発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

発達障害 知的障害

【知的障害と発達障害の違いについて】法制度・医学的な視点を踏まえて考える

投稿日:2022年2月23日 更新日:

 

発達障害”について、中でも、自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などが最近注目を集めるようになってきています。

一方で、これまで認知度が高かった‟知的障害”に関しては、話題に上がることが少なくなってきている印象があります。

 

それでは、発達障害と知的障害には、法制度上・医学的な視点を踏まえると、どのような違いがあるのでしょうか?

 

そこで、今回は、知的障害と発達障害の違いについて、臨床発達心理士である著者の意見も交えながら、法制度・医学的な視点を踏まえて理解を深めていきたいと思います。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回、参照する資料は、「本田秀夫(2019)あなたの隣の発達障害.小学館.」と「大石幸二・山崎晃史(2019)公認心理師・臨床心理士のための発達障害論:インクルージョンを基盤とした理解と支援.学苑社.」になります。

 

 

スポンサーリンク

 

 

【知的障害と発達障害の違いについて】法制度・医学的な視点を踏まえて考える

知的障害と発達障害の違いについて、著書を引用しながら見ていきます。

わが国(日本)では、“発達全般の遅れ”である「知的障害」に対して、先に法制度が整備されており、そこに、発達全体の遅れのないタイプの障害についても対策が迫られたため、「発達障害者支援法」ができたのです。このため、わが国の法制度では、「知的障害」と「発達障害」が別になっています。しかし、医学では、「神経発達症」のグループのうち、“発達全体の遅れ”というかたちの異常を示す診断として、「知的能力障害」が含まれています。本田(2019)

現在の日本の発達障害の範囲として、狭義の発達障害に自閉スペクトラム症、学習障害、注意欠如・多動症、発達性協調運動症などが含まれるとし、広義の発達障害に知的障害などが含まれるとしています。大石・山崎(2019)

 

以上、著書の内容を踏まえて、‟知的障害”と‟発達障害“の違いについて言えることは以下です。

①どちらも、日本において、障害の認知や法制度の進捗などにより、発達障害の範囲が定められたものだと言えます。

②DSM-5など医学的定義では、知的障害も発達障害も同じ神経発達障害という中に入っています。そして、日本における発達障害は、広義としては、知的障害も含まれています。

 

つまり、‟知的障害”が法制度上整備された後に、自閉スペクトラム症や注意欠如多動症、限局性学習症といった、いわゆる狭義の‟発達障害”に関する整備が進んでいったという歴史的背景が日本にはあると言うことです。

そのため、広義の意味、そして、医学的な定義において、〝知的障害”も‟発達障害“の中に含まれるということになります。

法整備上においては両者は別のもの、医学界においては、同じ‟発達障害”といった結論になると言えます。

 

 

著者のコメント

療育現場で発達に躓きのある子どもたちと関わっていると、知的障害や発達障害のお子さんと多く出会います。

しかし、これら2つの障害に関して、私自身、関わる機会を多く持ちながらも、どのような違いがあるのかがよくわからないなど疑問に思うことがあります。

どうもしっくり分類できないという感覚です。

もちろん個人差があることや単純に分類できるものではないところもよく理解しています。分類することの意味は、レッテル貼りではなく、本人の状態像をできるだけ的確に理解し、より良い配慮や支援を行うためです。

こうした違いの難しさは、障害の程度によって状態像が重なることや、複数の障害があるケースがあるからだと思います。

例えば、知的に重度のお子さんと重度の自閉症は似ていると言われています。

また、自閉症の方でも知的に遅れがある方とそうでない方とでは状態像が変わってきます。

このように多様な状態像を理解する上で、各障害についてそれぞれの特徴や違いを理解していくことは大切なことだと思います。

 

 


以上が、【知的障害と発達障害の違いについて】法制度・医学的な視点を踏まえて考えるについて見てきました。

知的障害と発達障害の違いを理解するためには、国内でどのような経緯でそれぞれの障害の定義ができてきたのかを知ることが大切です。

前にも触れましたが、私自身、療育現場で、知的に遅れのあるお子さんや、知的に遅れのないASDのお子さんなどと接する機会が多くあります。

接する上で、障害の定義の理解はとても重要かと思います。それは、知的の程度や障害の重複などにより状態像や困り感が多様化してくるからです。

こうした障害の違いや定義などを知ることは、現場で関わる人たちの理解のヒントになると実感しています。

今後も障害への理解を現場と知識の両輪を持って深めていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

関連記事:「【知的障害と発達障害の違いについて】発達の「速度」と「質」を通して考える

 

 

本田秀夫(2019)あなたの隣の発達障害.小学館.

大石幸二・山崎晃史(2019)公認心理師・臨床心理士のための発達障害論:インクルージョンを基盤とした理解と支援.学苑社.

スポンサーリンク

-発達障害, 知的障害

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

発達障害が見逃されやすいケースについて考える

発達障害とは、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)や学習障害などを主なものとしています。 日本では、書籍やメディアなどを通して、専門家や当事者、そして当事者の家族による発達 …

障害を理解すること、パーソナリティを理解すること

発達障害の分野に関わっていると、障害とはそもそも何であるのか?ということを考える機会が多くあります。 障害というとネガティブなイメージが思い浮かぶかと思いますが、障害があろうとなかろうと、AさんはAさ …

様々な視点から子どもの発達を考える:支援上大切にしていること

発達障害という用語が社会的に広がり始めている中で、愛着障害など生育環境に関する書籍なども多く見られます。 私自身、発達支援の現場に8年以上携わっており、その中で様々な書物を読んだり、研究を通して人への …

発達支援(遊び編):遊びでみられる困難さとその対応、そして成長について

発達障害のある子どもたちは関わり方の面で特別な対応や配慮が必要になることがあります。 例えば、見通しの持ちにくさがある、切り替えが悪い、感覚の過敏さ・鈍感さがある、自分が思ったことを直ぐに口にしてしま …

発達障害という概念を知ることの大切さ:ADHDを例に考える

自閉症、ADHD、学習障害、発達性協調運動障害などのことを発達障害と言います。 自閉症は対人関係やコミュニケーションに困難さを有するもので、ADHDは不注意・多動性・衝動性などを主な特徴としています。 …