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エピソード記述 療育 相互主体性 間主観性

療育現場での体験を客観化する方法-間主観性・相互主体性・エピソード記述から-

投稿日:2022年6月27日 更新日:

療育現場では日々子どもたちとの関わりから、様々な体験を得ることができます。

様々な体験の中には、子どもたちの言動や行動の意図や意味がなかなか見いだせないといった問いも出てきます。

一方で、そうした疑問となる問いの意味を、背景や文脈も含め深く掘り下げることで、子どもたち言動や行動の意味が主観的に分かることがあります。

こうしたことが可能なのは、関わるお互いが主体的な存在であり、分かり合う・通じ合うことができる側面とそうでない側面があるからだと言えます。

こうした内容は、間主観性や相互主体性といった概念で説明することができます。

 

関連記事:「子どもの気持ちがわかる・通じ合うということ-間主観性の視点から考える-

関連記事:「子どもの思いや気持ちがわかるということ-相互主体性の視点から考える-

 

それでは自身の経験より感じた貴重な体験をより普遍化していく・客観化していく方法はあるのでしょうか?

 

今回は、著者の療育経験を含め、エピソード記述を活用することで、療育現場での体験を客観化する方法について考えていきたいと思います。

 

 

今回、参照する資料は「エピソード記述入門:実践と質的研究のために」、「なぜエピソード記述なのか:「接面」の心理学のために」です。

 

 

エピソード記述とは?

間主観性や相互主体性などといった主観的な体験がありますが、こうした体験をエピソードとしてまとめる方法になります。

以下、著書を引用します。

要するにエピソード記述は、まずその意識体験が起こる舞台として<背景>を読み手に伝え、書き手の心揺さぶられた様をエピソードに綴り、そして書き手が心揺さぶられた理由を<考察=メタ観察>のかたちで添えて、読み手に対して私の心揺さぶられた意識体験を分かってほしいと伝えるのがエピソード記述なのです。

例えば、自転車に乗れないA君が、自転車に乗る練習をしています。それが、試行錯誤の結果、乗れた瞬間がやってきます!その瞬間、A君は信頼している保育者のBさんに誇らしげなまなざしを乗り終えた後に向け、Bさんもまた自身の誇らさや達成感を抱いているA君の思いや気持ちが通底するように生き生きと感じることができる。

このように、その体験の背景も含め、書き手の心が揺さぶられた体験をエピソードとしてまとめていく方法になります。

エピソードから何を大切だと感じたのか?何を伝えたいのか?をさらに文書を再考することでエピソードの質が高まっていきます。

 

 

エピソード記述の客観性とは?

それでは、こうした個人の意識体験は主観的なものでありますが、エピソードに客観性を持たせるにはどのようなプロセスが必要なのでしょうか?

以下、著書を引用します。

エピソード記述が目指す一般性は、手続きではなく、むしろ読み手の読後の了解可能性、つまりどれだけ多くの読み手が描き出された場面に自らを置き、「なるほどこれは理解できる」と納得するか、その一般性を問題にするのだといってもよいでしょう。

行動科学では、手続きが、誰がやっても可能というところに客観性があります。

一方で、エピソード記述(個別体験)では、書き上げたエピソードを、読み手が理解・了解できるといった多さ(納得できるという感覚)から客観性があるということが言えます。

手続きに客観性があるのか、多くの読み手の了解可能性に客観性を求めるのかの違いになります。

 

 

著者のコメント

著者はこれまで行動科学といった方法を学生時代に学んできました。

ですので、客観性とは、手続き上のプロセスをだれが踏んでもできる、その中で、得られたデータに信憑性があるものだと思っていました。

しかし、実際の療育現場では関わり手の主観的な意識体験がとても大切だということを考えさせられました。

関わる子どもたちは、一人ひとり違いますし、大人もまた違います。そこで生じる関係性も変化していくなど、個別の意識体験が生じる場面が大きくあるからです。

特に、思いや気持ちなど心情面の理解が療育現場ではとても大切になります。

意識体験は、主観的体験ですが、こうしたものは科学的ではない、客観性がないと療育前に著者は感じていました。

そこで、間主観性や相互主体性、そしてエピソード記述といった主観性を大切にする分野・方法、さらに、今回取り上げた個別の意識体験から客観性をつくっていく方法などを学ぶことでき、これは現場にとり入れたいものだと思うようになりました。

こうした分野を学んで以降、関わる子どもの心の動きや心の成長など、著者が感じたことを他者に伝え、共に納得できるものを作っていこうという意識が以前よりも芽生えてきました。

 

以上、療育現場での体験を客観化する方法について、間主観性・相互主体性・エピソード記述などをキーワードにお伝えしてきました。

著者が大切だと思うことは、エピソード記述といった意識体験を言葉にする重要さです。

そして、意識体験を他者に伝え共同主観に繋げていくことで(了解可能性)、関わる子どもたちの理解がさらに進むと思います。

今度も、科学的方法を大切にしながらも、今回取り上げた現象学的アプローチも大切に、現場で生じた主観的な体験から様々な意味を見つけていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

鯨岡峻(2005)エピソード記述入門:実践と質的研究のために.東京大学出版会.

鯨岡峻(2013)なぜエピソード記述なのか:「接面」の心理学のために.東京大学出版会.


-エピソード記述, 療育, 相互主体性, 間主観性

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