行動障害(behavior disorder)と似た用語に行為障害(conduct disorder)といったものがあります。
行為障害とは、人を攻撃したり、器物破損、嘘や窃盗、重大な規則違反などが含まれ、多くが思春期頃に発症すると言われています。
行為障害の前段階として、幼児期や学童期に発症する反抗挑戦症/反抗挑戦性障害というものがあります。
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行動障害については、「強度行動障害とは何か?療育経験を通して関わり方で大切な視点について考える」に定義を記載しています。
行為障害は一見すると行動障害とも似た行動特徴があるように思われますが、両者の違いとは一体何でしょうか?
そこで、今回は、行動障害と行為障害の違いについて、臨床発達心理士である著者の療育経験も踏まえて理解を深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「小林隆児(2001)自閉症と行動障害:関係障害臨床からの接近.岩崎学術出版社.」です。
行動障害と行為障害の違いについて
以下、著書を引用しながら見ていきます。
行動障害は、いまだ社会的な行動とは見なすことのできないほど未分化な行動上の問題を指すことが多く、行為障害は、社会的に一見分かりやすい意味をもち、倫理的に問題をもつ行動の場合に用いられると考えてよいと思われる。
著書の内容を踏まえると、〝行動障害”は、社会的な行動というよりも発達段階的にそれ以前の状態に見られるものであるのに対して、〝行為障害”は、社会的に意味のある行動といった違いがあります。
〝行動障害”は、他害や自傷など行動特徴として非常に原始的な反応から、行動の問題(社会的には意味を持たない)ものだと言えます。
一方で、〝行為障害“は、社会のルールからの逸脱や大人への反発や攻撃などから、社会的な意味を強く持っていると言えます。
こうして両者の違いを考えていくと、一見すると似ている用語ではありますが、違いは明白だと言えます。
それでは、次に、行動障害と行為障害の違いについて、著者の療育経験を通してさらに掘り下げて考えていきたいと思います。
著者のコメント
最初に〝行動障害“から考えていきます。
著者は以前の職場で重度の障害のある未就学児への療育をしていました。
その中には、行動障害の特徴である、自傷や他害、パニックなどの行動が見られる子もいました。
こうした子どもたちは、言語獲得前後の段階といった状態であったため、非常に原初的な世界(感覚が有意な世界)にいるといった状態像でした。
人は言語を獲得することで、周囲の人と象徴的コミュニケーション(言語を介したやり取り)を行うようになります。
その前の段階は情動的コミュニケーションと言われる、いわゆる五感によってのやり取りが有意な段階にいます。
関連記事:「コミュニケーション構造の両義性について-象徴的コミュニケーションと情動的コミュニケーション-」
つまり、行動障害が見られる子どもは、こうした〝情動的コミュニケーション“が有意な発達段階によく見られるということが言えるかと思います。
著者の療育経験を通しても行動障害は、未分化な行動上の問題を指すことが多いといった実感があります。
次に、〝行為障害”について考えていきます。
著者は現在の職場への移行に伴い、高機能と言われる知的に遅れはないが、発達に躓きある子どもへの療育をする機会が増えました。
子どもたちの中には、行為障害の前段階とされる反抗挑戦症/反抗挑戦性障害の状態が見られる子どもも少なからずいます。
子どもの特徴としては、大人に反抗する様子、ルールを破る・逸脱する行為が多く見られます。
こうした子どもの背景には、周囲の大人との関係の悪循環が影響し(愛着関係など)、二次障害へと発展していったケースが多いと感じています。
こうしたお子さんは、先ほどの行動障害とは異なり、〝象徴的コミュニケーション“を取っている発達段階の子どもです。
著者の療育経験を通しても行為障害は、社会的には一見分かりやすい意味を持ち(行動としてはわかりやすいが背景は複雑)、倫理的な問題行動として見られるのも実感としてあります。
以上、行動障害と行為障害の違いについて-療育経験を通して考える-について見てきました。
行動障害と行為障害の両者の違いを理解していくことで、取るべき対応方法も変わってくるのだと思います。
私自身、まだまだ未熟ですが、今後も子どもたちの行動の背景を抑えていきながら、より良い療育の実践を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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