自閉症スペクトラム障害の人たちは、すべての精神障害(うつ、強迫性、解離、摂食障害など)が併存する可能性があると言われています。
二次障害とはもともとの障害に加えて、環境への不適応状態が長期化することによって生じる症状のことを言います。
私の現場など発達障害に携わる支援の重要性として、二次障害の予防という観点があります。つまり、発達の特性に応じた対応や配慮をしていくことで二次障害を未然に防ぐという考え方です。
そして、二次障害が発症したケースが、実際に私がこれまで経験した中でも支援や対応などが最も難しくなると痛感しています。ですので、できるだけ早期に対応していくことが重要となります。そして、二次障害にも様々な症状やその症状までの発症のプロセスは様々あるかと思います。
今回は自閉症の二次障害について、過剰なノルマ化と意欲低下をキーワードにして考えていきたいと思います。
さらに二次障害への過程の理解を深めていくために、私の周りであった実体験をお伝えしていこうと思います。
今回参考にする資料は「本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.」を参照していきたいと思います。
自閉症の二次障害(過剰なノルマ化・意欲低下)について
自閉症の人たちは、社会・コミュニケーションの障害とこだわり行動といった2つの特性があります。
自閉症のこだわり行動とは、手順や物の配置、道順など自分なりのルールがあり、その状態を常に維持しようというものです。ある意味、変化を嫌う行動でもあります。
こうしたこだわり行動が過剰に働くことで精神的に変調をきたすことがあります。
自閉スペクトラムの人たちはこだわりやすいという特性があります。これは言い方を変えると、自分でノルマを勝手につくって、それを過剰に頑張りやすいということです。これを「過剰なノルマ化」と言うことにします。
不適切な環境に長くさらされていると、この「過剰なノルマ化」が増幅します。同時に、つらいことが積さなるとことによって、「意欲低下」が起きます。もともと「過剰なノルマ化」の強い人に「意欲低下」が起こることで、そこに葛藤が生じます。この葛藤がどのような方向に向くかによって、さまざまな精神的な変調が生じます。
著者の体験談
次に今回取り上げる事例として、自閉症の成人男性Aさんについて「過剰なノルマ化」と「意欲低下」をキーワードとして両者の葛藤が精神疾患に至ったケースについてお伝えしていきます。
Aさんには、こだわりと思われる考えや行動がいくつかありました。
その中には、「とにかく考えずに行動する」、「とにかくやってみる」、「自分の力でやってみる」といった内容であり、一見すると非常に前向きな姿勢に感じられ、これはこだわりなのか?悪いものなのか?と感じた方も少なからずいるのではないかと思います。当時の私もその一人でした。
しかし、これがこだわりの一種であり、長期的なスパンでみるとうまくいくことが非常に難しいことが後々わかってきました。
当時のAさんは、とにかく実行主義で新しいアルバイトなど、様々な業務に挑戦していました。
例えうまくいかなくとも、次の場所を探し新たな挑戦を始めました。その都度、Aさんにとっては新しい気づきや新しい人たちとの出会いがあったかと思います。
当時の私は勢いのあるこの姿により良い展望を期待せずにはいられませんでした(かなりあまく見ていた気がします)。
少し気になったこととして、Aさんが何かにつまずきまた新たな環境を求める際に、なぜ前のところがうまくいかなかったのかなどの内容をあまり聞いたことがなく、とにかくバッサリとその環境を捨て、次に移るというイメージでした。
そして、さらに気になったのは「自分の力でやってみる」という背景には他人に頼ることをしないといったことが多く含まれていました。
ですので、誰かに悩みや相談などをしていた様子はほとんどなく、私がAさんに語り掛けても(何度もありました)、「とにかくやってみる」に集約される感じでした。
あまり自分の本心を話そうとしない様子をみると(後にうまく言語化できないことを知った)、一見すると考えがあるようにも印象として見えてしまっていました。
こうしたことを何年かに渡り続けていると、本人の中でどうしてもうまくいかない状態が続き、「意欲低下」が見られるようになりました。
このような状態になるだいぶ前から、Aさんと相談する機会を意識的に作りましたが、「過剰なノルマ化」なのか、いつもの思考回路(とにかく自分の力でやってみるなど)にそっての発言と行動以外の助言は入りにくい状態でした。
その後、Aさんはうつと診断されます。当時していたアルバイトもすべてがうまくいかなくなり破綻した状態になりました。
ちなみに今のAさんは、うつ症状も改善し、自分がやりたいことも見つかり、日々を前向きに生きています!
こうした精神的不調からの回復を果たせたのも、周囲に理解者が増え、Aさん自身が人に頼ること、相談すること、そして、自分の特性理解とその中でやれることなどをしっかりと考えるようになったからだと思います。
「過剰なノルマ化」は油断をすると、環境との不適合で「意欲低下」に繋がり、どんどん悪循環に陥る可能性があります。
私が自閉症の方にできることは限られているかと思いますが、自閉症という発達の特性をしっかりと理解していきながら、その人にあった環境を調整していくことが大切だと思っています。
今後も二次障害への予防という視点を大切に、現場でできることを考え実行していきたいと思います。
本田秀夫(2017)自閉スペクトラム症の理解と支援.星和書店.