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中枢性統合 実行機能 心の理論 自閉症

自閉症の認知機能について-心の理論・中枢性統合・実行機能-

投稿日:2022年2月26日 更新日:

自閉症(自閉スペクトラム症:ASD)には、どのような認知の特徴があるのでしょうか?

著者は、療育現場で自閉症のお子さんや成人の方と接する場面が多くあります。

関わる時に重要なポイントは、目に見える表面上の行動だけで判断しないことです。

例えば、相手の意図をくまずに自分の思いや考えを一方的に話す、全体ではなく細かな部分にとらわれる、限られた時間の中で計画ができないなど、こうしたケースは自閉症の方と接しているとよく起こります。

こうした行動をなぜとるのかというと、行動の背景にある認知機能が定型の方と異なるからだと考えられています。

 

それでは、自閉症の認知機能にはどのような特徴があるのでしょうか?

 

そこで、今回は自閉症の認知機能の特徴について、①心の理論②中枢性統合③実行機能の視点からそれぞれの内容と支援のポイントをお伝えしていこうと思います。

 

 

今回、参考にする資料は、「下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.」です。

 

 

心の理論について

①心の理論

・心の理論について

「心の理論(Theory of Mind)」とは、他者の意図・信念などを読み解く能力であり、ここに障害があると、相手の気持ちや考えを理解することが難しく、他者と適切な関係を築けない、維持できないという困難が生じます。また、自分の気持ちにもうまく気づけないという特徴があります。

 

心の理論を評価する実験として有名なものに「サリーとアンの課題(誤信念課題)」があります。

この実験は、他者が自分と異なる思考をもっていることをはかる実験であり、自閉症児はこの実験での正解率が悪いとされています。

心の理論や誤信念課題の詳細は「自閉症の心の理論について考える」に記載しております。

心の理論を評価する誤信念課題ですが、一次の誤信念課題→二次の誤信念課題と難易度があり、自閉症児は一次の誤信念課題は定型児より遅れて通過しますが、二次誤信念課題の通過が難しいと言われています。

 

心の理論の支援のポイントについて

・支援のポイント

こうした心の理論の障害についての支援としては、そもそも心の理論とは、限られた実験環境でのもののため、仮に心の理論が理解できたとしても、より複雑な生活環境で、実験状況と同様に心の理論を理解できるとは限らないということです。そのため、このことは念頭において支援していくことが必要とされています。

また、心の理論課題を通過しても、定型児とは情報処理の仕方が異なる可能性があり、それだけ情報処理に精神的な負荷がかかっています。そのため、支援においては、情報処理の負荷についても配慮していくことが重要です。

最後に、自己の感情認知の弱さからくる感情制御の難しさや、他者との相互理解の難しさに配慮しつつ「他者の視点取り」や「他者と自己の思考・感情・行動の関連の理解」を支援していくことが必要とされています。

 

中枢性統合について

②中枢性統合

・中枢性統合理論について

中枢性統合理論(Theory of Central Coherence)とは、細部を統合し全体を考慮して、物事を理解する能力のことを言います。自閉症の方は、中枢性統合の能力が弱く、部分にフォーカスし、全体を理解することが難しいとされています。

 

中枢性統合についての事例を踏まえた記事として「自閉症の中枢性統合/全体的統合について考える」を参照して下さい。

 

中枢性統合の支援のポイントについて

・支援のポイント

全体把握が苦手なため、重要ではない箇所に目が行ってしまうことがあります。そのため、重要な部分に注目しやすい工夫や、全体を把握できる工夫をしていくことが必要です。

全体把握が苦手な分、逆に、細部・部分への理解が優れているため、こうした強みを活用していくことが重要です。

 

実行機能について

③実行機能

・実行機能について

実行機能(Executive Function)とは、意思決定をする能力、企画して実行する能力、効果的に行動する能力などの総称を言います。

自閉症の方は、実行機能の障害があるため、指示されなければ実行できなかったり、自発性が低く指示待ちになることが多くあります。また、企画ができず実行もできなかったり、言いっぱなしで言ったことが実行できなかったりもします。

さらに、メタ認知(自らの考えを客観的に捉えること)の能力が高くないので、自分の誤りに気がつくことが難しく、気がついても修正困難で、それが二次的な対人関係の問題に繋がることもあります。

 

実行機能について事例も踏まえた詳細な説明として「自閉症の実行機能について考える」に記載しております。

 

実行機能の支援のポイントについて

・支援のポイント

意思決定の難しさへの支援として、子供の頃から自分で物事を選択する経験を重ねていくこと、その際に、スモールステップで課題を細分化して、少しずつ達成していくことが大切です。

企画して実行することへの支援として、スケジュール化があります。例えば、1日や1週間のスケジュールを作成することで、行動を企画したり、適切に行動を切り替えたり、物事の優先順位をつけられるようになっていきます。行動の切り替えにはタイマーの活用も効果的です。

メタ認知に対しては、二次的な問題に発生しないように、自分がどんな感情を認知しているか、自分の対人関係はどうなのかを振り返る支援が必要です。

以上が自閉症の認知機能の特徴の説明になります。

 

 

自閉症の強みについて

こうして内容を見ると自閉症の方は、苦手な所ばかりという感じもしますが、得意なところも多くあります。

・自閉症の強み

例えば、視覚的な理解、長期記憶(一度覚えたものは忘れない)、細部への気づき、さらに、子どもだと、手順やルールを学ぶこと、暗号解読や語彙記憶などは得意だと言われています。

 

 


今回は自閉症の認知機能について、心の理論、中枢性統合、実行機能の面から説明してきました。

私自身、現場で当事者の方と接していると、こうした認知的特徴に該当する事例は多くあります。そして、こうした特性に配慮した関わりがとても大切だと実感しています。

今後も発達支援の現場での経験を通して、より良い発達理解と発達支援を目指していこうと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

 

下山晴彦(監修)(2018)公認心理師のための「発達障害」講義.北大路書房.

-中枢性統合, 実行機能, 心の理論, 自閉症

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