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自閉症の聴覚過敏について【療育経験を通して考える】

投稿日:2022年11月9日 更新日:

自閉症の人たちの中には、感覚過敏や鈍感さといった感覚の問題が多くみられます。

例えば、大きな物音が苦手、ツルツル・ベタベタなどの特定の触感が苦手、○○の食材は味覚としては苦手などがあります。

 

関連記事:「自閉症の感覚:感覚探求と低登録について考える

関連記事:「自閉症の感覚:感覚過敏と対処方法について考える

 

もちろん、感覚の苦手さは誰にとってもあるかと思います。

一方で、自閉症の人たちの感覚の問題は生活に困難さが生じるレベルとなることもあります。

感覚の問題にも、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、前庭感覚、固有覚など様々なものがあります。

こうした様々な感覚の問題の中でも比較的わかりやすく、かつ、よく見られるものに聴覚過敏があります。

 

それでは、自閉症の人たちの聴覚過敏にはどのような特徴があるのでしょうか?

 

そこで、今回は、自閉症の聴覚過敏について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら考えを深めていきたいと思います。

 

 

今回参照する資料は「熊谷高幸(2017)自閉症と感覚過敏 特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?.新曜社.」です。

 

 

 

自閉症の聴覚過敏について

以下、著書を引用しながら自閉症の聴覚過敏について見ていきます。

一 音に対する感度が高い者が多い。

二 感知した音に対しては、回避、没頭、記憶化、他の音には無視の反応が現れる。

三 これらの反応は本人の中に刷り込まれ、自動再生されやすく、他の人には固執反応として映る。

四 記憶された音刺激は音声活動に結びついてループができやすく、これも固執反応として映る。

 

著書の中では、自閉症の聴覚過敏の特徴を4つ上げています。

以上の4点をまとめると、自閉症の人たちの中には、特定の音に対する感度が強く、その音が記憶に残りやすく、自身の中で再生されやすく、それが固執行動として周囲に映る、ということになります。

聴覚過敏と聞くと、様々な音に過敏さをもっている印象がありますが、今回の著書にもあるように、特定の音への過敏さ、そして、それ以外の音への感度は低いということになります。

私たちは、様々な感覚に注意を向けながら、必要な情報(感覚)とそうでない情報(感覚)の選別をしています。

これを、心理学用語で「選択的注意」といったりもします。

選択的注意の例として代表的なものに、「カクテルパーティー効果」というものがあります。

「カクテルパーティー効果」とは、パーティー席で様々な音がする中で目の前の相手の声に注意を向け理解することができるなど、私たちはある程度の雑音がする環境下においても、必要な情報とそうでない情報とを聞き分けることができるといったことを説明しているものになります。

こうした「選択的注意」がうまく働かずに、特定の情報(感覚)に注意が向いてしまうことが、自閉症の人たちには多いということが言えます。

 

 


それでは次に、自閉症の人たちの聴覚過敏について、著者の療育経験から感じたことをお伝えします。

 

著者の経験談

著者はこれまでの療育現場を通して、様々な自閉症の人たちにと関わってきています。

その中で、自閉症の人たちの多くは聴覚過敏の問題が見られます。

例えば、子どもの泣き声でパニックを起こす、特定の音楽が苦手、人の話し声が多く聞こえる環境が苦手などといったことが非常によく見られると思います。

もちろん、聴覚過敏にも個人差があります。上記の例は、その中でも、周囲から見ても苦手な音の特定がしやすいものだと思います。

そのため、周囲からは理解されにくい中で、本人なりに音への不安や恐怖などと日々

付き合っていることも予想できます。

こうした聴覚過敏の問題は、自閉症の人たちの中で、重度の人たちにより顕著に見られるという印象があります。

重度の自閉症の人たちには、言葉で自分の感覚をうまく伝えることが難しく(認知機能と関連して)、そして、対処方法なども周囲が中心となって環境調整をしていく必要があります。

そのため、表出の仕方も、パニックや癇癪、そして、苦手な音への発声源に対する攻撃行動として現れることがあります。

一方で、知的に平均以上の自閉症の人たちは、年齢が上がり、様々な経験を重ねていく中で、音の過敏さへの問題を言葉で伝えたり、対処方法を自分で見出している人もいます。

しかし、知的に高いだけあり、様々なことができていると、あまり問題視されないというリスクもあるように思います。

また、聴覚過敏でわかりにくいものに、「感覚回避」があります。

これは、例えば、苦手な音がする場所を未然に回避する行動でもありますが、苦手な音の正体をうまく言葉にできずにいると、周囲からは何が不安であるのかの特定が難しいことがあります。

実際に、著者が関わる子どもにもこうした感覚回避行動が見られる子がおり、とにかく「うるさいからヤダ!」が口癖でした。また、感覚の問題はその日の子どもの状態などのよっても受け入れ可能な時とそうでない時があります。

複合的な要因があることからも、特に、感覚回避の問題は、苦手な音の特定がしにくいことがあったり、日によって大丈夫な時とそうでない時があるなど現場にいて難しさを感じます。

そのため、こうした聴覚過敏を含めた、感覚の問題への知識を入れていくことで、これまで説明が曖昧だったものがよりクリアになってきたという実感があります。

 

 


以上、自閉症の聴覚過敏について【療育経験を通して考える】について見てきました。

感覚の問題の難しさは、一人ひとり異なることや、その特徴を言語化しにくいことがあるかと思います。

著者も感覚の問題を考える上で、自分の感覚について知ること、自他の感覚は想像以上に違うこと、そして、感覚に対する知識を入れていくなどが大切だと考えています。

私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も療育経験を通して、子どもの感覚の問題への理解も深めていきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

熊谷高幸(2017)自閉症と感覚過敏 特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?.新曜社.

 

-聴覚過敏, 自閉症

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