障害者の就労というキーワードをニュースなどのメディアや書籍などを通して知る機会が増えています。
一般の企業でも、法定雇用率といって障害者を雇用する割合が法律で決まっているなど、障害者の就労も社会の中で大きな課題となっています。
しかし、実際に社会が激変する中で、障害者に配慮した労働環境や、個々の特性などを踏まえた労働内容などを工夫していくことは簡単ではないと感じます。
今回は、発達障害の仕事について、当事者の弟の事例を取り上げながら、仕事の困難さについてお伝えしていこうと思います。
仕事の困難さの事例紹介
Aさんの事例
Aさんは、数年前に障害者枠を利用し、パソコン作業の業務をすることになりました。タイピングなど簡単なパソコン作業はできましたし、コミュニケーションも比較的うまくとれ、性格もまじめで礼儀正しく、周囲からはしばらく練習すれば慣れていくと思われていました。
しかし、ここから先が大変でした。
Aさんは、簡単なパソコン操作は可能であり、データ入力などもできましたが、次々に入力していく過程に難しさがあり、量が多くなると、どこまで作業が進捗したのかがわからなくなってしまいました。
マニュアルなどもありましたので、作業がわからなくなると見返すのですが、そのマニュアルもどこまで読み進めたのかがわからないという状況でした。
このような困り感の内容は今のAさんには説明可能ですが、当時は、自分の何がうまくいかないのか、困っているのかが自分自身でもわからない状態であり、悩み続ける日々が続きました。
簡単なパソコン操作や入力はできましたので、周囲も徐々に慣れていくという感覚のもと何が困っているのかがつかめずにいました。
その後、何がうまくいかない要因なのかがわからずに、エネルギーが尽きる感じで退職しました。Aさんにとっては失敗経験の記憶だけが残ってしまいました。
人はエネルギーを使い果たすと回復するのに時間がかかります。Aさんも、立ち直るまでにだいぶ長い期間がかかりました。
その後、就労支援センターなど就労をサポートする機関で、情報の処理や作業の速さに関するところが非常に苦手という評価を受け、Aさん自身のつまずきの要因が少しずつわかってきました。
そして、障害者雇用での一般就職は難しいと本人が判断し、作業所の仕事に就きましたが、ここでもAさんが苦手とする作業が多くあるなど、比較的簡単だと言われる仕事においてもAさんにしてみると難しいものが多くありました。
Aさんは、これまでの様々なうまくいかなかった経験がありましたので、自分ができる作業を職員の方と相談して決め、今では地道に作業をこなしています。
以上が短いですが、Aさんの事例になります。
著者のコメント
当時の私もAさんが時間が経つことで仕事に慣れると思っていました。
そして、障害者雇用ということもあり、手厚いサポートがあるのだと勝手に思っていました。しかし、現実問題、様々な困り感が生じていました。
私はこうした事例を振り返ることで、発達障害のある人が仕事をすることが非常に大変なことであると強く感じるようになりました。
その大変さは当事者の方だけではなく、支える側の人たちも同様に難しさがあるのだと思います。
支える側としては、利益を出さないと運営が難しい上、様々な業務が立て込んでいますので、その中でのサポートとなると非常に人の理解や業務の理解、業務の発展などあらゆることをこなさないといけません。これでは、支える側がパンクしてしまいます。
現時点でAさんは、フルタイムではないペースで作業所で働いていますが、自分なりに前進しているという感覚があります。また、体調を崩すようなことは今のところありません。
私たちは、仕事の中で生産性や成果などを求める部分がありながらも、それにはついてこれず、取り残されてしまっている人、あるいは、その可能性がある人たちのことをもう少し寛容に受け止める必要があるのだと思います。
仕事を生産性や成果という基準だけではなく、他者貢献など別の基準を設けることが今後社会の中で非常に重要になってくると思います。
私自身、多様な発達の違いを理解していきながら、発達障害と仕事といった非常に難しい課題についても、今後より良い視点が持てるように考えていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。