発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

不適応行動 問題行動

【行動の裏にある“意味”を読む】療育現場における問題行動(不適応行動)への理論×実践アプローチ

投稿日:

 

子どもが見せる他害、暴言、かんしゃく、パニック、逃避行動など望ましくない行動に対して、どのように理解して対応していけば良いかで思い悩んだことはありませんか?

こうした望ましくない行動は〝問題行動(不適応行動)″と言われています。

療育現場に長年携わっている著者は、この〝問題行動(不適応行動)″への理解と対応の難しさに思い悩むことがよくありました。

一方で、様々な書籍・理論等を学ぶ中で、より良い実践へのアプローチが徐々に見えてきています。

 

今回は、実体験+理論+書籍の視点から、問題行動(不適応行動)に関する理解と支援のヒントについてお伝えします。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

スポンサーリンク

 

 

目次

1.問題行動(不適応行動)に関するエピソード

2.問題行動(不適応行動)を理解する理論・書籍

3.問題行動(不適応行動)に関する支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

4.まとめ

 

 

1.問題行動(不適応行動)に関するエピソード

著者は、これまで療育施設での未就学児への療育、放課後等デイサービスでの学童期を中心とした療育を行ってきています。

こうした経験において、対応の難しさを強く感じると共に、対応の優先度が高いものとして〝問題行動(不適応行動)″があります。

中でも、他害や暴言などは、他者に向けられた行為であるため、他児トラブルへと発展することが多く、非常に厄介な問題行動だと言えます。

一方で、著者のこれまでの経験上、問題行動の背景を考えずに、直ぐに行動を止めようとする働きかけは多くの場合失敗に終わると痛感してます。

かつての著者は、問題行動の背景を考えずに、例えば、他害・暴言にはすぐに注意をするなど静止する対応を繰り返したことで、子どもとの関係性が悪化し、余計に問題行動をエスカレートさせてしまったことがあったように思います。

もちろん、子どもが自分の体を傷つけたり、他者に危害を加える行為は直ぐに制止する必要があることは言うまでもありませんが、大切なことは問題行動の背景を考えながら、長期的な支援の方向性を考えていくことだと思います。

一方で、問題行動(不適応行動)といっても、子どもたち一人ひとり背景が異なるため、どのような視点を持って対応していけば良いか当時の著者はほとんど分からずにいたことも事実です。

その後、少しずつ問題行動への実践と理論とを学ぶ中で〝○○の視点を取り入れた方がよりうまくいく″といった道筋が見えてきました。

 

 

2.問題行動(不適応行動)を理解する理論・書籍

それでは、問題行動(不適応行動)の理解を深めていく上で、著者が非常に参考になった書籍を以下に紹介していきます。

 

書籍①「小嶋悠紀(2023)発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル.講談社.

書籍②「渡辺道治(2024)特別支援教育に学ぶ 発達が気になる子の教え方 The BEST.東洋館出版社.

書籍③「英国行動障害支援協会(編)清水直治(監訳)ゲラ弘美(編訳)(2015)行動障害の理解と適切行動支援 英国における行動問題への対処アプローチ.ジアース教育新社.

 

 


以上の書籍を踏まえて、著者が非常に参考になったキーポイントとして、1.問題行動の理解の仕方2.問題行動に至る行動のメカニズム3.問題行動の原因となる4つの機能4.行動障害からのヒントです。

 


それでは、次に、以上の4つのキーポイントについて具体的に見ていきます。

 

1.問題行動の理解の仕方

〝問題行動(不適応行動)″といった言葉に見られるように、〝問題・不適応″など否定的な言葉が来ると、私たちはその行為をしている子どもたちをどうしても否定的に見てしまうことがあります。

問題行動(不適応行動)を見せている子どもを深く知るためにも、関わり手がその行為の意味を違う視点から解釈する必要があります(行為の本質を探る!)。

以下、著書①を引用しながら見ていきます。

子どもは「困っているから」行動します。逆に言うと、子どもの行動は、「その子が困っていること」を突き止める、貴重な手がかりなのです。

 

大人への信頼感が低下していると、困ったことがあっても表現しなくなり、より激しいパニックを起こすようになるのです。

 

著書の内容から、問題行動(不適応行動)は子どもが本来的に望んでやっている行動ではなく、〝困っている″から起こしてしまう行動だといった理解が必要です。

中でも、困り感を言葉で理解したり表現することが難しいからこそ、行動として誤った形で発信せざるおえないといった理解ができます(正しい行動での表現方法が分からないなど)。

つまり、問題行動とは、子どもの困り感を知る手がかりだという理解の仕方が鍵になってくると言えます。

さらに、問題行動に対して、常に否定的にみる関わり手(大人)がいたとして、こうした大人と関わり続けることで、子どもは大人への信頼感が低下して、余計に問題行動を見せることも事実としてあります。

まずは、問題行動を問題として見るのではなく、なぜこうしたネガティブ行動を起こしているのかといった背景を考えることが必要だと言えます。

 


著書①の執筆者である〝小嶋悠紀さん″は、元小学校教諭であり、現在は発達支援コンサルタントとしてご活躍されています。

そのため、非常に実践的な様々な問題行動への対応策が書籍①には記載されています。

他にも問題行動の大きな要因となっている愛着障害を取り上げた書籍「愛着障害 教師の言葉かけ」もお勧めです!

 

 

2.問題行動に至る行動のメカニズム

それでは、次に、問題行動(不適応行動)を考える上で、人が物事をどのように認知しているのかという〝行動のメカニズム″について見ていきます。

著書②には、〝不適応行動″を見せる子どもの行動には3つのステップがあると記載されています(以下、著書引用)。

感覚(世の中を感じる)➡認知(意味づけをする)➡行動(反応する)

 

感覚というのは、視覚や味覚、聴覚とか触覚のことですね。これは世の中のすべての事象を感じる情報の入り口とも言うことができます。そして大事なのは、この感覚は人によってバラバラだということです。

 

感覚という入り口を通って入ってきた情報に、次は「認知」という意味付けがなされます。「意味付け」とは、簡単に言うと、良いとか悪いとか、あるいは好きとか嫌いとかです。

 

「感覚」という入り口を通ってきた情報に、「認知」という色付けがなされて、最終的に「行動」を起こします。

 

発達の凸凹が強いお子さんにとってみれば、この行動の選択肢が少ないことも往々にして起こりうるわけです。

 

著書の内容から、問題行動(不適応行動)に至るまでには、大きく3つのステップ(感覚→認知→行動)があるとされいます。

はじめの〝感覚″ですが、これは視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚など様々な感覚器官を通して、外界の情報を入力する段階です。

感覚は人により多様な違いがあると考えられており、中でも、自閉症などの発達障害のある人は特徴的な感覚の取り込み方をしていることが多くあります。

次に、〝認知″ですが、これは様々な感覚情報を統合して、好き・嫌い・良い・悪いなど意味づけ・判断をする段階です。

ここで大切なことは、〝認知″の段階には、〝人″も入るということです。

例えば、この人は好きといった〝認知″が入り込むことで、子どもは好きな人といる安心感・信頼感を持って外界を捉え、その後の行動に繋げていくことができます。

私たち〝人″も子どもにとって〝認知″される重要な環境の一つだと言えます。

そして、〝感覚″と〝認知″を経て〝行動″に繋がっていきます。

著書にあるように、発達障害など発達の凸凹がある子どもは、〝感覚″〝認知″において特徴的な受け取り方をしていることがあり、そのため〝行動″の表出方法が少ない・難しい・分かりづらいこともあります。

例えば、〝感覚″の段階で、感覚過敏があっても、その困り感がうまく表現できないことで(〝認知″としては不快)ネガティブ行動(パニック・癇癪など)として発信することがあります。

また、〝認知″の段階で、他者の意図がうまく分からないことがあっても、その困り感がうまく表現できないことで、黙り込む・笑ってその場をやり過ごすなどの行動を取ることも予想できます。

このように、〝問題行動(不適応行動)″に至る以前に、私たちは〝感覚″→〝認知″といった情報処理を経由しているといったプロセスを理解することが重要だと言えます。

 

 

3.問題行動の原因となる4つの機能

問題行動(不適応行動)には、原因となる機能があると考えられてます。

それでは、この点について、書籍②を引用しながら見ていきます。

子どもたちがとる行動、それが不適応行動と呼ばれるものであっても、すべての行動には機能があって、それらは大きく4つに分けることができます(この4つは応用行動分析学における「機能分析」の知見を基にしています)。

 

【逃避行動(何かを回避する行動)】

・目の前のことをやりたくない

・嫌な活動や場から逃げたい

・不快な情報が入ってくるのを拒んでいる

 

【要求行動(何かを得ようする行動)】

・手元にない○○がほしい

・活動に参加したい

・特権を手に入れたい

 

【注意喚起行動(何かを得ようする行動)】

・大人の注目を引きたい

・お友達に気づいてほしい

・たくさんの人に認めてほしい

 

【自己刺激行動(何かを得ようする行動)】

・その活動自体が楽しい

・その活動をしていると落ち着く

・無意識でしていることも多い

 

以上の4つの機能は、応用行動分析学のおける機能分析の知見に基づいています。

つまり、応用行動分析学といった人の行動の背景を分析する視点に基づけば、問題行動(不適応行動)の原因は、①逃避行動、②要求行動、③注意喚起行動、④自己刺激行動の4つに分類できるとされています。

まずは、子どもが見せる問題行動(不適応行動)が4つのどの機能に該当しているのかを分析することが重要です。

 

その上で、次のような対応策が考えられます。

①逃避行動の場合・・・

・まずは何が逃げる刺激(要因)になっているかを分析・把握する

・感覚の問題(感覚過敏など)がないかどうかを確認しあれば感覚への配慮をする

・逃げる刺激(要因)への動機付けを高める工夫をする

 

②要求行動の場合・・・

・まずは正しい要求の伝え方を教えていく(泣いて伝える→言葉でお願いする)

・正しい行動ができた場合には褒め、できない場合には再度確認する

・消去バースト(これまで通っていた要求が通らなくなった際に暴れる・大声を上げるなど)にじっくりと向き合う

 

③注意喚起行動の場合・・・

・誤った行動には低刺激で反応する

・正しい行動には強刺激で反応する

・日頃から声をかけるなど信頼関係を構築する

 

④自己刺激行動の場合・・・

・合法的な対応策を考える(特定の場所・時間ではやっても良いなど)

・代わりとなる刺激がないかを考える

 

これらの対応策を現場レベルに落とし込むことがとても大切だと思います。

著者の実感として、子どもが見せる問題行動の原因の多くが、以上の4つに収束されることが多いと感じています。

それに加えて、大人との関係性もまた必要不可欠な視点だと思います。

子どもに関わる大人を、子どもがどのように認知しているかどうかで、問題行動の発生の有無・頻度も変わってくるからです。

この点も含めて、著書②の執筆者である〝渡辺道治さん″は関わり手の存在の重要性についても指摘しています。

繰り返しますが、問題行動(不適応行動)への対応策として、行動を分析してその意味を理解するということが大切であり、問題行動の原因・意味は機能分析によれば以上の4つに集約されるという理解が必要です。

 

 

4.行動障害からのヒント

行動障害(Challenging Behaviour)”とは、自傷や他害、パニックや癇癪、器物破損など、その行動が自他に悪い影響を及ぼすものだとされています。

行動障害の程度がさらに強い場合には〝強度行動障害″を呼ぶことがあります。

また、行動障害は障害のある人たちの方が多く見られると言われています。

 

行動障害の問題となる行動の原因の理解においても、〝3.問題行動の原因となる4つの機能″と同様の視点が取られています(以下、書籍③を引用)。

行動障害を表す理由は数多くあげられていますが、そこで共通する機能(目的)は、次の4つに限られます。

 

・注目を得る  ・要求を満たす  ・逃避する  ・感覚刺激を得る

 

つまり、行動障害への理解と対応策を考える上でも、先に見た4つの機能(目的)に集約されるということです。

そのため、まずは、子どもが見せる問題行動の意味を把握することが必須であり、その上で次のような視点が必要です(書籍③引用)。

まず、行動障害が起こらないように予防することがいちばん重要

 

著書にあるように、行動障害への対応策として重要な視点は〝予防″です。

つまり、未然に問題となる行動が起きないように環境調整をすることが大切だと言えます。

著者もこれまでの経験上、行動障害のある子ども・大人との関わりが多くありますが、その中でも圧倒的に〝予防″の視点が重要だと感じています。

行動障害には、問題行動への様々なアプローチのヒントがあると思います。

 

関連記事:「行動障害へのアセスメントについて【行動支援計画から考える】

関連記事:「行動障害に関するおすすめ本【初級~中級編】

 

 

3.問題行動(不適応行動)に関する支援の意味・効果が見えてきた著者の経験談

これまで見てきた〝問題行動(不適応行動)″に関する知識を療育現場に取り入れていく中で、次のような支援の意味・効果が見えてきました。

 

まずは、問題行動(不適応行動)の意味の理解が徐々に整理されてきたことです。

例えば、これまで特定の活動を避ける様子があった子どもたちがおり、その背景として、感覚の問題、集団活動の苦手さの問題、活動そのものが楽しくない問題、見通しの問題など、様々な理由を考え対応していました。

これが、問題行動の原因となる4つの機能(目的)に照らし合わせることで、〝逃避行動″に集約されることで、背景理由の把握から対応策までのプロセスが徐々にクリアになっていきました。

問題行動の原因の背景を考え始めると、一人ひとり多様な理由が存在します。

一方で、応用行動分析学の機能分析の視点を取り入れることで、問題行動の原因となる機能がある程度整理され、そのため、具体的な行動への対策もしやすくなると言ったメリットを感じています。

 

次に、問題行動(不適応行動)に対して、〝予防″的対応を重視するようになったことです。

〝予防″的対応を取るためにも、日頃から子どもがどのような場面・状況だと問題行動が発生しやすいのかといったある程度の見立てを立てる必要があります。

そのため、これまでの問題行動の背景を踏まえて、未然に対応策を講じていくといった視点が強化され、自ずと、問題行動が発生しにくい環境を整えることができていったように思います。

それは子どもにとって、過ごしやすく・分かりやすい環境であり、こうした環境にいることで、問題行動以上に望ましい行動が増えていったことも多く見られたと感じています。

 

 

4.まとめ

問題行動(不適応行動)は子どもが本来的に望んでやっている行動ではなく、〝困っている″から起こしてしまう行動だといった理解が必要です。

つまり、問題行動とは、子どもの困り感を知る手がかりだという理解の仕方が鍵になります。

問題行動(不適応行動)に至るまでには、大きく3つのステップ(感覚→認知→行動)があるため、問題となる〝行動″以前の段階(感覚→認知)についても、子どもの特性・性格などを含めてアセスメントする必要があります。

応用行動分析学といった人の行動の背景を分析する視点に基づけば、問題行動(不適応行動)の原因は、①逃避行動、②要求行動、③注意喚起行動、④自己刺激行動の4つに分類でき、①~④それぞれに対応策があります。

行動障害に関する知見を踏まえても、問題行動の理由は様々ある中で、その機能(目的)は以上の①~④の4つに集約されると考えられています。

そして、行動障害への対応で重要な視点は〝予防″的対応です。

問題行動(不適応行動)に対して、行動を分析・把握していきながら、〝予防″的対応を取っていくことが大切です。

 

 

書籍紹介

今回取り上げた書籍の紹介

  • 小嶋悠紀(2023)発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル.講談社.
  • 渡辺道治(2024)特別支援教育に学ぶ 発達が気になる子の教え方 The BEST.東洋館出版社.
  • 英国行動障害支援協会(編)清水直治(監訳)ゲラ弘美(編訳)(2015)行動障害の理解と適切行動支援 英国における行動問題への対処アプローチ.ジアース教育新社.


 

 

スポンサーリンク

-不適応行動, 問題行動

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【不適応行動の原因について】4つの機能を通して考える

  〝不適応行動″とは、例えば、他害、暴言、かんしゃく、パニック、逃避行動など望ましくない行動を指します。 〝問題行動″とも言われる〝不適応行動″は、長期化すると〝二次障害″に繋がる可能性も …

【発達障害児の〝問題行動″の分析の仕方について】療育経験を通して考える

  療育(発達支援)現場では、子どもたちが見せる様々な〝問題行動″への対応に迫られることがあります。 〝問題行動″の対応としてまずは情報を収集すること、〝測定″することが必要です。 &nbs …

【不適応行動の逃避行動への対応】発達障害児支援の経験を通して考える

  〝不適応行動″とは、例えば、他害、暴言、かんしゃく、パニック、逃避行動など望ましくない行動を指します。 〝問題行動″とも言われる〝不適応行動″は、長期化すると〝二次障害″に繋がる可能性も …

【不適応行動への対応で必要な叱り方のポイント】信頼される叱り方を通して考える

  〝不適応行動″とは、例えば、他害、暴言、かんしゃく、パニック、逃避行動など望ましくない行動を指します。 〝問題行動″とも言われる〝不適応行動″は、長期化すると〝二次障害″に繋がる可能性も …

【発達障害児の問題行動を減らす方法】ファクターマネジメントから考える

  療育現場で、発達障害など発達に躓きのある子どもたちと関わっていると〝問題行動″が起こる場面に遭遇することが少なからずあります。 例えば、他害行為や暴言、逃避などです。 こうした問題行動へ …