
自閉症(自閉症スペクトラム障害)は、他者の感情の汲み取りや理解が難しいとされています。
そもそも、自閉症の人たちは、他者と視線を共有することが難しく、それが感情の理解の困難さにつながり、後に獲得する「心の理論」の発達に影響すると考えられています。
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それでは、自閉症の人たちは他者の感情の理解ができないのでしょうか?
著者は長年の療育での経験から子どもから大人も含め様々な自閉症の人たちと接してきました。
そうした中で、自閉症の人たちは感情理解ができないということではなく、理解のプロセスが独特といった印象を受けました。
もちろん、自閉症の人たちもその中で多様なので感情理解においても状態像に幅があると思います。
一方で、自閉症の人たちの独特の感情理解の仕方があります。
そこで、今回は自閉症の人たちの感情理解について説明していきながら、著者が療育現場で子どもたちと接していく中で大切にしている点も併せてお伝えします。
※この記事は、臨床発達心理士として10年以上療育現場に携わり、修士号(教育学・心理学)を有する筆者が執筆しています。
今回参照する資料は、「別府哲・小島道正(編)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.」です。
自閉症の感情理解について
以下に著書の内容を引用します。
自閉症児も日常生活で他者とまったくかかわらずに過ごすことは不可能なため、生活のなかで代償的な方略(代償方略)を身につけていく。(略)最も代表的なものは言語的なラベリングを行うことで感情を理解する方法である。(略)本来は感情刺激を知覚して、そこから情動的意味を抜き出し他者の感情を判断するというプロセスをたどるはずが、情動的意味を抜き出さずに言語にカテゴリー化することで他者の感情を判断するというプロセスを経ていると考えられる。
著者の内容から、自閉症児の感情理解は定型児と比較すると理解の方略が異なるということになります。
定型児であれば、なんとなくその場の様子や雰囲気なども含め他者の表情などの行動面から直感的に感情を読み取ることができます。
自閉症児の場合には、こうした直感的理解が難しく、その分、その時の相手の感情に合う感情語(言語)に置き換えることで理解しているという方略をとっているということになります。
そのため、定型児が刻々と変化する人の感情をなんとなく直感的に読み取っているのに対して、自閉症児の場合は言語に置き換えるというプロセスが入るため、状況理解が少し遅れるということになります。
それでは次に、こうした自閉症の方に対して著者が療育で何を大切にしているのかをお伝えします。
著者のコメント
自閉症児のAさんは、他者の感情の理解が独特です。
なかなか相手の感情をくみ取ることが難しいため、相手が例え嫌がっていたとしても、自分の思いを一方的に伝えてたり、話し続けたりします。
我々スタッフは、相手がどのような気持ちでいるのか、なぜやめて欲しいのかを言語化して伝えるようにしています。
こうして大人がAさんにとってわかりやすい言葉で伝えていくことで、相手がどういった気持ちでいるのかをAさんなりに言葉で解釈する様子が増えてきました。
Aさんのようなケースは、自閉症児には多くみられます
感情にも様々なレベルがあります。
喜びや怒りや悲しみといった比較的わかりやすい感情は自閉症児も理解しやすいものです。
しかし、その感情がなぜ生じたのかという状況や因果関係になるとより高度になり、こうした感情理解には、多くのエネルギーを使うことになります。
私自身、自閉症の感情理解のメカニズムを学んでいきながら、療育現場で子どもたちが相手の感情や気持ちの理解を深めていけるように日々の丁寧な関わりを大切にしていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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別府哲・小島道正(編)(2010)「自尊心」を大切にした高機能自閉症の理解と支援.有斐閣選書.