自閉症(ASD)の人たちには様々な協調運動の問題があると言われています。
例えば、書字や楽器演奏などが苦手といった手先の不器用さや、球技や縄跳びなどの全身運動の苦手さなどがあります。
自閉症というとコミュニケーションや対人関係の困難さといった理解が大きく取り上げられますが、一方でこうした協調運動の問題がある人も多くいます。
それでは、自閉症児の協調運動の問題にはどのようなものがあるのでしょうか?
そこで今回は、自閉症児の協調運動の問題について、臨床発達心理士である著者の療育経験も交えながら、その内容についてお伝えしていきます。
今回参照する資料は「岩永竜一郎(2014)自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法.東京書籍.」です。
自閉症児の協調運動の問題について
以下、著書を引用します。
ASD児の多くは、運動面に問題があります。例えば、筋緊張が低い、バランス運動が苦手、手先の細かい運動が困難、眼球運動がぎこちない、口の動きが不器用、身体の中心を越えた運動が苦手などの問題が見られます。
著書にあるように、自閉症児には全身運動から手先の細かい運動に至るまで様々な協調運動の問題があることがわかります。
もちろん、すべての自閉症児において協調運動が苦手というわけではありません。中には、得意な方もいます。
しかし、割合として協調運動に困難さを抱えている人が多いのも事実としてあります。
困難さにも、全身運動の○○が苦手、手先の細かい運動の○○が苦手など個人差もあるかと思います。
それでは、次に著者の療育経験から自閉症児の協調運動の問題を見ていきます。
著者の経験談
著者はこれまで、放課後等デイサービスや障害児保育などを通して多くの自閉症児と関わってきています。
その中で、自閉症児の多くに何らかの不器用さなど協調運動の問題が見られていたという実感があります。
例えば、体がグニャグニャしており姿勢が悪ったり、歩き方がどこかぎこちない、平均台などバランス遊びが苦手、ボールを投げたり蹴ったりが苦手、縄跳びがうまくできない、スキップが苦手かできない、走り方がどこかぎこちないなど、全身運動(粗大運動)に関しては様々な困難さが見られます。
こうした全身運動が苦手な人に多いのが、姿勢が悪い、体の動きがどこかぎこちないなどから、身体の様々な個所を連動させることが苦手な印象があります(協調運動の問題)。
協調運動をスムーズに行うためには、体の様々な部位を連動・協調させたり、力を入れたり抜いたりをスムーズに行う必要があります。
その他にも手先の細かい運動(微細運動)にも苦手さが多いといった印象があります。
例えば、文字を綺麗に書くのが苦手、消しゴムで消そうとすると紙が破れる・うまく消せない、楽器がうまく演奏できない、箸の使用が難しい、定規やコンパスなどの使用が難しいなどがあります。
こうした手先の細かい運動が苦手な人に多いのが、全身運動にもどこか問題があるケースが多いと感じます。
人間の身体の発達は、粗大運動から微細運動といった順序で発達するため、手先の細かい運動(微細運動)が苦手な人には全身運動(粗大運動)が苦手といったことも発達のプレセス上は理にかなっていると思います。
また、左手と右手の協応動作が苦手な人も多いと感じます。
例えば、右手で字を書き、左手で紙を抑える、右手で箸を持ち、左手で茶碗を持つなどがあります。
上記以外にも、口の動きが不器用なため、物を噛むことが苦手、話し方や発生がどこかぎこちない人もおりました。
また、目で対象物をじっくり追ったり、早い動きを目で捉えることが難しいなど、眼球運動の困難さもあるように思います。
このように、協調運動の問題といっても、非常に広範囲な内容があると感じます。
そして、こうした療育経験での自閉症児の協調運動の問題は、前述した著書の引用内容とも合致するものが多いとった実感があります。
以上、自閉症児の協調運動の問題について【療育経験を通して考える】について見てきました。
著者は現在も発達に躓きのある子どもたちに療育をしています。
その中で、感じることは運動の問題を軽視してはいけないということです。
発達障害というと、対人関係やコミュニケーションなどに困難さのスポットが当たることが多くあるように思いますが、実際のところ運動にも様々な問題が見られます。
そのため、今後は運動の困難さへの理解と支援もより必要になってくると感じています。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育を通して、運動への理解も深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「不器用さについて考える:発達性協調運動障害とは?」
岩永竜一郎(2014)自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法.東京書籍.