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感覚統合 療育

感覚統合について【療育現場で活かすために】

投稿日:2020年4月27日 更新日:

発達障害など発達につまずきのある人たちの中には独特の感覚が見られる場合があります。

例を挙げると非常に多くのものがあります。

例えば、落ち着きがない、高い所に登るのが好き、よく体を何かにぶつける、不器用である、姿勢が悪い、水や砂など特定の感覚遊びに没頭するなどの行動や状態は感覚の問題が背景にあることが考えられます。

感覚の世界は深く、それを理解することは発達障害児・者への理解にも繋がります。

 

今回は発達障害など発達につまずきのある人たちを理解するために、感覚統合について説明し、療育現場でなぜ感覚統合の視点が重要であるかについて、著者の体験も交えながらお伝えしていきます。

 

 


最初に感覚統合について簡単に説明します。

参考資料として木村順著の「育てにくい子にはわけがある」を参考に説明していきます。

ちなみにこの本は感覚統合を知るうえで初心者でも非常に理解しやすい本だと思います。

 

感覚統合について

感覚統合は、アメリカの作業療法士エアーズ(Anna Jean Ayres,1923~1988)という方が考えた理論で、脳に入ってくる様々な感覚情報を目的に応じて整理し、秩序だったものに構成することとされています。

人間の感覚には、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚といった五感がありこれらは意識しやすいものです。

しかし、意識に上りにくい無意識の感覚もあり、それが、五感の一つでもある触覚(表在感覚)、固有覚(深部感覚)、平衡感覚(前庭感)になります。

  • 固有覚とは、筋肉や関節という体の奥から生じる感覚です。
  • 平衡感覚とは、文字通りバランス感覚のことです。これらの感覚を統合しながら作られるものがボディイメージになります。
  • ボディイメージとは、生理的・身体的な自己像とも表現できます。そしてボディィイメージを手掛かりに発達させていくものとして運動企画という能力があります。
  • 運動企画とは、動きの範囲・力加減・スピード・タイミングを調節し、それらの動きの手順を組み立てる能力のことを言います。

自動車の運転に例えると、運動企画は車を運転する技能であり、ボディイメージは車体感覚に当たります。

仮に、ボディイメージといった車体感覚が未発達だと、運動企画がうまく働かない、あるいは、非常に限定された場面でしか機能しないということになります。

 


以上の内容から、人間は様々な感覚を発達させうまく統合することで環境への適応を図っていくということが言えます。

その中で、発達障害の人たちの中には、これらの感覚が未発達であったり、うまく統合されていない場合があります。

特に小さなお子さんだと感覚が発達していく途上にあるため、様々な感覚の問題があるように感じます。

 

 


次に私がこれらの感覚への理解になぜ興味をもったのかについてお話ししていこうと思います。

 

著者の体験談

以前、私は児童発達支援センターで障害児保育をしていましたが、その際に、ある未就学の男の子A君がいました。

A君は高い所に登るのが好きで、とにかく棚やテーブルなど登れそうなものを見つけると黙々と登っていきます。A君の頭には降りることを考えている様子はなく、時々降りられなくなり困ることも多くありました。

私は、体を使った遊びが大好きだったため、そんな元気なA君の行動を止めることは少なかったように思います。もちろん、常に傍にいて危険がないかどうかは非常に注意深く見ていました。

そんな中、他の職員から危険行為のため、止めるように言われることが増えてきたため、A君の行動を制止する場面が増えてきました。

そうすることでA君との関係は少しずつ悪くなりそれを機に自分の対応ははたして良いものだろうかと考え始めました。

そして、A君はなぜ高いところに登ろうとするのか?という根本的な問いを考え始めました。

その時に出会ったのが、感覚統合の考え方でした。

A君は何か独特の感覚の問題があるのでは?ということを考え始めました。

さらに、感覚統合を学んでいくと、高い所に登るのは感覚が鈍感なため(正確には平衡感覚の鈍感さ)、不足した感覚情報を取り入れようとする自己刺激行動というものがあり、私はこの内容をみてA君はまさにこれだと感じました。

このように、自分が感覚統合を知った経緯は現場の困り感からでした。

現場には多くのわからないことが潜んでいます。その問いを解くには問題の設定と多くの情報をヒントに自分で考えるということが大切だと思います。

最後に、その後のA君にはどのような対応を心掛けたのかについてお話ししていこうと思います。

私は前述した感覚の不足さからくる自己刺激行動という仮説をもとに、それから、刺激を入れるできるだけ安全な遊びを考えました。

例えば、高い高い遊びや、難しいアスレチック遊び、散歩などに行く際にはジャングルジムのある公園などにできるだけ行くようにしました。

すぐに変化はありませんでしたが、長いスパン、それも上記の遊びの量を意識することで少しずつA君の行動に変化が見られました。

大切なのは意識的な対応を心掛けた点です。

 

 


私自身、幼い頃は近くの空き地や山で危険な遊びをしてきたこともあり、そういった中で身につく能力も多くあると考えています。

重要なのは単純に禁止するのではなく、行動の意図や背景を考えながら発展的な対応を心掛けることだと思います。そして、長い目で子供の成長を見守ることも重要だと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

木村順(2006)子育てと健康シリーズ㉕:育てにくい子にはわけがある:感覚統合が教えてくれたもの.大月書店.

-感覚統合, 療育

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