愛着とは特定の養育者との情緒的な絆のことをいいます。
愛着形成で重要な時期は生後から3歳から5歳にかけてだと言われています。
また、視覚・聴覚障害、肢体不自由、ダウン症などの障害児においても愛着形成は可能だということがわかっています。
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それでは、自閉症といったそもそも社会性に困難を抱える子どもの愛着形成は可能なのでしょうか?また、どのような特徴があるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症児との愛着形成は可能か、そして、定型児との違いはあるかについて、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながらお伝えしていきます。
今回参照する資料は「数井みゆき・遠藤和彦(編著)(2007)アタッチメントと臨床領域.ミネルヴァ書房.」です。
自閉症児との愛着形成は可能か【定型児との違いはあるのか?】
以下、著書を引用します。
他の障害児と比べて遅れはするが、自閉症児も安定したアタッチメントを形成していくことができることを明らかにしている。
著書の内容から、結論を先に言うと、自閉症児との愛着形成は可能ということになります。
その中で、特徴的なものは定型児や他の障害児と比べて遅れて愛着形成が行われるといったことがあります。
これは、自閉症自体がそもそも社会性に質的な困難さを抱えていることが考えられます。
著者の療育経験からも、自閉症児との関係づくりはある種独特であると感じた経験があります。
それは、人への注意の向け方(人よりも特定の物に興味示すなど)や感覚の過敏・鈍感さなども要因としてあるかと思います。
著者自身、自閉症児との関係づくりはその子の興味関心を共有していく経験の蓄積から徐々に積み重なってきたという実感があります。
そして、感覚過敏があると対人接触を拒む様子もあり、これも感覚の成長に伴い、身体接触が変化してきたと感じた経験もあります。
それでは、自閉症児の愛着形成には他に特徴的な要素はあるのでしょうか?
著書の中では、認知発達との関連性を指摘しています。
以下、著書を引用しながら見ていきます。
安定したアタッチメントを示す自閉症児はそうでない自閉症児より、言語などの認知能力が発達していることを示すものとなっている。
著書の内容から、自閉症児において、安定した愛着を形成するためには認知能力(言語能力など)が発達していることが要因としてあるとしています。
つまり、安定した愛着を示す自閉症児は、そうでない自閉症児と比べると、認知能力が発達しているという研究結果が出ています。
それでは、こうした認知能力が発達している自閉症児とは、どのよう状態を指すのでしょうか?
以下、著書を引用しながら見ていきます。
安定したアタッチメントの子どもは不安定なアタッチメントの子どもよりも、ジョイント・アテンション(共同注意)の要請(例えば、指さしの理解)にはより反応的であり、より頻繁に相手に要求を出し、より大きな言語理解能力を持つことを示した。
書著の内容から、安定した愛着を示す自閉症児は、ジョイント・アテンション(共同注意)などの行動から相手の意図を理解する様子が多くみられ、そして、相手への要求も多いといった特徴があると言えます。
ジョイント・アテンション(共同注意)についての詳細は下記の記事に記載しています。
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自閉症児は、ジョイント・アテンションなど他者の意図をくみ取る行動や、自ら相手に要求することが少ないと言われる中、こうした行動を比較的多くとる自閉症児は安定した愛着を示しやすく、そして、言語理解能力も高いと考えられています。
こうした言語能力の高さは、先天性(本来の特性の強さや知的能力)と環境要因(養育要因)などの相互的要因が影響していると考えられます。
著者自身も、ある程度言語能力が発達しているケースの方が、養育者が子どもの意図をくみ取りやすく、そのため、適切な応答をしやすいことが影響し、言語能力の発達及び、安定した愛着形成に繋がりやすいのだと療育経験を通じて感じます。
しかし、こうした知見は、あくまでも科学的なデータに基づいたものであり、個別のケースをそれぞれ見ていくと、言語発達が遅れていても安定した愛着を形成している場合も多くあると考えます。
実際に、著者の療育経験から重度の自閉症児であったとしても、時間をかけながら安定した愛着形成を築き上げたと感じたお子さんたちは多くおります。
以上、自閉症児との愛着形成は可能か【定型児との違いはあるのか?】について見てきました。
様々な研究結果から、自閉症児においても遅れはするものの安定した愛着形成は可能であり、その中で、認知能力(言語能力)の発達が安定した愛着形成には強く影響していることがわかっています。
私自身、これまで多くの自閉症児と関わってきました。その中には、重度から高機能と言われる子どもまでおります。
もちろん、愛着形成の段階や質はその子に応じて異なると感じています。
その中で大切だと感じたことは、いかに子どもの不安感を軽減し、安心感・安全感を養育者がつくれるかどうかだということです。
私自身、まだまだ未熟ですが、今後も子どもたちの安全基地となれる存在を目指していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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数井みゆき・遠藤和彦(編著)(2007)アタッチメントと臨床領域.ミネルヴァ書房.