療育(発達支援)を長年行っていると、子どもたちの成長を実感する機会に多く出会うことがあります。
こうした出会いは、療育(発達支援)の〝成果″を感じる時でもあります。
もちろん、療育(発達支援)の成果は、複合的な要因が影響していることが多いため、特定の因果関係からは語ることができない難しさがあります。
一方で、〝○○の発達が大きく影響して○○の成果が出た可能性がある″〝○○の支援が大きく影響して○○の成果がでた可能性がある″といった仮説を立てることも可能だと言えます。
そして、長期的な子どもとの関わりを通して、この○○に当てはまるものが徐々に見えてくることがあります。
さらに、多くの事例を通して、仮説の精度を高めていくことが可能になっていきます。
それでは、療育(発達支援)の成果を感じる時として、どのような事例があるのでしょうか?
そこで、今回は、療育(発達支援)の成果について、臨床発達心理士である著者の経験談から、〝ゆっくり″な発達をキーワードに理解を深めていきたいと思います。
【療育(発達支援)の成果】〝ゆっくり″な発達をキーワードに考える
事例:小学校中学年のAちゃん(当時)
著者は、Aちゃんが小学校の一年生の頃から継続的な関わりのある子どもです。
Aちゃんは、全体的に発達が〝ゆっくり″であり、動作に関しても、言葉や状況の理解においても、定型発達児よりも遅れが見られていました。
著者が最初にAちゃんと出会った頃は、Aちゃん自身からの発信はほとんどなく、表情にも変化があまり見られなかったことから、Aちゃんが何を考え、何を欲しているかをくみ取ることが難しい状態でした。
そのため、著者は手探りながら、様々な遊びを通した誘い掛けを試みていきました。
試行錯誤をしていく中で、Aちゃんは〝やる″〝やらない″、〝好き″〝嫌い″といった意思表示なら、著者の問いかけに応答できる頻度が増えていきました。
また、様々な遊びにも興味関心を示し、表情も豊かになっていきました。
一方で、少し複雑な状況の理解(言葉での指示も含めて)であったり、新しい出来事などに対しては、部分的にも理解が難しかったのか体が硬直する様子が度々見られていました。
著者は、Aちゃんに見られる全体的な〝ゆっくり″な発達過程に対して、繰り返しの体験を大切にした関わりに加えて、伝えたい内容を少ない情報量で分かりやすく伝える対応を試みていきました。
それでは、次に、〝ゆっくり″な発達をキーワードに支援の経過をお伝えしていきます。
〝ゆっくり″な発達への支援から見たAちゃんの変化
Aちゃんは、同じ体験(遊び・活動)を繰り返していくことで、着実にできることが増えていきました。
例えば、以前はほとんど一人でできなかった折り紙や工作などが中学年以降になると、一人で完成できるものが増えていきました。
また、他児とのごっこ遊びにおいても、大人の介入は必要ですが、自分ができること・役割などを意識してうまく遊べる頻度が増えていきました。
〝ゆっくり″であった動作に関しても、手先の巧緻性が高まったり、全身運動も以前よりもだいぶ成長が見られていきました。
そのため、例えば、片付けや準備などにおいても徐々に早くなっている印象を受けます。
また、言葉の理解も進み、著者が話した内容を記憶し考えた後、返答してくる様子が増えたことから、他者とのコミュニケーションがより円滑になっていきました。
このように、〝ゆっくり″な発達に対して、丁寧に寄り添い、支援を継続していくことで、様々な領域(運動・認知・言語・社会性など)において、着実な成長を遂げていることが実感できます。
こうした中で、著者がもっとも驚いたことは、Aちゃんの挑戦しよう!やってみよう!といった〝意欲のエネルギー″が高まっていったことです。
Aちゃんは、著者が活動への促しをすると、ほとんど決まって〝やる!″と返事をします。
もちろん、やりたくないものには〝やらない″と返事はします。
また、新奇な状況においても、自らその状況に参加することが増えるなど、活動への積極性が非常に高まっていきました。
このような変化は、Aちゃんが様々な体験を通して身につけることができた自信、そして、経験の中で得られることができた喜びが大きかったのではないかと著者は考えています。
Aちゃんは、新しい場面や状況においても、興味津々といった表情を浮かべ、必死にその場面や状況を理解しようとして取り組みます。
そして、取り組みの中でできたこと、楽しかったことを言葉で様々な大人に伝える様子も見られるようになっていきました。
Aちゃんの事例を通して、例え〝ゆっくり″な発達であったとしても、その子の中で、様々な成長があったことを改めて実感できます。
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以上、【療育(発達支援)の成果】〝ゆっくり″な発達をキーワードに考えるについて見てきました。
子どもたちの発達は非常に多様です。
ある子どもは、特定の領域において特有な苦手さがある一方で、ある子どもは全体的に〝ゆっくり″な発達の様相を見せることもあります。
大切なことは、発達の多様性を理解しようと試行錯誤していく姿勢にあると思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を振り返りながら、子どもたちの成長の軌跡を理解する目を養っていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。