学校現場には、様々な標準化・ルールが存在しています。
多くの児童は、標準化された枠の中で、物事を考えたり、ルールに沿って行動します。
その中には、例えば、学則があり、クラスでの態度、クラスで決めたルール、学校の成績の評価など様々なものがあります。
一方で、こうした標準化のルールに沿いにくい人たちもおります。
それは、「発達障害」の人たちです。
それでは、発達障害の人たちは学校という環境の中でどのような困り感があり、それに対する対応として、どのような考え方をすれば良いのでしょうか?
そこで、今回は、発達障害児の学校での困り感と対応について、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら、標準の枠を広げることの重要性から考えていきたいと思います。
今回参照する資料は「本田秀夫(2022)学校の中の発達障害:「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち.SB新書.」です。
それでは、最初に発達障害児が学校で困り感を抱えやすい要因について説明し、次に、それを踏まえた対応を見ていきます。
発達障害児が学校で困り感を抱えやすい要因
著書の中では、発達障害児が学校で困り感を多く持ちやすい要因として以下の点を指摘しています。
以下、著書を引用します。
私はその要因の一つに「学校の標準が狭すぎること」があると考えています。いまの日本の学校には、子どもが「標準的にやるべきこと」が多すぎます。
著書の内容から、発達障害児が学校で困り感を抱えやすい要因として、学校の標準が狭すぎることと、やるべき標準化が多いことを指摘しています。
この視点は、非常に根本的な指摘です。
もちろん、発達障害児一人ひとりを見ると、困り感は非常に多様です。
一方で、学校という環境の枠が(標準化の)が狭いことは、多くの発達障害児にとって困り感に繋がる要因となります。
発達障害児は、本来の特性上、周囲に合わることを苦手としています。
また、特定の興味関心に対する過度な集中やこだわりが強いのも特徴としてあります。
仮に、周囲にうまく合わせられたとしても、相当なエネルギーを使ったり、周囲に過剰に適応しようとします。
標準の枠が狭いことで、周囲とうまくかみ合わないことで、周囲からマイナスな目を向けられたり、叱責が多くなるなど、自尊心の低下に繋がることも多くあります。
さらに、著書では先生側の大変さも指摘しています(以下、著書引用)。
学校の先生も、子どもたちに教えなければいけないこと、守らせなければいけないことが多すぎて大変だと思います。
こうした標準化の枠が狭いことは、発達障害児だけではなく、関わる先生にも大きな困り感や疲労感を与えます。
特に、真面目で責任感のある先生ほど、本来のその枠に当てはまらない児童をうまくはめようと多大な労力を使ってしまうことがあります。
発達障害児への学校での対応【標準の枠を広げることの重要性】
以下、著書を引用します。
子どもたちが社会性を学ぶことは重要ですが、そのために大人がやるべきことは、あれこれと細かいルールを設定して、子どもに押しつけることではありません。
著書の中で繰り返し指摘されていますが、発達障害児への学校での対応として、細かいルールなどを多く設けすぎないこと、そして、狭い標準の枠を緩めたり、広げることだとされています。
発達障害児は、もともとの特性から、周囲に合わせることが難しい特徴があります。
そのため、ルールの数が多いこと、周囲の状況を見て動く要素が大きいと、過度な負担が積み重なります。
そのため、厳密に学校の標準に合わせるという視点だけではなく、合わせることが難しい場合には、個々への個別の配慮の視点を強化していく必要があります。
つまり、標準の枠を外していき、個別の対応を心掛けていくことが大切だということです。
著者のコメント
最後に少し著者の意見もお伝えします。
これまで見てきたように、発達障害児の学校での困り感は、環境(標準)の枠が狭いこと、そして、対応として、標準の枠を緩め・広げることにありました。
こうした対応は一見すると、わかりやすいように思えますが、先生方にとって難しい問題が多く混在しています。
それは、学校という組織の問題、教育制度の問題、教育観の問題、先生間での価値観の違いなど、様々な要因が影響し合っているからです。
著者も放課後等デイサービスでの仕事を通して、間接的に学校現場と関わる機会が多くあります。
その中で、子どもが落ち着き・安心して過ごす様子が多く見られる学校は、クラス担任が子どもたちのことをよく理解している、クラス担任を支える仕組みがある(チーム学校の連携など)、学校の校風が良い、などが要因としてあるように思います。
教育で難しい問題は、先のことは取り組んでみないとわからないということだと思います。
そのため、何か新しい取り組みをしようとしても、前例がないが大丈夫なのか?その方法はうまくいくのか?といった未来に対する見通しの持ちにくさが難しさの要因としてあるように思います。
しかし、発達障害の社会的な理解が深まり、大人になった発達障害の人たちが多くいるこの現状の中で、標準の枠がどれだけ彼らに困難さを強いてきたのかは、明白だと感じます。
著者の周囲にも大人の発達障害の人たちは多くいますので、この点は強く協調しておきたいと思います。
日頃、子どもたちのことを理解しようと頑張っている先生たちをはじめ、子どもたちを日々支える保護者、そして、地域の人たちが、良き連携を取りながら、既存の標準の枠ではなく、子どもたちに応じて枠を作っていけるように、少しずつ取り組みを前進させていく必要があると思います。
以上、発達障害児の学校での困り感と対応【標準の枠を広げることの重要性】について見てきました。
発達障害児にとって学校で過ごす時間は大切です。
しかし、学校だけが全てではありません。
私自身、放課後等デイサービスといった学校外で子どもたちに何ができるのかを実践を通して考え続けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2022)学校の中の発達障害:「多数派」「標準」「友達」に合わせられない子どもたち.SB新書.