自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)は、対人・コミュニケーションの困難さと限定的興味と反復的(常同)行動を主な特徴としています。
自閉症への支援方法として、代表的なものに構造化があります。
著者の療育現場でも構造化は大切な視点だと思います。
それでは、そもそも構造化とは何でしょうか?構造化はわかりやすく環境を調整するといった考え方でよいのでしょうか?
今回は、著者の療育経験も交えながら、自閉症への支援について、構造化と合意をキーワードにお伝えします。
今回、参照する資料は「本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.」です。
構造化について
以下に著書を引用します。
「構造化」という言葉があります。物事に一定の秩序を持たせるために、その秩序がわかりやすくなるような枠組みを示すことです。
構造化は、我々の身近な環境のいたるところに埋め込まれていますし、自分で自分の環境を構造化する場合もあります。
例えば、仕事をしている人では、予定の管理(手帳・スマホ・パソコン上にメモするなど)といった時間の構造化、デスク環境でわかりやく物を配置するなど空間を構造化するなどがあるかと思います。
自閉症と構造化について
以下に著書を引用します。
通常の子どもに対してであれば口頭(=聴覚情報)で行うような説明や注意を、自閉症の子どもに対しては、実物、写真、絵、文字など(=視覚情報)をふんだんに用いて行うのです。
自閉症の人たちには視覚情報の処理が得意な人が多くおります。
もちろん、聴覚情報が得意な人もいますので、自閉症=視覚有意とはなりませんが、あくまでも傾向として、視覚情報の理解に強みを発揮するケースが多いです。
ですので、こうした自閉症の認知特性を踏まえ、写真やイラスト、文字などを多く活用することで、空間・時間・手順に対する環境からの理解がより行いやすくなります。
構造化と合意について
以下に著書を引用します。
「合意」とは、誰かの提案に他者が同意することです。
私はこの構造化が「合意」を教える最初のステップだと思うのです。(略)構造化の手法を用いることの目的は、合意形成の習慣を身につけることだというのが、私の意見です。(略)構造化の手法を用いる際の最も重要なポイントは、「先に大人から情報を提示すること」です。
著者の内容から、構造化と合意の関係の重要性がわかります。
構造化を事前に大人側が作り、相手に提示することが合意を学ぶ機会になります。
その際に、必ずしも合意するとは限らないといったことを念頭に置き、あくまでも、視覚情報からのアプローチを大切にした環境の枠組みを示すといった認識が大切だと思います。
例えば、著者の現場では、予定の変更などを不得意としている子が多くいます。
その際に、事前に時間の枠を示し、その中で、その日の予定などをホワイトボードに書くなどして伝えるようにしています。
年齢や経験値が上がるにつれて、視覚情報なしで、口頭による提示でも理解できるようになったケースも多くあります。
こうした時間による構造化を行い、子どもに早めに提示することで、合意形成を重ねていくことができます。
○○の予定→合意→できる、○○の予定→合意→できない、などどのような提案を示すかで合意形成できるかどうかも変わってきます。
また、子どもの状態が疲れや不安などで悪い時など、これまでのうまく行っていた合意が取れないこともあるため、こうした合意形成のできる・できないは子どもの状態を見る手掛かりにもなると著者は考えています。
それ以外では、場所の構造化が代表としてあります。
○○の場所で○○しましょう、などの提案はよく行います。この場合にも、早めの提示が大切です。
子ども一人ひとり何が好きなのか?それをするためにはどのような場所が良いか?○○の場所をするのにわかりやすい環境になっているのか?など、おさえるべき点は多くあるように思います。
さらに、著書の中ではある以下の点を強調しています。
自分にとって有意義な活動を提案してくれる支援者がたくさんいる状況で育っている人のほうが、人に対する信頼関係ができやすいし、達成感も持ちやすいのではないかと思うのです。
この視点も現場にいてとても大切だと思います。
子どもとの信頼を獲得していくためには、子どもにとって良い提案をする人、そして、良い提案を継続できる人がとても信頼されている印象があります。
子どもが合意したくなるような情報を提案できること、それはつまり、子どもが好きな活動を良く理解し、その活動を安心できる環境の中で(構造化された環境の中で)、時間という見通しをしっかりと作りながら(構造化しながら)実行できる人のことだと思います。
そのために必要なのは、子どもが何を好むのか、どういった発達特性(認知特性など)があるのか、どういった集団を好むのか、苦手な刺激はあるのか、など子どもたちの情報を得ることだと思います。
こうして構造化について振り返ってみると、構造化とは、わかりやすく環境を調整するだけではないということが言えるかと思います。
例えば、大人が環境をわかりやすく子どもに対して作ることで(構造化)、子どもへの提案を実行しやすくなり、その提案の中で合意形成を学ぶことに繋がります。
つまり、ある人が○○の提案をすることに対して、○○に合意する(しない)といったことを学ぶということです。
また、提案も子どもの認知特性などをよく理解した対応が重要になります。
このように、構造化は合意を教えるものになり、合意をうまく取れる人(相手にとって良い提案ができる人)は子どもとの信頼を構築しやすくなります。
我々の生活の中には、秩序だったものもあればそうでないものもあります。
特に自閉症は認知特性上、曖昧な情報や口頭による情報処理を苦手としているため、視覚情報による構造化を行うことが支援の一つのポイントになります。
私自身、まだまだ未熟ですが、子どもたちのことを良く知り信頼関係をつくるために、こうした構造化の視点をより深く理解し実践していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「自閉症への支援‐構造化‐」
本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.