著者が勤める療育現場には、発達に躓きのあるお子さんたちが多くおります。その中に、自閉症(自閉スペクトラム障害)のお子さんたちもおります。
自閉症の子どもたちは、ある種の独特な世界観を持っている方が多くおり、例えば、昆虫や電車、道路標識など特定の対象に興味が集中している子もいます。
我々スタッフも、こうした彼ら独自の世界観を大切にしながらも、社会の中でうまくやっていける力を育んでいけるように関わり方を工夫しています。
つまり、ある一定の社会性を身に着けていくこと、そして、彼ら独自の世界観の大切さも認識していくことが大切になってきます。
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それでは、こうした自閉症の方の支援において、どのような役割を持つことが支援者として大切になるのでしょうか?
その内容は様々あるかと思いますが、今回は著者の中で大切にしている自閉症療育の専門性とその中での支援者の役割についてお伝えします。
今回、参照する資料は、「本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.」です。
自閉症療育の専門性について
自閉症には、感覚や心の理論の問題、実行機能や中枢性統合の問題など様々な特性があります。
また、自閉症療育の支援を見た時に様々な技法があります。
例えば、認知行動療法やソーシャルスキルトレーニング、ペアレントトレーニングなどがあります。
もちろん、こうした理解や技法を深めることも大切であり専門性であると思います。
今回はこうした具体的な理解や技法ではなく、もっと抽象的な支援において大切な考え方についてお伝えします。
それでは、以下に著書を引用します。
支援において重要なのは、本人が自分の人生を振り返ったときに、それなりに目標を定めて生活を営んできた、自分の力で選択や判断をしながら人生を歩んできたと思えるかどうかということです。(略)
そういったことを自閉スペクトラムの人のそれぞれに保障できる。それが支援なのではないかと思うのです。
以上が引用となりますが、いかに自閉症の方一人ひとりが後悔のない人生を歩むことができるのかを支えることが、支援における専門性といえるのだと思います。
支援者の役割について
それでは、支援者が自閉症の方を対象とした時に、役割としてどのような点を重視する必要があるのでしょうか?
以下に著書を引用します。
支援者は、少数派である自閉スペクトラムの人たちと、多数派向けに構成された社会との間をつなぐインターフェイスという役割を担うのではないかと思います。
著書でも述べているように、この社会は多数派の意見を元に作られている面が多く少数派はどうしてもその中で生きにくさを抱えてしまいます。
社会的に認知が年々増している自閉症においても、大多数の社会の中で見れば少数派です。
発達支援の専門家はこうした多数派と自閉症のような少数派とを繋ぐ役割がとても大切になってきます。
例えば、社会のルールを自閉症の方にわかりやすく提示すると共に、彼らの中の困り感を社会に発信するという両方の役割を担う必要があると思います。
著者のコメント
著者の周囲にも自閉症の大人の方が多くいます。
彼らと話をすると過去のうまく行かなかった経験や周囲がサポートしてくれなかったことをよく覚えています。
そして、「もっと○○のように生きたかった」などと後悔の思いを語る人もいます。
さらに、「当時、自分は○○のような思いであったが、周囲がなかなか理解してくれずに辛かった」という人もいます。
それとは、対照的にうまくいっている(いっているように感じる)人には、ある共通点があるように思います。
それは、自分が後悔のない人生を歩んでいること、そして、それを支えてくれる・理解してくれる人が周囲に複数いる(いた)ということだと思います。
後悔のない人生を歩むためには、何でも自分の力でやっていく・自分で何でも決めるのではなく、ある程度の支援が必要になってきます。
こうした強力なサポーター(支援者)を持つことができた人は、自分の人生に対しても肯定的な部分を多く見出すことができているように感じます。
自閉症療育の専門性とは、一人ひとりが後悔のない人生を歩むことができるようサポートすること、そして、役割として、常に少数派の視点を大切に考えることだと思います。
こうした視点は自閉症に特化したしてものではなく、様々な人への支援において大切な考え方だと思います。
今後も、まだまだ未熟な私ですが、発達支援の現場を通して、一人ひとりの人生が少しでも豊かになるようなサポートを心掛けていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.