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前庭感覚

【前庭感覚の過敏性の特徴と支援について】療育経験を通して考える

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発達障害児・者には様々な感覚の問題が見られると言われています。

そのため、発達障害児・者支援に携わる人たちにとって、感覚の問題への理解と対応に関する知識は必須であると言えます。

感覚の問題を考えるにあたってとても大切な感覚として〝前庭感覚″があります。

前庭感覚″とは、簡単に言えば〝バランス感覚″のことを指します。

前庭感覚″を育てることは大切ですが、その一方で、〝前庭感覚″に〝過敏性″が見られる場合には注意が必要です。

 

それでは、前庭感覚に過敏性があると、どのような特徴が見られるのでしょうか?

そして、どのような支援方法が必要なのでしょうか?

 

そこで、今回は、前庭感覚の過敏性の特徴と支援について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら理解を深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.」です。

 

 

 

前庭感覚の過敏性の特徴について

著書には、〝前庭感覚″に〝過敏性″があると次のような特徴が見られるとしています(以下、著書からキーワードを引用)。

揺れをこわがる様子

 

緊張して固まってしまう様子

 

目の疲労

 

情緒不安定

 

覚醒の調節の困難

 

著書には、上記の5つの特徴が記載されています。

まずは、〝揺れをこわがる様子″ですが、これは著者がこれまで見てきた子どもにも少なからず見られました。

〝前庭感覚″への支援には、トランポリンやブランコなどバランス感覚を養う遊具の使用経験が大切ですが、〝前庭感覚″が〝過敏″であると、こうした遊具を避ける傾向があります。

次に、〝緊張して固まってしまう様子″ですが、例えば、ブランコに乗ると急に体に力が入り、固まった状態で乗る子どももいます。

こうした子どもは、揺れ遊びによってバランス感覚を養うというよりも、逆に疲労感が貯まるなど逆効果とも言える介入に繋がる可能性もあります。

次に、〝目の疲労″も特徴としてあると言われています。

著書には、揺れを過度に感じることで、目の補正機能が強く働き、その結果、目の疲労やめまいに繋がるといった記載が見られます。

次に、〝情緒不安定″ですが、揺れを心地よく感じられる場合は良いのですが、過度な刺激と認識することで、気持ちに不安定さが見れることがあります。

著者が見てきた子どもの中にも、〝前庭感覚″を刺激する揺れが、その子どもに合っていないと、遊んだ後の状態が悪くなってしまうケースもありました。

最後に、〝覚醒の調節の困難″ですが、心地よい刺激であれば覚醒のバランスも良い状態に整いますが、強い刺激と感じることで、興奮度が高まるなど、覚醒の調整が困難になる場合もあります。

 

 

前庭感覚が過敏なケースへの支援方法について

前庭感覚″が〝過敏″であると、先に見た様々なネガティブな特徴が見られます。

そのため、〝前庭感覚″に〝過敏性″がある子どもにおいては、次のような支援方法が有効です(以下、著書引用)。

  • 保護者や大好きな先生につかまって一緒に乗る
  • すぐに足がつく小さいサイズのブランコに乗る
  • 大きく、取手などにつかまって安定しているブランコに乗る
  • ベットのマットレスなど面積が広い遊具からスタートする

 

上記の支援内容は、〝前庭感覚″の〝過敏性″を高めないように(防衛反応が発動しないように)、安心できる環境を整える方法になります。

〝前庭感覚″の育ちには、揺れに関する遊具(トランポリン、ブランコなど)の使用経験が大切ですが、揺れのハードルが高い場合(姿勢の不安定感が強い、心地よい揺れを感じられないなど)には、そのハードルを本人に合わせて調整する関わりが必要になります。

著者が療育施設にいた頃は、ブランコに1人で乗れない(乗るのに不安がある)子どもには、大人が一緒に乗る、大人が体を支えるなどのサポートをよく行っていました。

その子に合ったサポートを得ることで、子どもは自発的に楽しく乗る様子が増えていったように思います。

 


さらに、〝前庭感覚″に〝過敏性″のある子どもに対して〝識別感覚″を優位にするアプローチもまた大切だと記載されています(以下、著書引用)。

  • ブランコの前で好きなテレビ番組を流す
  • 大好きな音楽を流して、歌いながらブランコに乗る
  • 乗ると好きなお菓子を食べられるなどご褒美を設定する

 

〝原始感覚″が優位に働くことで、苦手な刺激を回避する行動が出てきます。

その状態を少しずつ軽減していき、〝原始感覚(今回は前庭感覚)″を育てていくためには、〝識別感覚″、例えば、好きな映像や音楽などの刺激も併せて入れながら遊具を活用する方法も有効です。

著者が見てきた子どもの中には、自分が好きな音楽が鳴るとトランポリンをいつも以上に楽しんでリラックスして跳ぶ子どももいました。

こうした状態になるのは、自分が慣れ親しんでいる〝識別感覚″が優位になっているからだと思います。

 

 


以上、【前庭感覚の過敏性の特徴と支援について】療育経験を通して考えるについて見てきました。

揺れに過敏性がある子どもの前庭感覚を無理に鍛えようとしても、その刺激が本人に合っていないと逆効果になる場合があります。

そのため、本人にあった感覚刺激を把握しながら支援を実施していくことがとても大切だと言えます。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育実践を通して、様々な感覚の問題の理解を深めていきながら、支援のバリエーションも増やしていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

 

関連記事:「【前庭感覚への支援方法:遊具の活用例】療育経験を通して考える

 

 

前田智行(2021)子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本.ソシム.



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