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【知的障害と発達障害の違いについて】発達の「速度」と「質」を通して考える

投稿日:2022年5月23日 更新日:

 

発達障害”という言葉がここ10数年の間に飛躍的に社会の中に浸透してきています。

それ以前には、〝知的障害”といった言葉を聞く機会が多くありましたが、その中で、発達障害への理解は急速に伸びてきています。

発達障害も知的障害も医学的な定義によれば〝神経発達障害”に分類されています。

 

それでは、同じ神経発達障害に分類されている知的障害と発達障害にはどのような違いがあるのでしょうか?

 

そこで、今回は、知的障害と発達障害の違いについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、発達の「速度」と「質」を通して理解を深めていきたいと思います。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回、参照する資料は「本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.」です。

 

 

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発達障害について

以下に著書を引用しながら見ていきます。

「発達」とは、子どもが成長とともにさまざまな能力を身につけていくことである。発達に異常があるために社会適応の問題がみとめられる場合を「発達障害」という。

著書の内容から、発達障害とは、発達の異常+社会適応の問題ということになります。

この発達の異常とは、先天性の脳の機能障害のことを指し、子どもの頃から見られる徴候であり、定型児とは異なる発達曲線(非定型発達)を描くものになります。

ここだけ見ると障害とはならずに特性があると言えます。

発達障害とは、こうしたもともと持っている脳の機能障害に加え、発達していく中で社会の中で不適応の状態が持続するときに発達障害となります。

重要なことは、定型児とは異なる発達曲線を描くということ、そして、社会側の視点から障害の状態像も変わってくるという個人因子と環境因子の相互性の視点だと言えます。

 

 

【知的障害と発達障害の違いについて】発達の「速度」と「質」を通して考える

ここで疑問となるのが、発達障害以前に社会の中に浸透していた知的障害と何が違うのか?ということです。

以下に著書を引用しながら詳しく見ていきます。

発達障害を理解するためには、発達の「速度」と「質」という二つの軸で考えることが重要である。発達の速度の全般的な遅れ(知的障害)では説明できないような、これとは独立な発達の質的異常を呈する病態の理解が近年進んできた。

著書の内容から、発達の速度の全体的な遅れが知的障害であるのに対して、発達の質的な問題が自閉症やADHD、学習障害などの発達障害ということになります。

このように発達の問題を「速度」と「質」の二軸で考えることがとても大切です。

著者が発達障害といった言葉に出会った当時は、よく発達の凸凹などと表現されることがありました。

発達の凸凹は今でもよく聞きますが、これは発達の「質」のことを指してるかと思います。

このように、知的障害が発達の全般的な遅れであるのに対して、自閉症やADHDや学習障害などの発達障害は発達の質(発達の凸凹)の問題のことを言います。

今では(DSM-5以降)知的障害も自閉症などの発達障害も神経発達症/神経発達障害といった概念に包括されるようになりました。

 

 


それでは、次に著者の療育経験からこれらの概念の整理の大切さについてお伝えします。

 

著者の経験談

療育現場には様々な子どもたちが通所してきています。

その中には、自閉症やADHD、学習障害などの発達障害の子も多くいます。

こうした様々な子どもたちの発達特性を理解することで、適切な配慮をしていくことが可能になります。

また、通所してきている子の中には知的障害のあるお子さん、そして、境界知能のお子さんもおります。

さらに、自閉症+ADHDなど発達障害が重複しているケースも多いことや、知的障害も併せ持っているなど、様々な特性の重複例が多く見られます。

そのため、現場では、一つの障害に特化して状態像を理解するというよりも、様々な障害特性や重複例などを理解していくことが子どもたちを理解していく際にとても重要であると考えています。

前述した発達の「速度」と「質」をかけ合わせて理解していくということになります。

もちろん、○○の障害があるという視点だけではなく、○○君とはこのような子(好き嫌い・得意不得意など)、といったパーソナリティの理解はとても大切だと感じます。

一方で、療育に携わるある種の専門家といわれるスタッフには、様々な障害の特徴を把握しておくことは、相手の状態像の理解や支援の質に大きく寄与してくると思います。

それだけ、療育を通して相手を理解することは難しく、様々な知識が必要になるということだと実感しています。

そのため、様々な障害についての概念を整理していくことはとても大切なことだと思います。

 

 


私自身もまだまだ勉強中ですが、今後も、現場を基軸にしていきながら、様々な障害像の理解を深めていきながら、より良い支援を目指していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

関連記事:「【発達障害と知的障害の理解と対応について】療育経験を通して考える

 

 

本田秀夫(2013)子どもから大人への発達精神医学:自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践.金剛出版.

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