近年、著しいはやさで発達障害への認知が高まってきています。
発達障害への認知が高まっている背景として、様々な要因があります。
発達障害への理解が深まる一方で、これまで発達障害だと診断を受けずに生活を送り続け、大人になってから診断を受けた人たちも多く見られるようになってきました。
それでは、なぜ、大人になるまで気づかれずに生活を送り続けることができたのでしょうか?
そこで、今回は、大人になるまで発達障害だと気づかれなかった理由について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、代償行動をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「てんねんDr.(2025)子どもの発達障害がよくわかる本 これ1冊で理解もサポートも!SB Creative.」です。
【大人になるまで発達障害が気づかれない理由】代償行動をキーワードに考える
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「そもそも発達障害という診断が存在していなかった」など、時代の問題という場合もありますが、発達障害の人自身が、頑張って代償行動をしていたからという場合もあります。
〝代償行動″とは、何らかの障害による影響によって、目的・目標が阻害された場合において、別の形で対応する行動を指します。
著書の内容から、以前は発達障害という診断が無かった時代などの影響もありますが、大人になるまで発達障害だと気づかれない理由として、〝代償行動″をとっていたことも考えられるとしています。
〝代償行動″には、様々なものがあります。
著書には、以下の内容のものが記載されています。
- 文章読みが苦手なため、先に文章読みの練習をして、覚え込むといった対処法を取っている
- 時間割に応じた学校の準備が難しいため、荷物を全て持っていくといった対処法を取っている
- 忘れ物が多いため、必要以上に確認行動を取っている
- 変化が苦手なため、いつも使用している物を必要以上にストックしている
- お金があるとすぐに使ってしまうため、クレジットカードを持たないようにしている
このように、昔は発達障害という診断が無かった、そして、発達障害への理解が乏しかったということもありますが、発達障害の人自身が試行錯誤のもと〝代償行動″をとっていたこともまた、大人になるまで発達障害が気づかれなかった理由だと言えます。
それでは、次に、著者の身近なケースを例に〝代償行動″について見ていきます。
著者の経験談
子どもの頃に発達障害だと気づかれなかったAさん(自閉症)
Aさんは高校入学時頃に初めて発達障害だと診断を受けました。
診断を受けた後、考えられたことは、Aさんは〝代償行動″を取ることで、周囲から見ると適応的に振る舞っているよう見えていたのではないかというものでした。
〝代償行動″の例として、学校の勉強はほとんど理解できなくても、丸暗記方式で小学校中学年頃までは通用していた(ように見えた)。
また、翌日の準備物がよくわからず何度も先生に確認していた、不安なことは事前に何が起こるのか、そして、どのように対応すればよいかを大人に確認していた、対人コミュニケーションは愛想のよい態度でなんとか切り抜けていた。
この他にも、Aさんは様々な〝代償行動″を取っていたのだと思います。
一方で、〝代償行動″を取るといった対処法にも限界があります。
Aさんは、小学校高学年以降に徐々に環境への適応が悪くなっていきました。
そして、大人になる頃には、周囲に過剰に適応しようとして〝二次障害″に繋がってしまいました。
このように、〝代償行動″の背景要因を抑えていき、その対処方法を考えていかないと、人によっては状態が悪くなっていく場合もあります。
もちろん、人によっては〝代償行動″を取ることで、うまく社会に適応できた場合もあるかもしれませんが、それは、おそらく深い自己理解とそれに基づく対応策が取れていること、様々な代償行動を試行錯誤していった結果うまくいく方法が見出せたこと、周囲の理解やサポートが得られているといった要因が大きく影響しているからだと言えます。
以上、【大人になるまで発達障害が気づかれない理由】代償行動をキーワードに考えるについて見てきました。
人は自分が苦手なことに対して〝代償行動″を取ることがあるかと思います。
一方で、〝代償行動″を取り続けることで、本人の負担感が増大している場合には、対応策を考えていくことが必要だと言えます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践の中で、子どもたちが苦手としていることを理解していきながら、それに対する対応策を考え実践していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
関連記事:「大人の発達障害に関するおすすめ本【初級~中級編】」
てんねんDr.(2025)子どもの発達障害がよくわかる本 これ1冊で理解もサポートも!SB Creative.