知能検査で代表的なものに、ウェクスラー式知能検査(WISC)があります。
WISCで測定できるものに、言語理解、知覚統合(知覚推理)、ワーキングメモリー、処理速度の4つの群指数と、これらすべての合計得点から算出される全検査IQがあります。
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4つの群指数の中で、処理速度とは、視覚情報を早く正確に処理する力になります。
それでは、処理速度は他にどのような能力と関連があるのでしょうか?
また、そこからどのようことが分かるのでしょうか?
そこで、今回は、知能検査から見た処理速度について、実行機能との関連性について考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岡田尊司(2022)発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法.SB新書.」です。
知能検査から見た処理速度について【実行機能との関連】
以下、著書を引用しながら見ていきます。
通常の発達検査で、この実行機能の指標となっているのが、処理速度である。
処理速度は、逐次処理と同時処理の成績から計算されるが、逐次処理は「注意の維持」に、同時処理は「注意の配分」に、それぞれ関係が深い。処理速度は、注意の維持が弱くても、注意の配分が弱くても、低下することになる。
ADHDの人では、とくに注意の維持が低下しやすく、ASDの人では、注意の配分や切り替えが苦手だ。
著書にあるように、処理速度は実行機能と関連があるとされています。
実行機能とは、簡単にいうと目標に向けて計画を立てて実行する力のことです。
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この実行機能と処理速度がどのように関連しているかについては、処理速度には注意の維持や配分と言ったいわゆる〝注意力“が重要な指標となっていることが考えられます。
実行機能は物事をやり遂げる力ですので、物事をやり遂げるためには、目標とそれにおけるプロセスに対して注意を維持する必要があります。
例えば、算数の問題を3問やり遂げるためには、算数の問題に注意を向ける(向け続ける)必要があります。
このように、処理速度には、〝注意力“が必要となり、実行機能においても、〝注意力”を要するため、両者の関連性が強いことが考えられます。
さらに著書では、〝注意力“の点で、ASDとADHDには違いがあるとしています。
ASDでは、注意の配分の苦手さがあります。
これは、マルチタスクなど複数の情報に同時に目を向けながら作業を進めることでもあります。
ASDは、注意の配分に加え、注意の維持の問題も見られることが多くあります。
これは、そもそもの情報処理がゆっくりであったり、一つ一つの作業の丁寧さなどが影響しています。
一方、ADHDでは、注意の維持の苦手さがあります。
ADHDの人の中には、処理速度自体は速い人もいます。しかし、途中で飽きたり、他の事に注意が移ることで、処理速度の低下を招いてしまうことがあります。
そのため、本人が課題や作業内容に関して興味関心があるか、そして集中して作業できる環境かどうかが処理速度に影響してくることが考えられます。
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最後に注意点として、知能検査(WISC)によって測定できる処理速度には、情報処理過程といった、逐次処理(注意の維持)や同時処理(注意の配分)などは含まれておりません。
情報処理過程の測定には、DN-CASといった認知評価システムがよく活用されています。
以上、知能検査から見た処理速度について【実行機能との関連】について見てきました。
処理速度は、就労などでとても重要になる能力だと考えられています。
つまり、必要な課題を時間内に終えるためには、課題に対して、〝注意力“を活用しある程度の速さと正確さで作業をやり遂げる力が必要となるからです。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も検査からわかること、検査で測る指標が他の能力とどのような関連性があるのかなどについて考えを深めていきながら、療育現場にその知見を応用していきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
岡田尊司(2022)発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法.SB新書.