療育現場で発達に躓きの子どもたちと接していると、現在の様子だけでは状態把握が難しいことが多くあります。
また、療育の成果を見てもある程度の期間からの考察が必要になってきます。
こうした時間軸に沿って人を理解する上で重要な視点に「発達的視点」があります。
「発達的視点」に重きをおいた学問領域に「臨床発達心理学」があります。
今回は、「臨床発達心理学」について説明していきながら、臨床発達心理士である著者が療育経験を通して考える臨床発達心理学の重要性についてお伝えします。
今回参考にする資料は、「麻生武・浜田寿美男(編)(2005)よくわかる臨床発達心理学第3版.ミネルヴァ書房.」です。
「臨床発達心理学」とは?
臨床発達心理学は「人の生涯にわたる生物・心理・社会的側面からなる生活文脈の場で起こり得る、さまざまな兆候・問題・障害を包含した時間的・発生的な過程から、人間の心的機構の解明を行い、また、そのことを通して、具体的な発達支援の方法論の検討を行う人間発達の領域」と定義
著書の引用では上記の定義になっています。
大切な視点として、時間軸の視点+個体から環境面までの相互性から人を理解すること、そして理解をもとに支援するという視点があります。
時間軸の理解として、生まれた時期から高齢期までの様々なライフステージの特徴を理解することにあります。
こうした時間軸の発達を考えた時に、能力の発達があります。具体的には、感覚・運動の発達、認知の発達、言語の発達、社会・情動の発達に細分化されます。
こうした細分化された領域への理解を深め、支援方法を考えることも臨床発達心理学では大切な視点になります。また、様々な障害像への理解も併せて大切になります。
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そして、こうした様々な個体の能力が周囲との環境からどのような影響を受けるのか、個体と環境が相互作用しどのように発達していくのかという、環境面・社会的な側面の理解も大切です。
環境面・社会的な側面も家族といった単位から、現在の時代といった広い単位まで含まれます。
そして、アセスメントは、理解のためのアセスメント、支援のためのアセスメントに大別されます。
著書のコメント
発達的視点に重きを置いた「臨床発達心理学」ですが、ここから先は臨床発達心理士である著者が療育経験を通して考える、臨床発達心理学の重要性について述べていきます。
1.時間軸に対する理解
まず何と言っても大切なのは時間軸の理解です。
臨床発達心理学は、発達心理学の拡張でもあるため、発達心理学を基盤としています。
発達心理学では、乳幼児期~高齢期まで研究対象となるため、様々なライフステージの発達の特徴が考察されています。
こうした時間軸への理解を深めることで、「現在」の状態だけに捉われずに、過去↔現在↔未来が相互に影響を与えているという時間軸での広い枠で子どもたちの状態を理解しよう・支援していこうとする視点が身に付いていきます。
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さらに、何歳で○○できるようになるという観点から、○○できるようになるにはどのようなメカニズムが働いているのか?という問いも発生します。
例えば、ことばが話せるようになるにはどのようなプロセスが、メカニズムが必要であるのか?という時間軸への問いが出てくるようになります。
こうしたメカニズムは次の「2.様々な能力の発達に関する理解」で述べる話に繋がってきます。
療育では、子どもたちの状態を過去↔現在↔未来といった時間軸をもって理解し支援することをより意識できるようになります。
そして、時間軸といった発達的視点を持つことで、発達のメカニズムを考える習慣が身に付いていきます。
2.様々な能力の発達に関する理解
先ほどことばが話せるようになるメカニズムは?という問いが出てきましたが、こうした問いに応えるには様々な能力の発達の理解が必要になってきます。
例えば、ことばを話せるようになるには、発生器官の発達や、音声を感知する能力・聞き分ける能力などに始まり、それが徐々に高次化していくと単語だけではなく、文章を操作できる力が身に付いていきます。
こうした能力には、言語発達だけではなく、認知の発達や、対人を意識した社会性の発達も関与してきます。
こうした能力の発達により、ことばはより様々な文脈で操作可能になり、それは、辞書的な意味の理解であったり、自他の感情理解などに応用されるようになります。
このように、ことばを話せるようになる、ことばを話す能力がより高度に発達していく過程には、様々な能力の発達が相互に関連していることが推測できます。
様々な能力の発達の関連を理解することは、1人ひとりの発達の様子をより細かく理解することに繋がります。
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療育では、発達に躓きのあるお子さんたちが多くいるため、様々な能力の発達を詳細に理解する力は、子どもたち1人ひとりの多様な発達への理解に繋がっていきます。
3.環境的側面への理解
これまで1と2では個人の発達の視点に重きを置いていますが、こうした個人の発達はもちろん一人で勝手に育つわけではありません。
個人(個体)の発達は環境からの影響を大きく受けます。
療育では、子どもたちの理解を目の前で関わっているフィールドだけではなく、様々な環境からの影響を受けているとの認識から、環境面のアセスメントなど情報収集の必要性・重要性を持てるようになります。
「臨床発達心理学」は、非常に様々な視点が入り込んだ研究領域です。
そのため、活用方法も多彩であると思います。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も臨床発達心理学への理解を深めていきながら、療育現場での活用方法などを試行錯誤していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
参考となる書籍の紹介は以下です。
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麻生武・浜田寿美男(編)(2005)よくわかる臨床発達心理学第3版.ミネルヴァ書房.