがボディイメージを理解するには良いものだと思います。
ジャングルジムは多くの学校にあり、多くの人が一度はやったことがあると思います。
ジャングルジムで頂上まで登ろうとしたときに、まずはジャングルジムの鉄の棒を握る「触覚」からの情報があります。
そして、腕や足の力を使って一段高い所に登ろうとします。この時に、筋肉や関節を曲げることから生じる感覚である「固有覚」の情報があります。
さらに、登っていく中でバランスを取りながら姿勢を維持する必要があります。つまり、この時に「平衡感覚」からの情報があります。
これら三つの感覚を統合していく中で、鉄の棒の中をうまく潜り抜けていく必要があります。
つまり、うまく潜り抜けていくには、自分の身体イメージを理解していく必要があります。
また、身体イメージをうまく統合・発達させていくためには、ジャングルジムなどの遊具がとても良いと言えます。
それでは、ボディイメージが未発達であると生活においてどのような支障がでるのでしょうか?
以下、再び著書を引用して見ていきます。
ひとつ目は、「不器用」や「動作のぎこちなさ」という状態で現れます。
ふたつ目には、子どもにある程度の知的レベルがあって、状況を予測できるようになっていたら、はじめからお遊戯や課題になっている活動を嫌がったり、なかには教室から逃げ出してしまう子どももいるでしょう。
以上、著書にあるように、ボディイメージがうまく育っていないと、物の使用や全身運動において「不器用」さが見られたり、身体イメージを多く使用する活動を回避するなど生活に支障が出てきます。
つまり、不器用さという身体イメージの未発達が影響して、二次的にボディイメージといった身体イメージを活用する活動を避けるという負のループができてしまうということもまたマイナス面としてあります。
そのため、上述した「触覚」、「固有覚」、「平衡感覚」への理解を深め、こうした感覚を発達・統合させるという観点に加え、失敗経験や自信の低下などによりボディイメージを発達させる活動を回避しないような配慮が大切になります。
それでは次に、著者の療育経験からボディイメージへの理解を深めることの大切さについてお伝えしていきます。
著者の経験談
著者は長年にわたり療育をしてきています。
療育現場には、体の使い方がどこかぎこちないといった「ボディイメージ」に問題を持つ子が多くいるといった印象があります。
著者は、作業療法士などの感覚統合の専門家ではありませんが、人間がもっている原始的な感覚を理解する重要性を療育の随所で感じることが多くありました。
例えば、よく物にぶつかる子、姿勢にどこかぎこちなさがある子、園庭や公園の遊具でうまく遊べない子、他児とスポーツでの関わりがうまくいかない子、物の使用が乱雑な子など、ボディイメージに関連していると思われる行動がよくよく観察していくと見られるように思います。
こうしたボディイメージがうまく発達していないと、環境にうまく適応することが難しい場面が増えたり、失敗経験などから運動に関して回避的な行動を取るようになってしまうことが問題点として考えられます。
そのため、著者は、こうした動作のうまくいかなさに対して、個々に応じた配慮をしていくことが大切だと考えています。
また、原始的な感覚をどのように理解し育てていくのかという理解もまた大切だと感じています。
ボディイメージは、様々な感覚を統合し自分の身体をうまく機能させるベースとなる役割でもあるため、ボディイメージという用語を理解し、ボディイメージに必要な様々な感覚を理解していくことがとても大切なのだと療育現場を通して感じるようになりました。
以上、感覚統合で大切なボディイメージについて【療育経験を通して考える】について見てきました。
人は意識的・無意識的に様々な感覚を活用し、そして、統合しながら環境に適応しようとしています。
療育現場には、ボディイメージを始め、様々な感覚の調整・統合に困難さを抱えている人たちが多くいます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も感覚統合理論を学びながら、日々の療育現場に役立てる視点を獲得していきたいと思っています。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.