自分のやり方や手順にこだわる傾向が強いものを「こだわり行動」と呼ぶことがあります。
その行動特徴から時には周囲から融通がきかないなどと言われることもあります。
〝自閉症“の人たちの中には、「こだわり行動」が強く見られることが多くあります。
それでは、自閉症の人には具体的にどうような「こだわり行動」があるのでしょうか?
また、「こだわり行動」にはどのような意味があるのでしょうか?
そこで、今回は自閉症について見ていきながら、臨床発達心理士である著者が療育現場で経験した「こだわり行動」について、その行動の意味を発達的な視点から考察していこうと思います。
今回参照する資料は「アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.」です。
自閉症について:DSM-5より
自閉症とは、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)によると、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)と定義されており以下の2点を主な特徴としている。
①持続する相互的な社会的コミュニケーションや対人的相互反応の障害
②限定された反復的な行動、興味、または活動の様式、②の下位項目の中には、知覚の過敏性・鈍感性といった知覚異常を含む
DSM-5の内容から、〝自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)“の特徴として、①対人関係やコミュニケーションなどの社会性の困難さや、②自分なりのやり方へのこだわり、臨機応変に行動を変えることの難しさ、③感覚の過敏さ・鈍感さといった特徴があります。
例えば、「お風呂を見てきて」と言われた際に、湯加減を見に行くところをただじっとお風呂場を見ているなど、相手が伝えたかった意図について理解することの難しさなどがあります(①)。
また、本の並び方や通学路の道順は必ず自分なりの法則がある場合もあります(②)。
大きな音や子供の泣き声にとても敏感などとった例もあります(③)。
〝自閉症(自閉症スペクトラム障害:ASD)“とは一言で言っても、スペクトラム(連続体)ですので、非常に個々に応じて状態像が多様だと言えます。
また、他の障害、例えば、知的障害や注意欠如/多動性障害、学習障害、発達性協調運動障害などとの併存もよく見られます。
著者の体験談:「こだわり行動」について
次に、著者が療育現場で関わった自閉症児A君についてこだわり行動という視点からその行動の意味を発達的な視点からポジティブに考察してみようと思います。
自閉症児のA君は当時5歳であり、発語は単語を数語話せるという知的な発達段階にあるお子さんでした。
A君は本や図鑑などが好きで、新しい本を見つけるといつも真剣な表情で読んでいました。
そんな中、著者との間では決まったルーティンがありました。
それは、キャラクターが書いてある図鑑を一緒に読むということでした。
毎朝、登園してくるとA君は著者のところに図鑑を“読んで”と持ってきます。時には、登園バックを背負ったまま持ってくることもあります。
A君がその図鑑に書いてあるキャラクターを一つずつ指差し、それを著者が読んでいきます。A君からの要求水準はとても高く少し言うのが遅かったり、言い間違えがあると初めからやり直しになります。たいていの場合やり直すことの方が多いです。これがA君の朝のルーティンです。
A君の内面世界が知りたい著者はこの日課(他にも様々ありましたが)に徹底的に付き合いました。
この朝のルーティンを通じて、A君との間で楽しさを共有する経験の蓄積をたくさん持つことができました。
例えば、A君は自分の大好きなキャラクターが次に読まれるのを非常に期待した表情で待ち、読まれるととても嬉しそうにげらげらと笑っていました。この繰り返しで、A君は図鑑のキャラクターの名前をたくさん覚えることができました。
この日課はエンドレスで続くわけではなく、やはり飽きる時がきます。そうすると次は違う本や違う遊びになります。
ここでの経験から著者は、A君のこだわり行動の対象が絵本や図鑑に向いたことで、それによってたくさんの言葉を覚えたこと、また、人と言葉を通して楽しさを共有する経験が持てたということを実感することができました。
最初は、こうした日々の繰り返しが何に繋がるのかと悶々と悩むこともありましたが、長い時間をかけて(発達的な視点に立つことで)多くの重要な気づきを得ることができました。
以上、【自閉症児のこだわり行動について】療育経験を通してその意味を考えるについて見てきました。
「こだわり行動」は時には非常に融通が利かず周囲を困らせる行動にもなります。
しかし、自閉症の人たちは、こだわり行動をとることである種の安心感を得ることができます。
それは、自閉症の人たちにとって対人関係などに強い緊張や苦手さがあるといった不確実な世界の中で、こだわり行動という決まった行動をとることで、確実なものを得るという心理なのかもしれません。
行動の背後には様々な意味があります。
それを観察し分析し考察するのが心理学という学問です。
また、この行動の意味を長い時間の中で観察し分析し考察していくのが発達的な観点になります。
今後も、対人支援の中でこの発達的な視点に立って物事を考えるという習慣を忘れずに磨きをかけていこうと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
自閉症に関するお勧め書籍紹介
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アメリカ精神医学会 高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.