療育現場で子どもたちと関わっていると、子ども⇔大人といった二者関係の違いによって子どもの行動にも様々な違いあるように思います。
例えば、A君にとって大人のTさんは工作遊びが得意といったよく遊んでくれるイメージ、大人のFさんはルールなどの提示が厳しいといったイメージなど違いがあります。
子どもは大人の顔色をよく窺いますので、関わる大人がどうような人物であるのか、また、これまでどのような関わりをしてきたのかによって、子どもの行動にも違いが生じます。
それでは、療育現場で発達に躓きのある関わりの難しいケースにおいて、関係の質の違いはどのように子どもの行動に影響するのでしょうか?
そこで、今回は、著者が療育現場で経験した関わりの難しい子どの事例を取り上げながら、関係の質の違いが子どもの行動を変えることについて考えていきたいと思います。
今回参照する資料は「自閉症と行動障害:関係障害臨床からの接近」です。
関係の質の違いが子どもの行動を変える
以下、著書を引用します。
行動そのものがけっして客観的で普遍的な意味をもつのではなく、関係の質によって行動の意味合いがいかようにも変容しうること、そのことによってまたお互いの行動そのものも変容していくということがいえるのである。
著書の内容から、子どもの行動は、大人との関係の質の違いによって大きく変わり、それはまた、子どもだけではなく大人の行動も変わるといった両者の関係性も変容していくといった相互性にあるとしています。
また、著書の内容はタイトル通り、自閉症と行動障害といった関係性に難しさがあり(特徴的な関係性を示す)、さらに、行動障害といった二次障害がある児童の事例からの引用になります。
つまり、そもそも関係づくりが難しいケースにおいて、関係性といった視点がより重要だといういうことになります。
誰でも同じような関わりをすれば質の高い療育ができるのではなく、日々の地道な関係づくりが子どもの行動を変えるということです。
それでは次に、著者がこうした関係づくりが難しい事例について、関係の質の重要性を認識し、また、子どもの行動が変容したケースについてお伝えします。
著者の体験談
当時、未就学児の重度の自閉症のA君について取り上げたいと思います。
A君は、非常に外界の世界に警戒心を持っており、自分の世界に閉じこもっている印象のあるお子さんでした。
そのため、著者が近くづくと警戒心の高まりから、避ける・時には攻撃してくる様子もありました。
また、自分のペースを乱されると激しい癇癪や自傷を起こすこともありました。
当時のA君は男性スタッフと初めて関わるといったこともあり、女性スタッフにはどちらかというと警戒心が薄い様子もありました。
このような状態だったので、著者は関係づくりに非常に悩み苦戦しました。
とにかく、A君の興味関心を探りながら、興味関心を通して関係づくりを進めました。
日が経つにつれ、A君の著者への警戒心は薄まり、著者もまたA君が私に心を許しはじめているのだと感じるようになりました。
こうしたやり取りを重ねる中で、私とA君の関係の質は明らかに変わっていきました。
当時の女性スタッフの方が安心していた状態から見ても、大きく変わり、女性スタッフよりもダイナミックな遊びをしてくれる男性スタッフである私との遊び・関わりを欲するようになりました。
一年間、A君と関わって見て感じたことは、関わり手との関係性は日を追うごとに大きく変わり、また、関係の質の違いは子どもの行動を変えるという実感でした。
それも、A君のように関係性をつくるのがもともと困難な事例においても当てはまるという実感です。
以上、著者の療育経験を通して、関係の質の違いが子どもの行動を変えることについてお伝えしてきました。
関係性というと捉えどころのない漠然としたもののようにも思いますが、今回参照した、関係性のアプローチからも学べるように、療育現場、臨床現場においてはとても大切な視点だと思います。
著書には関係性について豊富な内容がまだまだ記載されていますので、他の記事でも引き続き大切だと感じた点について書いていきたいと思います。
今後も、日々の実践を通して、子どもたちとの関係づくりを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
小林隆児(2001)自閉症と行動障害:関係障害臨床からの接近.岩崎学術出版社.