療育現場には発達に躓きのある子どもたちが多く通所しています。
その中で、著者がよく感じることは、子どもたち一人ひとりの成長・発達は非常に多様であるということです。
一方で、我々大人の多くは一般的な成長・発達の中で子どもたちを捉えようとする傾向が強くあるように感じます。
例えば、○○歳には○○ができるようになるなど一般的な成長や発達曲線の中で子どもを捉えようとするなど、個人の能力面に着目するなどです。
しかし、子どもたちは周囲の大人たち(子供も含め)との関係性の中で育ちます。
つまり、関わり手や周囲の環境によって、子どもたち一人ひとりの成長・発達の捉え方もまた異なる見方になります。
そこで今回は、著者の療育経験も交えながら、関係性の中で発達を捉えることの大切さについて考えていきたいと思います。
今回、参照する資料は「自閉症スペクトラムの症状を「関係」から読み解く:関係発達精神病理学の提唱」です。
関係性の中で発達を捉えるということ
以下、著書を引用します。
なぜこれまで「発達」の「障碍」についてとことん考え抜くことをしてこなかったといえば、その最大の要因は「発達」を子ども個人の中の多様な能力がいつごろどのようにして獲得されていくのか、個体能力に焦点を当てた発達観に深く根ざしていたからだと今更ながら筆者は痛感している。
著書の内容では、これまでの発達観は個体能力に着目する面が強いといった実感を持ちながら、関係性の視点の大切さとこれまで関係性の視点が不足していた点について述べている。
以下、引き続き著書を引用します。
本来「発達」という現象は、子どもを育てる養育者との日々の営みそのものに具体的に示されているはずである。しかし、そのような視点からいかに捉えればよいか。その具体的な方法論を持ち合わせなかったがゆえに、横断的で静的な「発達」として捉えるしか術はなかったのである。
著書の内容から、子どもは日々大人との関わりの中で発達していきますが、こうした関係性を具体的に記述する方法がなかったこともまた、個体能力に着目して発達を捉えるものになってしまったということです。
著者もまた学生時代には、発達心理学などを学んでいましたが、当時は乳幼児期→幼児期→学童期→青年期→成人期などといったようにライフステージごとに分かれており、中でも、子どもの発達と言えば、乳幼児期には○○を獲得する、幼児期には○○を獲得するなど、確かに能力面からの記載が多かった印象があります。
著者が関係性から発達を捉える大切さを考えるようになったのは、療育現場で働くようになってからです。
それでは、次に、著者の療育経験から、発達を関係性で捉えることの大切さについてお伝えしていきます。
著者の経験談
発達を個体能力に帰属する視点も確かに役立つという実感もあります。
それは、個体能力の獲得にも段階がある(発達の順序性)からです。
例えば、言葉の獲得、歩行可能になるなどはある程度発達の順序性・方向性があります。
こうした視点を理解しておくことで、発達の遅れやズレを理解することには役立ちます。
一方で、子どもたちの心の育ちを考えた場合には周囲の大人との関係性や関わり方が大きく影響していきます。
心の育ちというと、自尊心・自己肯定感・自己有能感など、自分を肯定する力であったり、自分自身を励まし動機づける力であったりします。
また、他者への信頼感、興味関心の広がりや没入感、何かができた時の達成感、できなくて悔しい思いをしているなどもまた関係性の面からの捉え方が大切になります。
こうした心の育ちは、受け止めてくれる大人の存在があって初めて可能になります。
個体能力とは、こうした大人との関わりの中で培ってきて獲得した結果を意味するものだと思います。
そのため、日々リアルタイムで子どもたちと関わっている方にとっては、関係性からの発達の理解はとても大切なのだと思います。
何より著者もまた、関係性からの理解を深めていくことが現場で子どもたちの理解に納得感をもたらせてくれる発達理解であると実感しています。
最後に一つ付け加えたいことは、個体能力の視点もまた重要だということです。
両者の視点の違いを理解していくことで、子どもたち一人ひとりの理解の幅を広げるものになると思います。
私自身、個体論・関係論の理解や学びはまだまだ途上ですが、これからも現場で子どもたち一人ひとりの多様な成長・発達をサポートしていけるように、多くの知識と実践を大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
小林隆児(2017)自閉症スペクトラムの症状を「関係」から読み解く:関係発達精神病理学の提唱.ミネルヴァ書房.