ここ最近、〝非認知能力″が注目されるようになってきています。
〝非認知能力″とは、創造性・興味・関心・意欲・主体性・自制心・自信など、一般的な知能以外の能力を指します。
一方で、〝認知能力″とは、言語能力や思考力、記憶力など、一般的な知能を指します。
一般的に非認知能力と認知能力は互いに補い合いながら発達していくと考えられています。
関連記事:「【非認知能力と認知能力の関係について】どちらの育ちが先なのか?」
一方で、非認知能力と認知能力を支える〝心の安定″の存在も必要不可欠です。
それでは、なぜ、非認知能力と認知能力の育ちには心の安定が重要なのでしょうか?
そこで、今回は、非認知能力と認知能力を支える心の安定の重要性について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「関西発達臨床研究所(編)高橋浩・山田史・天岸愛子・若江ひなた(著)(2024)非認知能力を育てる発達支援の進め方 「きんぎょモデル」を用いた実践の組み立て.学苑社.」です。
非認知能力と認知能力を支える心の安定の重要性
以下、著書を引用しながら見ていきます。
「認知能力」にしても「非認知能力」にしても、生き生きと発揮できるようになるには、「心の安定」が必要です。心が不安定な状態では、思いや学びをうまく調整できません。
著書の内容から、〝認知能力″及び〝非認知能力″の力の育ち、そして、その力を発揮していくためには、〝心の安定″が必要です。
つまり、〝心のエネルギー″が充足されていることが、様々なことを、知ろう!学ぼう!挑戦しよう!といった動機を支えているものになっていると言えます。
〝心の安定″で大切となるのが、何と言っても〝愛着(アタッチメント)″です。
子どもは自身が置かれている状態が安心・安全だと感じることができて(安定した愛着対象の存在)初めて、何かに挑戦してみよう!といった意欲が湧いてきます(〝意欲のエネルギー″の向上)。
そして、〝意欲のエネルギー″は、もしも、その挑戦がうまく行かず、仮に失敗したとしても、〝心のエネルギー″が充電できる安心・安全の基地(安定した愛着対象の存在)があることで、回復できるといった体験・イメージを持っていることで、さらに次の挑戦を後押しする力になります。
それだけ、子どもにとって〝心の安定″が心の育ち(〝非認知能力″の育ち)と学びの育ち(〝認知能力″の育ち)に影響してると言えます。
著者の経験談
著者はこれまで発達障害など発達に躓きのある子どもたちへの療育をしてきています。
子どもたちとの関わりにおいて、〝心の安定″は様々な活動を動機付ける基盤になっているといった実感があります。
例えば、最初は著者(他の大人も含め)との信頼関係がまだ構築されておらず、不安感が強い状態の子どもは、まだ様々な活動において意欲が少ない様子がよく見受けられます。
もちろん、この時点では、意欲が高いようにも見えますが、今と比べるとまだまだといった感じがします(過去との比較で見た場合の話です)。
その後、著者(他の大人も含め)と少しずつ信頼関係が構築されていくにつれて、著者を安心・安全の基地とすることで、様々な活動への挑戦意欲が高まる様子がよく見られます。
挑戦の過程で子どもは、挑戦している姿を著者に見てほしいとアピールしてきたり、挑戦後に著者がよくできたところ、頑張った過程についてフィードバックすることで、とても喜ぶ様子が見られます。
また、頑張った中で感じた出来事を著者に報告してきたり、うまく行かいこと、悔しい思いなどを、著者に報告したり相談してくることも増えていきます。
こうした様子は全て、〝心が安定″している、つまり、著者との間に信頼関係ができている(できてきている)からだと思います。
そして、信頼関係がある中で、常にあなたのことを見ているよ、気にかけているよ、といったメッセージを様々な表現で伝えていくことが必要だと言えます。
もちろん全ての子どもにおいて、このように順調に支援が進んでいくわけではありませんが(愛着障害など支援が難しいケースもあります)、〝心の安定″を満たすことは、後に、子どもが様々な能力を獲得していくためにも(〝非認知能力″や〝認知能力″の獲得において)、必要不可欠な要素であると実感しています。
以上、【非認知能力と認知能力を支える心の安定の重要性】療育経験を通して考えるについて見てきました。
これまで見てきたように、心の安定は子どもの様々な力の獲得に、多大な影響を及ぼしていることが分かります。
子どもは心が安定していると、安心して物事に取り組もうとします。
さらに、少し難しい課題に対しても挑戦しようといった動機が働きます。
これは何も子どもだけではなく、大人にも共通して言えることだと思います。
私たち大人にとっても心的安全基地があることで、例えば、仕事のパフォーマンスが格段に向上したといった経験は多くの人が納得できるものだと思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育現場で関わる子どもたちの心が安定したものになっていく、あるいは、なり続けていけるように、より良い療育(発達支援)を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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関西発達臨床研究所(編)高橋浩・山田史・天岸愛子・若江ひなた(著)(2024)非認知能力を育てる発達支援の進め方 「きんぎょモデル」を用いた実践の組み立て.学苑社.