〝境界知能″とは、〝知的機能が平均以下であり、かつ「知的障害」に該当しない状態″の人たちのことを指します。
IQ（知能指数）で言うと、70～84のゾーンに当たります（71～85と記載されている文献もあります）。
一方で、境界知能は軽度知的障害と定型発達の中間のゾーンいるため、どのように状態像（認知特性）を理解していけば良いか理解に悩むこともあるかと思います。
それでは、境界知能の認知特性を理解していく上で、どのような視点が必要とされているのでしょうか？
そこで、今回は、境界知能の認知特性について、臨床発達心理士である著者の経験と考察も交えながら、軽度知的障害と定型発達とを比較する視点の重要性について見ていきます。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号（教育学・心理学）を有する筆者が執筆しています。
今回参照する資料は「宮口幸治（2025）境界知能 存在の気づかれない人たち．扶桑社新書．」です。
【境界知能の認知特性】軽度知的障害と定型発達とを比較する視点の重要性
以下、著書を引用しながら見ていきます。
境界知能でも特性に凸凹がある場合もあり、得意なところは定型児と同じであったり、苦手な分野は軽度知的障害と同じレベルであったりすることもあります。
境界知能の認知特性を理解する上で、軽度知的障害の認知障害を最初に理解しておくことで、境界知能の苦手分野への理解につながると思われます。
境界知能をその両端である定型発達と軽度知的障害（または限定性学習障害）と比較することが重要と主張しています。
著書の内容から、〝境界知能″の認知特性（記憶・言語・注意・学習など）を理解していく上で、その両端に位置する軽度知的障害と定型発達とを比較する視点が重要だとされています。
そして、まずは軽度知的障害について理解を深めることで、境界知能の苦手なことを知る手がかりを得ることが必要だと記載されています。
確かに、境界知能の人は特定の箇所においては、定型児・者と同じレベルの能力があるものもあり、その部分に強くフォーカスしてしまうと、本来以上に能力値を高く見積もることに繋がり、その結果として本人の状態像を見誤るリスクも出てきます。
そのため、まずは、境界知能の人が躓いている所・困り感など苦手とする箇所について知る必要があり、そこで参考となるのが〝軽度知的障害″の状態像を理解していく視点を持つことだと言えます。
著者の経験談
著者はこれまでの発達障害児・者支援の経験の中で、境界知能だと推測される子ども・大人と接する機会がありました。
彼らとの関わりを通して、確かに、定型児・者と同じ程度のレベルを持つ領域もあると感じます。
一方で、困り感・躓きなどが見えにくいといった特徴もまたあるように思います。
それは、〝できる″所に強く意識が向いてしまうことで、〝できない″所がカモフラージュされてしまっているからだと思います。
例えば、著者が様々な内容を伝えた際に、一見すると分かっているように見えていても（反応・返しの感じなどで推測）、いざ、試しに伝えた内容をやってみせると理解不十分な個所が予想以上に多く出てきます。
この時に、〝できない″所にしっかりと目を向けることで、その人が本質的に困っていることの理解を深めていく手がかりを得ることができると思います。
かつての著者は、境界知能の人の〝できる″所を過大視したことで、社会を生きていく上での躓きや苦手さに、なかなか気づけなかった過去があります。
この反省を活かす上で、〝できない″所に目を向けていくことで、その人がどのように世界を理解しているのか？理解する過程においてどのような困難さがあるのか？といった少し深掘りした状態像の理解に繋げていくことができるようになっていきました。
ここで大変参考になったものとして、これまで見てきた〝軽度知的障害″に対する理解があります。
確かに、境界知能の人の認知特性を把握していこうとすると、思いの他、〝軽度知的障害″の人たちと似ている点があることに気づかされます。
例えば、抽象的に物事を考えることの苦手さ、計画や段取りを立てることの苦手さ、複数のことを記憶して同時に処理することの苦手さなど、類似点が多くあるのだと思います。
類似点を理解していくことは、何に対してどのように支援していけば良いか？といった問いに対する答えを得る上で様々なヒントを得ることに繋がっていきます（境界知能と比べ知的障害の文献などが多いため）。
実際に著者も、〝軽度知的障害″をキーワードに、境界知能の人の認知特性への理解と、それに対する様々な支援のヒントを得ることができたと感じています。
かつて、定型児・者寄りに境界知能の人を無意識的に理解していましたが、今は、著書にあるように、軽度知的障害と定型発達との中間をより強く意識できるようになったと思います。
もちろん、定型発達の認知特性についての理解と比較もまた大切な視点だと言えます。
以上、【境界知能の認知特性】軽度知的障害と定型発達とを比較する視点の重要性について見てきました。
境界知能の人は7人に１人はいると言われていますが、想像以上に分かりにくい、社会の中で理解を得られにくい人たちなのだと思います。
そのため、今回見てきように、軽度知的障害と比較し理解する視点を持つこと、さらには、軽度知的障害と定型発達の中間に位置している人だという理解の必要性が今後ますます大事になっていくのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も境界知能への理解を深めていきながら、実践に役立つ知見を積み上げていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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宮口幸治（2025）境界知能 存在の気づかれない人たち．扶桑社新書．
