自閉症(ASD:自閉症スペクトラム障害)とは、対人・コミュニケーションの困難さやこだわりを主な特徴とした発達障害です。
著者は長年、療育現場を中心に自閉症児・者と関わる機会が多くあります。
自閉症と一言でいっても、それぞれが個性的であり多様性があると感じます。
それでは、自閉症の多様性を規定する要因などはあるのでしょうか?
そこで、今回は、自閉症の特徴について、臨床発達心理士である著者の経験談も交えながら、多様性を規定する要因について考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「東大病院こころの発達診療部(編著)(2022)成人の発達障害の評価と診断―多職種チームで行う診断から支援までー.岩崎学術出版社.」です。
自閉症の特徴について【多様性を規定する要因とは?】
それでは、著書を引用しながら見ていきます。
ASDには、多様性がありますが、「年齢×知的能力障害×自閉症状」の掛け合わせで考えると、どのあたりに位置づけられるのかというのがわかりやすくなります
著書の内容から、自閉症の多様性を規定する要因には、①年齢、②知的能力障害、③自閉症状、の掛け算から考えると理解がしやすいとの記載があります。
著者もこれら3つの関係は非常に深いものだと感じます。
まず、①年齢ですが、これは言葉を獲得する前の段階、言葉を獲得する段階、集団活動が増えていく段階、就労の段階などライフステージによって特徴となる行動に違いが見られます。
例えば、言語獲得前後であれば、定型児と比べ、視線の合いにくさや人に尋ねる指差しが少ないこと(叙述の指差し)などが特徴としてあります。
また、集団活動が増えていくにつれて、会話のやり取りも一方的なものであったり(自分の興味のあることを中心に話す)、相手の意図をくみ取ることの難しさなど、集団に合わせて動く難しさが出てきます。
就労の段階になると、組織の暗黙のルールの理解の難しさや、マルチタスクな業務の遂行の難しさなどが出てきます。
このように、年齢によって特徴となる行動が変化していく所もあります。
著者の経験からも、上記の特徴は少なからず行動面で見られるという印象があります。
次に、②知的能力障害ですが、自閉症の中で知的障害を併存しているケースも多く見られます。
知的レベルによっても、状態像は非常に変わってくるという実感があります。
例えば、知的に重度な自閉症児は、視覚的な情報理解が優位というイメージがあり、言葉で伝えるよりも、絵カードなどを使用した方が、理解しやすいという感じがします。
一方、知的レベルが高い自閉症児であると、辞典や図鑑など〝○○博士“と言われるほど、知識が膨大という子もいます。また、言葉で論理的に高度な内容のことを伝えてくる子もいます。
最後に、③自閉症状ですが、自閉症スペクトラム障害という名称が示しているように、自閉症の強さもスペクトラム(連続体)であり、強弱があるということです。
つまり、自閉症の特徴である、対人・コミュニケーションの困難さやこだわりも人によって強弱があるということです。
著者の周りでも、〝若干、こだわりが強いかも?“という子から、〝非常にこだわりが強い”など自閉症状も多様であると感じます。
それでは引き続き、著書を引用しながら、3つの関係について見ていきます。
知的に遅れがあって自閉症状が重度であると、年齢が上がっていっても状態像が一定の範囲に収まりやすい傾向があります。一方、知的に遅れがなくて自閉症状が軽度であると、多様な状態像をとり、しかも年齢が上がって個々人で異なる経験をする中でますます多様になっていきます。
著書の内容から、以下の2つのことが言えます。
②知的能力障害:あり×③自閉症状:重度→①年齢が変化しても状態像が大きくは変化しない傾向がある
②知的能力障害:なし×③自閉症状:軽度→①年齢が変化すると状態像が多様化していく傾向がある
著者もこの内容に関しては、実感できる部分があります。
つまり、知的障害や自閉症状の程度が軽微な方が、その後の成長・発達に伴う経験により個々の違いがよりでてくるという感じがします。
もちろん、こうした内容はどちらの方が良い・悪いという話ではありません。
あくまでも、傾向があるという話です。
大切なことは、こうした傾向を踏まえた、本人への特性理解だと感じます。
状態像をより正確に、その後の発達も予測しながら把握していくことで、一人ひとりに応じた配慮や支援の質を向上させていくことが大切だと考えます。
そのためには、一人ひとりの違いを深く理解していくための経験の量と質や知識の量と質が大切になってきます。
自閉症という多様性を考えても一人ひとり様々な特徴があり、辿っていく道筋もまた非常に多様性があります。
以上、自閉症の特徴について【多様性を規定する要因とは?】について見てきました。
最後に、付け加えておきたいことは、自閉症という以前にその人のパーソナリティがあります。
自閉症という特性は、その人の部分であり、全体ではないという理解もまたとても重要だと感じます。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も自閉症を含め、療育現場で関わる一人ひとりの違いを理解していくために、経験と知識から多くのことを学んでいきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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東大病院こころの発達診療部(編著)(2022)成人の発達障害の評価と診断―多職種チームで行う診断から支援までー.岩崎学術出版社.