自閉症(自閉症スペクトラム障害)は、対人コミュニケーションの困難さとこだわり行動が主な特徴とされています。
自閉症の人は、心の理論の困難さがあると言われています。こうした困難さは、つまり、他者の意図や気持ちの理解が難しいということです。
他者の気持ちの理解が難しいと、場の空気が読めない、自分の興味関心を一方的に話すなど集団行動などに難しさが出てることがあります。
しかし、自閉症の人たちが、他者の気持ちを理解できないかというと、そうではなくて、理解のプロセスが独特ということです。そのため、発達過程も定型児とは異なります。
定型児が集団行動をとりながら、自他の理解を深めていく時期が学童頃に発達していきます。それに対して、自閉症の人たちが、自分への理解が深まってくる時期が思春期頃とされています。
そのため、自閉症の人たちへの支援として、思春期前後では対応方法を分けて考えていくことも必要です。
そこで、今回は、著者の療育経験も踏まえ、自閉症の療育で大切にしたいことについて、思春期前後の支援についてお伝えします。
今回参照する資料は、「本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.」です。
自閉症療育:思春期前後の支援について
以下に著書を引用します。
思春期よりも前は、意欲のエネルギーを蓄える時期です。支援では、(1)保護的な環境を提供すること、(2)得意なことを十分に保障すること、(3)苦手なことの特訓を極力させないこと、(4)大人に相談してうまくいったという経験を持たせること、の4点に留意します。
思春期以降、意欲のエネルギーが十分に蓄えられたら、多少の困難には自分から意欲的に立ち向かえるようになります。支援では、本人の試行錯誤を周囲が支援するという体制を作ることが重要です。
著書の内容から、自閉症の人への支援で、思春期前には、意欲のエネルギーを蓄えるために、保護的な環境や関わりを大切にし、そして、思春期以降は、試行錯誤していく本人を部分的に手助けする(サポート体制をつくる)という関わりが大切だということです。
著者はこの中で意欲のエネルギーを蓄えるという点が療育においてとても大切だと感じます。
意欲のエネルギーを蓄えるためには、日ごろの子どもたちの様子をしっかりと観察し、肯定的な関わり、安心して過ごせる環境設定が必然的に必要になるからです。
そして、蓄えられた意欲のエネルギーは、次の行動への挑戦意欲を引き出すための原動力になります。
それでは、次に、著者の療育経験をもとに、思春期前後で大切な関わりをお伝えします。
著者のコメント
前述しましたが、キーワードは引用著にも記載されている「意欲のエネルギー」です。
著者は自閉症など発達に躓きのあるお子さんたちたちへ療育をしており、思春期前の子どもたちとの関わりが多くあります。また、これまでの経験を通して、現在成人の自閉症当事者の方との関わりもあります。
思春期前の大切な関わりについて
こうした関わりの中で、思春期前に大切にしていることは大きく以下の2点です。
①安全で安心な環境設定と②本人の頑張りを認めるということです。
①安心で安全な環境設定
①安全で安心な環境設定では、世の中には、失敗を通して精神的に強くなるなどの言葉もよく耳にしますが、私自身は、失敗をできるだけ未然に防げるかという環境設定を大切にしています。
失敗経験から学習できるのは、そもそも意欲のエネルギーがある人のケースが多いからです。また、定型児は自ら学習し修正する能力がある程度はありますが、自閉症など発達障害のある子どもはそうはいかないケースが多いです。
そのため、起こりうるリスクは極力早めに対処する予防的視点がとても重要で、それが、安全感・安心感に繋がり、そうした環境の中で、次の②もプラスされることで意欲のエネルギーを蓄えることができるのだと思います。
②本人の頑張りを認める
それでは次に、②本人の頑張りを認めるですが、安全感と安心感だけでは、意欲のエネルギーを蓄えるのに不十分だと感じます。
人は自分への自信、つまり、自己肯定感(自己有能感)を持つことで、様々なことに挑戦しようとする意欲が湧きたちます。
そのためには、その人の成長や頑張りを他者との比較抜きに声をかけ励ましてくれる大人の存在が必要だと思います。
関連記事:「療育で大切な視点-自己有能感について-」
こうした①と②がうまくかけ合わさることで、意欲のエネルギーを蓄えることができるのだと思います。
関連記事:「自閉症児が思春期を乗り越えるために大切なことについて考える」
思春期以降の大切に関わりについて
それでは、思春期以降ですが、現在、成人の自閉症の方との話からヒントを得ることができます。
成人期の方と話していて大切だと感じるのは、そもそも、意欲のエネルギーが蓄えられているかという土台に加え、本人の意思や行動が尊重され(失敗も含め)、その中である程度のサポート環境があることが大切だと感じます。
つまり、思春期以降は完全に自分の力で何とかするのではなく、部分的にはサポートしていくといったサポート体制を作っていくことです。
私の周囲で思春期以降に苦労された方は、意欲のエネルギーはあったが、サポート体制がうすく何でも自分でやろうとしたケースなどがあります。その方は、最終的には、自分の力だけでは限界になってしまいました。
部分的なサポートも本人が困ったら何とかするという後手の対応ではなく、ある程度先回りした対応が必要なのだと思います。
そのため、部分的なサポートとはいえ、関与の程度が減っただけで、どのようなサポートが今、そして、今後必要なのかを考える必要があるため、別な意味で違う観点から力を注ぐ必要があります。
関連記事:「自閉症の療育-思春期以後の対応で大切にしたいこと-」
以上、意欲のエネルギーをキーワードに、自閉症の人への療育で大切なことを、思春期前後に分けてお伝えしました。
療育で大切なことの一つは、ある程度の期間を見通して、どのような理解と支援が必要かを考えることです。
今回は、思春期前後という期間に焦点化しましたが、私自身、今後さらに、長いスパンで人の発達の理解と支援に貢献できるように、学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2013)自閉症スペクトラム:10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体.SB新書.