近年、愛着に問題を抱えている人が増加しているといったことが取り上げられる機会が増えています。
愛着の問題は子どもだけではなく、大人まで生涯にわって持続するものだと考えられています。
その中で最近注目を集めている愛着の問題へのアプローチとして、「愛着アプローチ」といった方法があります。
それでは、「愛着アプローチ」とはどのような視点なのでしょうか?
そこで、今回は、医学では改善できない方法として有名な「愛着アプローチ」について、「愛着モデル」を中心にお伝えしていきます。
今回参照する資料は「岡田尊司(2016)愛着障害の克服:「愛着アプローチ」で、人は変われる.光文社新書.」です。
愛着アプローチとは何か【医学モデルでは改善できないアプローチ】
著書の岡田尊司さんは、これまで様々な発達障害や精神疾患を見てきた経験から、その根底には愛着に問題を抱えているケースが多いと述べています。
そのため、「医学モデル」ではこれまで改善できなかった症状が、「愛着モデル」に基礎を置く、愛着アプローチにより改善したケースが多いと述べています。
それでは、そもそも「医学モデル」とは何でしょうか?
以下に、「医学モデル」について見ていきます。
「医学モデル」とは何か
以下、著書を引用しながら見ていきます。
医学モデルでは、「病気→症状」、つまり「病気が症状を引き起こしている」という前提に立っている。そこから「症状→病気の診断→治療→症状改善」という治療モデルが成り立つわけである。
例えば、転倒して足をぶつけて骨折してしまったとしましょう。この場合、骨折といった病気が足の腫れや痛み、歩くることができないといった症状として出てきます。
その後、医師に診察で骨折と診断され、治療→改善といった流れで進むのが治療モデルになるかと思います。
しかし、このように病気と症状、そして治療方法の対応がわかりやすいものばかりではありません。
特に、人間の精神(心)を扱う場合には、心のダメージ、つまり、症状となる背景要因は様々あるからです。
例えば、気分障害といったうつ症状が出ていたとして、その症状の原因は、対人関係のストレス、学習面のストレス、環境の変化によるストレス、職場環境に合っていないなど、様々な要因が複合的に作用して症状として出る場合があります。
そのため、症状の個人差が大きく、また、治療法も異なることが多くあります。
中でも、次に取り上げる愛着の問題は幼少期からの問題を引きずっていることが多いため、人間の無意識に刷り込まれたものであるため、なかなか意識化することが難しいのも特徴としてあります。
また、それこそ対人面の問題のため、自分一人の力では改善が難しいのもまた特徴としてあります。
それでは、愛着に問題を抱えているケースへのアプローチとして、以下に愛着アプローチの基礎となる「愛着モデル」について見ていきます。
「愛着モデル」とは何か
以下、著書を引用しながら見ていきます。
愛着モデルでは、「愛着へのダメージ→不安定な愛着→ストレス耐性・適応力の低下→症状出現」というメカニズムを想定している。それゆえ回復モデルも、医学モデルの場合と異なり、「不安定な愛着→愛着関係への注目→愛着の安定化→ストレス耐性・適応力の改善→より高いレベルの適応」という流れで回復を図る。
著書の内容から、「愛着モデル」が「医学モデル」とは異なる点を指摘しています。
それは、症状のメカニズムの違いから(症状に強くこだわらずに)、アプローチの違いを説明したものになります。
つまり、「愛着モデル」では、愛着関係といった対人面に着目し、対人面を安定化させることで症状の改善を目指すというメカニズムになります。
さらに、著書の中では「愛着モデル」が「医学モデル」と違う点をさらに補足しています(以下、著書引用)。
愛着モデルにおける回復のゴールは、症状の改善ではなく、より高いレベルの適応、言い換えると、「その人本来の生き方を獲得すること」にあるということだ。症状は、それに伴って自然に消退していく。
著書の内容から、「愛着モデル」では、「医学モデル」とは異なり、症状に強くこだわらずに、その人自身の生き方・適応を目標にしているということになります。
そして、生き方を見直し、社会に適応していく過程の中で症状が改善されていくといった考え方になります。
このように、「愛着モデル」は、症状の改善だけではなく、人生そのものを大きく変えるものであることがわかります。
それは逆の意味で、愛着といった過去の特定の養育者との情緒的な絆が後の人生に大きく影響するということが言えます。
「何となく生きるエネルギーが湧かない」、「人生の意味が見いだせない」、「自分が生きるに値する人間ではない」、「人はそもそも信頼できない」など、人生や自他の価値観などに大きく影響するものの根底には愛着が影響しているとも考えられています。
他者との生身の身体を通した繋がりが希薄化している現代社会であるからこそ、愛着の問題がより表面化しているのかもしれません。
最後に著書を引用して終わりにしたいと思います。
この「愛着アプローチ」が優れている点は、症状や問題の種類に関係なく、ほとんどの症状の改善に有用だということである。
以上、愛着アプローチとは何か【「医学モデル」と「愛着モデル」の違い】について見てきました。
私自身、以前、愛着の研究をしていたことがあります。
当時、大人の愛着が日本で注目されるようになった頃でした。
それから、だいぶ年月が経ちますが、さらに愛着の問題が子どもから大人まで注目されるようになったと感じます。
一方で、今回取り上げた「愛着モデル」を基礎とした愛着アプローチなど、改善に向けた方法も出てきています。
私自身、療育現場で子どもたちと関わる中で、愛着の視点は必須だと感じています。
まだまだ未熟ですが、今後も現場に愛着の視点やアプローチを取り入れていけるように日々学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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岡田尊司(2016)愛着障害の克服:「愛着アプローチ」で、人は変われる.光文社新書.