知能検査で代表的なものに、ウェクスラー式知能検査(WISC)があります。
WISCで測定できるものに、言語理解、知覚統合(知覚推理)、ワーキングメモリ、処理速度の4つの群指数と、これらすべての合計得点から算出される全検査IQがあります。
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4つの群指数の中で、ワーキングメモリとは、作動記憶とも呼ばれ、聞いた情報を一時的に記憶に保持し、その情報を操作する力なります。
例えば、相手の話の内容を聞きながら、その内容を頭で整理して、相手に自分の考えを伝えるなど非常に多くの場面で活用しています。
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ワーキングメモリは学習障害との関連性が強いと言われています。
それでは、ワーキングメモリと学習障害にはどのような関連性があるのでしょうか?
そこで、今回は、知能検査から見たワーキングメモリについて、学習障害との関連性について考えを深めていきたいと思います。
今回参照する資料は「岡田尊司(2022)発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法.SB新書.」です。
知能検査から見たワーキングメモリについて【学習障害との関連性】
以下著書を引用しながら見ていきます。
学習障害では、言語理解やワーキングメモリが低く、処理速度が高いというパターンを示しやすい。
学習障害には、さまざまな能力の課題が絡み、一つの能力だけでは論じられないが、とりわけ学習障害と関係が深いと考えられているのが言語理解とワーキングメモリ(作動記憶)だ。とりわけワーキングメモリが、よりベースの問題に関係していることが多い。
著書の内容から、学習障害の中心的な課題は、ワーキングメモリである可能性が高いことが示唆されています。
例えば、長文読解を例に考えてみましょう。
長文読解に必要な重要なものは、読んだ内容を一時的に記憶に保持しながら、読みを続けていき、ストーリーを自分の中で記憶し整理していく力になります。
学習障害は、そもそも文字を音声に変換することに苦手さがあります。
〝赤“という文字を〝あか”という音声に変換することがスムーズにいかないということです。
さらに、言語理解にも難があるため、音声変換できたものの意味を理解するにも苦労を要します。
つまり、文字から意味を理解することの困難さです(〝赤“→色のイメージ・赤のものをイメージするなど)。
こうした文字→音声への変換、そして意味理解(言語理解)が可能となっても、次にワーキングメモリといった課題が影響し、読んだ内容(音声変換した内容)を情報として記憶に保持する困難さが出てきます。
例えば、Aさんは○時に○○さんと会い、○○の話をして、○○と感じた。次に、Aさんは、・・・・、といったように、話の内容を理解するには、一時的な記憶の保持が必要不可欠となります。つまり、ワーキングメモリが重要だということです。
もちろん、ワーキングメモリの苦手さには、音声変換や意味理解がスムーズにいかないということが影響していることも考えられます。
音声変換や意味理解がスムーズにいくということは、それだけ自動化できる情報処理が増えるので、記憶への負荷が少なくります。
このように、ワーキングメモリと学習障害には強い関連性があることが考えられています。
一方、学習障害には、処理速度など得意なパターンも見られます。
そのため、単純作業や熟練によって技術を向上させることができるものから得意なこと、仕事に繋がるものが出てくる可能性があります。
以上、知能検査から見たワーキングメモリについて【学習障害との関連性】について見てきました。
今回は、ワーキングメモリと学習障害との関連性を中心に話を進めてきましたが、学習障害の診断には、医学的診断基準や苦手さを特定するための様々な検査があります。
ワーキングメモリが低いから、学習障害というわけではなく、あくまでも傾向・関連性があるということです。
私自身、まだまだ未熟ではありますが、今後も知能検査から分かることについて、検査の限界も含め学びを深めていきたいと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
岡田尊司(2022)発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法.SB新書.