発達理解・発達支援・ブログ

人間の多様な理解と支援を目指して!

ルールが守れない 発達障害

【発達障害児に見られるルールが守れないことへの対応】SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチ

投稿日:2024年12月30日 更新日:

 

発達障害児は、発達特性などが影響して、生活の様々な所で困り感が生じる場合があります。

著者は長年、療育現場で発達障害児支援を行っていますが、個々の発達特性や発達段階等を踏まえたオーダーメイドな支援はとても大切だと感じています。

 

それでは、発達障害児に見られるルールが守れないことに対して、どのような対応方法が有効だと考えられているのでしょうか?

 

そこで、今回は、発達障害児に見られるルールが守れないことへの対応について、SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチを通して理解を深めていきたいと思います。

 

※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。

 

 

今回参照する資料は「岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.」です。

 

 

スポンサーリンク

 

 

ルールが守れない状態はなぜ生じるのか?

著書を参考に6つの視点から、ルールが守れない背景要因について見ていきます。

 

1つ目として、〝時間処理の苦手さ″です。

発達障害児(ASD・ADHDなど)の中には、時間処理に苦手さが見られる場合があります。

例えば、ゲームに集中し過ぎてしまい時間を忘れて没頭し続けてしまう、まだ間に合う、大丈夫だといった時間感覚から、時間配分を見誤るなどがあります。

そのため、約束の時間に遅れてしまう、ゲームを長時間してしまうなどがよく起こります。

 

2つ目として、〝実行機能の弱さ″です。

実行機能″とは、やり遂げる力のことを言います。

実行機能に弱さがあると、計画的に物事を進めることが難しくなったり、他の事に注意が向いてしまい本来やろうとしていた当初の計画が狂ってしまうことがあります。

 

3つ目として、〝ワーキングメモリの弱さ″です。

ワーキングメモリ″とは、記憶の保持・操作に関する力のことです。

ワーキングメモリに弱さがあると、ルールや約束について理解はしているものの、少し時間が経つと忘れてしまうことがよく起こります。

 

4つ目として、〝理解力の問題″です。

先のワーキングメモリとは異なり、そもそもルールなどの指示が理解できていないとった認知能力の問題が挙げられます。

 

5つ目として、〝不注意・衝動性の問題″です。

ADHD児の特徴でもある〝不注意・衝動性″があると、ルールを理解はしているものの、うっかりミスでルールを忘れてしまう、ついつい衝動的な行動からルールを破ってしまうことが起こります。

 

6つ目として、〝誤学習の問題″です。

誤学習″とは、本来習得すべき正しい学習とは異なり、誤った学習をしてしまっている状態です。

そのため、過去にルールを破ってもうまくいったという誤学習をしてしまうと、ルールを破る行為を繰り返すことがあります。

 

 

スポンサーリンク

 

 

ルールが守れない状態への対応について

著書には、ルールが守れないことへの対応として、〝①SST(ソーシャルスキルトレーニング)″〝②ペアレントトレーニング″〝③感覚統合療法″の3つからのアプローチ方法が記載されています。

 

 


それでは、次に、①②③のそれぞれのアプローチ方法について具体的に見ていきます。

 

① SST(ソーシャルスキルトレーニング)

以下、著書を引用しながら、SSTからのアプローチを見ていきます。

・日常で社会の基本ルールを教える

 

・タイマーを利用する

 

・「どこで何をするのか」を分かりやすく示す

 

・約束を忘れない工夫を身につける

 

・絵カードなどで気づきを促す

 

まずは、〝社会の基本ルールを教える″ことです。

社会の中には、人とうまくやっていくためのルールがあります。

過度にルールを強制したり、豊富な情報量を提示しないように心がける必要があります。

その中で、最低限のルール(量を少なく・伝達内容は簡潔に)の伝達や、視覚情報の活用も取り入れていくことが大切です。

 

次に、〝タイマーを活用する″ことです。

時間管理が難しい子どもにとって、様々な活動の終わり・切り替えがスムーズいかないことが多いため、そのような時にタイマーの活用が有効です。

 

次に、〝やることリストを分かりやすく提示する″ことです。

例えば、活動の順番(荷物をおく→手を洗う→遊ぶ→おやつ・・・)について、時系列で分かりやすく提示することが大切です。

子どもによっては、写真やイラストの方が理解が進むこともあります。

 

次に、〝約束事を忘れないための策を考える″ことです。

著書には、約束事を忘れないための方法として、子ども自身に約束の内容を復唱させるといった方法が記載されています。

 

次に、〝絵カードを活用する″ことです。

絵カードの活用もまた有効です。

発達障害児の中には、言葉による抽象的な理解を苦手としていることがよくあるからです。

例えば、SSTカードなど、集団でのルールや約束事を教える教材もあります。

 

 

② ペアレントトレーニング

以下、著書を引用しながら、ペアレントトレーニングからのアプローチを見ていきます。

・ゲームはやめるときの約束を決める

 

・ルールを作ったら徹底する

 

まずは、〝ゲームをやめるときの約束を決める″ことです。

例えば、おやつタイム、テレビの時間など、できるだけ楽しい活動・切り替えやすい活動をゲーム後に設定しておき、うまくやめることができたら褒める対応が大切です。

褒める頻度を高めていく好循環をいかに工夫して作っていけるかがポイントです。

 

次に、〝ルールを徹底する″ことです。

ルールを徹底するとは、例えば、大人の都合でルールを急に変えないようにするなど、最初に決めたルールを徹底する対応が大切です。

 

 

③ 感覚統合療法

以下、著書を引用しながら、感覚統合療法からのアプローチを見ていきます。

・実行機能の弱さが原因の場合

 

・状況の把握が難しい場合

 

まずは、〝実行機能をトレーニングする″ことです。

例えば、アスレチックなど、ゴール・目標がある中で、様々なコースやルールを変えていくことで、目標に向けて試行錯誤をする力を高めていくことが期待できます。

 

次に、〝状況把握の力を鍛えていく″ことです。

著書には、状況把握には4の段階があるとしています(易→難)。

最初は、自他共に静止している遊び(カードゲームなど)→自分は動き他者は静止している遊び(椅子取りゲーム、かくれんぼなど)→自分は静止し他者は動いている遊び(相手の動きを観察するなど)→自他共に動いている遊び(追いかけっこ、ドッチボールなど)といったように、徐々に難易度が上がっていきます。

このように、状況把握の発達段階を踏まえて、子どもが楽しんで行える活動を工夫していくことが大切です。

 

 


以上、【発達障害児に見られるルールが守れないことへの対応】SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチについて見てきました。

子どもがルールを守れないことには、様々な背景要因があります。

そのため、背景要因を踏まえて個々に応じた対応方法を考えていくことが支援においてはとても大切だと言えます。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちに良い支援をとどけていけるように、様々な知識を獲得していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【〝集団遊び″がうまくいかない場合の対応方法】〝ルール遊び″を通して考える

関連記事:「【ゲーム依存にならないためのルール作りについて】療育経験を通して考える

 

 

岩坂英巳・宮崎義博(2021)「うまくいかない」ことが「うまくいく」に変わる!発達障害のある子どもがいきいきと輝く「かかわり方」と「工夫」.幻冬舎.

スポンサーリンク

-ルールが守れない, 発達障害

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【発達障害の発症の頻度と重複(併存)について】療育経験を通して考える

  発達障害(神経発達障害)には、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)、発達性協調運動障害(DCD)、知的障害(ID)など様々な症状が含まれてい …

【発達障害児の〝パニック″時の自傷・破壊行動への対応について】療育経験を通して考える

  著者が勤める療育現場では、発達障害など発達に躓きのある子どもたちとの関わりの中で〝パニック″行動が時々見られることがあります。 もちろん、〝パニック″行動が起こる背景は人それぞれであり、 …

発達障害のアセスメントで大切なこと【情報共有とブラックボックスの理解の重要性】

  発達障害のアセスメントには様々なものがあります。   関連記事:「発達障害への包括的アセスメントについて」   アセスメントとは、評価・査定のことです。 アセスメント …

【発達障害児に見られる暴言・暴力への対応】SST・ペアトレ・感覚統合からのアプローチ

  発達障害児は、発達特性などが影響して、生活の様々な所で困り感が生じる場合があります。 著者は長年、療育現場で発達障害児支援を行っていますが、個々の発達特性や発達段階等を踏まえたオーダーメ …

臨床実践の重要さ:発達領域の経験から考える

現場で対人支援をしていると数々の不確実なことに出会うことがあります。 そうした事象を取り上げ、問題解決のために情報収集をしても、完全に同一な状況は起こりえないため最終的に自分で考えることが非常に重要に …