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【自閉症の人に向いてる仕事・向いてない仕事】療育経験を通して考える

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自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)とは、対人・コミュニケーションの困難さやこだわり行動を主な特徴とする発達障害です。

自閉症の人は、本来持っている特性が影響して、仕事上での躓きが生じたり、逆にうまく特性を生かすことで能力を発揮するなど、仕事の内容によりパフォーマンスに大きな違いが生じる場合があります。

 

それでは、自閉症にはどのような仕事が向いており、逆にどのような仕事が向いてないと考えられているのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症の人に向いてる仕事・向いてない仕事について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「宮尾益知(2017)0歳から大人、進学から就職へのすべてがわかるハンドブック 発達障害の基礎知識 改訂版.河出書房新社.」です。

 

 

 

自閉症の人に向いてる仕事

以下、著書を引用しながら見ていきます。

できる人が多い

・作業を規則正しくできる

・単純な反復作業をいとわない

・むずかしい漢字や文章の読み書き

・パソコンの操作

・専門知識を覚える

・細かな部品などの管理や整理

・常識にとらわれない発想

 

向いている仕事の例

・IT系

・工場の製品管理

・デスクワーク(業務管理)

・清掃業

・調理関係

・研究職

・芸術系

 

著書には、自閉症の人たちの〝得意とする(できる)こと″と、それに関連する〝向いてる仕事の例″が記載されています。

 

まずは、〝得意とする(できる)こと″ですが、機械的な作業や繰り返しのルーティンワークを得意としている人が多いようです。

自閉症の人たちの特徴として、決まった手順通りに物事を進める傾向が強くあります。

そのため、事前にマニュアルがあることで、マニュアルといった手順書が理解でき実行できれば、その通りに繰り返して作業を進めることをそれほど苦労なく進める強さがあります。

 

次に、専門性の高い領域、細部に特化して物事を理解することを得意としている人が多いようです。

自閉症の人たちの特徴として、細部知覚に優れている強みがあります。

つまり、物事の全体像を漠然と理解するよりも、細部に特化して物事を理解する傾向が見られるということです。

 

さらに、発想力が豊かであることも得意とする人が多いとされています。

発想力とは、人とは異なる考え方、新しいアイディアを思いつくなどがあります。

自閉症の人たちの特徴として、周囲に合わせて行動することがどちらかというと少なく(良い意味でマイペース)、独自の物の見方・考え方に固執する傾向があります。

こうした力がうまく発揮される環境・仕事に就いている場合には、発想力が豊かに発揮される可能性があります。

 

著者の印象・実感

著者の実感としても、上記の得意とすること、向いている仕事に概ね現場経験を踏まえても納得できます。

中でも、機械的な作業や繰り返しのルーティンワークは、多くの自閉症の人たちが好む内容だと思います。

一方で、専門性の高い領域などは知的な能力なども影響するため、得意な人は自閉症の人たちの中でも限られてくるといった印象があります。

また、発想力に関しては、最近では芸術系(絵画など)で、その能力を発揮している人も増えてきている印象があります。

 

 

自閉症の人に向いてない仕事

以下、著書を引用しながら見ていきます。

苦手な人が多い

・スムーズな会話

・ミスをなくす

・スムーズな人間関係を築く

・急な予定変更に対応する

・話の裏やうそを見抜く

・お世辞やジョークをいう

・ストレスをがまんする

・周囲の空気を読む

 

難しい仕事の例

・営業職

・窓口業務

・接客業

 

著書には、自閉症の人たちの〝苦手とすること″と、それに関連する〝向いてない仕事の例″が記載されています。

 

まずは、〝苦手とすること″ですが、円滑な対人関係を築き上げたり、雑談や会話をスムーズにやり取りすることを苦手としている人が多いようすです。

これは、自閉症の診断基準にもあるように、対人コミュニケーションの困難さが強く影響しているからです。

そのため、人との関わりの多さ、人との関わりにおいて臨機応変さが強く求められる仕事には苦手さが見られます。

 

次に、事前の予定とは異なる急な予定変更などを苦手としている人が多いようです。

これは、自閉症の診断基準にもあるように、こだわりなどが強く影響しているからです。

さらには、実行機能の弱さといった物事を計画立てて実行することの苦手さも影響しています。

そのため、自分で業務内容を柔軟に考えたり(優先順位をつけるなど)、急な予定変更の多い仕事には苦手さが見られます。

 

著者の印象・実感

著者の実感としても、上記の苦手とすること、向いてない仕事に概ね現場経験を踏まえても納得できます。

一方で、人との関わりにおいて、自分の興味のある分野であれば、他者とのコミュニケーションが活発化する傾向もあります。

もちろん、仕事ですので、業務のすべてがその人の興味関心で構成されていることは難しいですが、見方によってはコミュニケーションが得意となることが部分的にはあるのかもしれません。

また、向いてない仕事において、周囲の理解や配慮が得られる職場であれば、個人差はありますが、ある程度、業務をこなせる人もいると思います。

逆に、職場環境がその人に合っていない中で、向いてない仕事をしている場合には、とても大変になると思います。

 

 


以上、【自閉症の人に向いてる仕事・向いてない仕事】療育経験を通して考えるについて見てきました。

自閉症の人といっても、スペクトラムですので、特性の強弱は人それぞれ多様です。

そのため、本当に向いてる仕事なのか、向いてない仕事なのかは、実際に取り組んでみないと分からないところもあります。

著者は周囲の理解や助けがない場合(あまり得られない場合)には、向いてる仕事から入っていった方が良いと思っています。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育経験を積み重ねていきながら、仕事も視野を入れた支援の在り方を考えていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【自閉症の人が将来に向けて必要なこととは何か?】豊かな人生を歩むために大切なことについて考える

関連記事:「【自閉症の進路で大切なこと】〝自己選択″と〝自己決定″を通して考える

 

 

宮尾益知(2017)0歳から大人、進学から就職へのすべてがわかるハンドブック 発達障害の基礎知識 改訂版.河出書房新社.


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