実行機能とは、遂行能力とも言われています。
つまり、何かをやり遂げる力のことですが、何かをやり遂げるには様々な下位要素の力の成長・発達が必要になります。
それでは、そもそも実行機能とは何でしょうか?そして、実行機能を構成している下位要素にはどのようなものがあるのでしょうか?
今回は、実行機能について説明していきながら、療育現場での活用方法について考えていきたいと思います。
今回参照する資料は「鴨下賢一(編著)小玉武志・佐藤匠・髙橋知義・戸塚香代子・東恩納拓也(著)にしかわたく(マンガ)家庭で育てる発達が気になる子の実行機能.中央法規.」です。
実行機能とは何か?
以下、著書を引用します。
子どもから大人まですべての人が、普段の生活をする際におこなっている、その活動を「やり遂げる力」のことです。
この「やり遂げる力」を子どもの頃から育てることは、社会に出る時にとても大事な力になることがわかってきました。
冒頭にも述べましたが、著書の内容から「実行機能」とは「やり遂げる力」のことです。
引用からもわかるように、実行機能という用語自体が様々な力が必要であるため、非常に抽象的なものであることがわかります。
最近は、学力以外の能力として、非認知能力が注目されるようになってきました。
実行機能といった「やり遂げる力」も非認知能力の中でもとても大切なものですので、こうした力をどのように育むのかにも関心が集まっています。
特に発達に躓きのある人たちの中には、実行機能といった前頭前野の機能に問題が生じるといったことも言われており、発達障害などと非常に関連性が高いものでもあります。
例えば、注意が維持できない、目標を立てても達成できない、切り替えが悪い、提示された情報を直ぐに忘れてしまうなどがあります。
こうした特徴はADHDやASDなどの発達障害には多く見られるとされています。
それでは、実行機能の下位要素にはどのようなものがあるのでしょうか?
次に、この点について療育現場での活用方法も合わせて考えていきたいと思います。
実行機能の6つの下位要素と療育現場での活用方法について
以下、著書を引用しながら見ていきます。
①プランニング
目標までの道筋、段取り(優先順位・時間管理・組織化計画)を決める力
プランニングとは、段取りを決める力になりますが、発達に躓きある人たちは段取りを立てて動くことが苦手な方が多くいます。
そのため、事前の準備(メモに書くなど見える化する、アラームの活用など)が必要になります。
著者も療育現場の子どもたちに予定を事前の伝えることや、早めに準備の声掛けをするようにしています。関わる大人が思っている以上に時間がかかることを事前に想定しておくことが重要かと思います。
②ワーキングメモリ
情報を保持し処理する力や記憶しておく力
ワーキングメモリとは、脳もメモ帳とも言われています。つまり、一時的に必要な情報を記憶しながら、その情報を操作することです。
私たちは相手と話す際にこの力を非常によく使っています。会話とは相手の話の内容を一時的に覚えておくことで双方向的なやり取りが可能になるからです。
療育現場では、ワーキングメモリの弱さに対して、言葉は短く伝える、重要な情報は繰り返し伝える、何かに書いて情報を残すなどの配慮をしています。
関連記事:「実行機能とワーキングメモリの関係」
③セルフモニタリング
自分がいる(おこなっている)状況を判断できる力
自分を客観視する力(メタ認知)のことですが、人は自分を客観的に見れることで行動を修正することができます。
セルフモニタリングが弱いと、行動を修正することが難しく、失敗経験を多く重ねることに繋がってしまいます。
療育現場では、子どもたちの行動に対してフィードバックするようにしています。つまり、「○○しよう!」、「○○した方がもっとうまくいく!」など、現在の行動を評価した上で子どもたちのモチベーションが高まるような次につながる声掛けを行うということです。
④自己抑制
衝動性や感情を抑えて我慢できる力
自己コントロール・感情のコントロールにも様々能力の成長が必要になります。
例えば、認知能力との関連で言えば、将来を見通す力と関連があります。つまり、今を我慢することで将来高い報酬やメリットを受け取ることができるなどがあります。
発達に躓きのある子どもたちを見ていると、その発達特性などの要因も影響して、非常に衝動的(今の欲求に沿って)に行動することが多くあります。
療育現場では、今を我慢することで少し先にメリットがあるような声掛けをすることがありますが、これも個々に応じて待てる時間なども非常に違うため、個別の配慮が必要になります。
そして、待った後に得られた報酬に対して、しっかりとフィードバックを行うことが大切です。
例えば、「よく○○分待てたね!」、「我慢できたから○○が得られたんだよ!」などです。
⑤注意持続
どんな状況でも課題に対する注意を持続できる力
注意が散漫になったり、注意を持続できないなどは発達に躓きがある人たちには多く見られます。
療育現場では、子どもたちの興味関心を通して(興味関心を把握していきながら)、集中して取り組める環境設定を心がけています。
また、感覚過敏な人も多いため、静かに活動に集中できる環境調整もとても大切な視点になります。
⑥シフティング
柔軟(柔軟性)に課題を切り替える(課題開始)力
シフティングとは、切り替える力のことです。
こうした力が弱いと生活の中で、宿題→遊び→食事→お風呂→就寝の準備など一つ一つの活動の切り替えに非常に時間を要します。
療育現場では、日々の活動である程度ルーティン化するものを決め、こうした活動を日々繰り返すことでリズムを整えるように心がけています。
何でもそうですが、身体に刻まれた多くの経験値はその人の体内リズムを作る基盤になると思います。
そのため、生活の中でのルーティン活動はリズムを作るためにはとても大切だと思います。
以上、実行機能の6つの下位要素と療育現場での活用方法について見てきました。
実行機能の下位要素は互いに独立したものではなく、相互に関連しているため、単独の理解よりも複数での理解が重要かと思います。
その上で、本人の困り感が強く生じているものにスポットを当てて、関わり方を工夫していくことが大切だと思います。
重要なことは、上記の苦手さは、先天性のものであるため(発達障害の場合だと)、本人を叱責するのではなく、できるだけ肯定的な関わりをすることで本人に自信とやる気を育むことが必要だと考えます。
私自身、まだまだ未熟ですが、今後もより良い発達理解と発達支援を目指して日々の実践を大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
鴨下賢一(編著)小玉武志・佐藤匠・髙橋知義・戸塚香代子・東恩納拓也(著)にしかわたく(マンガ)家庭で育てる発達が気になる子の実行機能.中央法規.